−2月12日・AM9:00−
「有休?」
リキッドから差し出された休暇願の用紙を見て、ハーレムは眉根を寄せた。
休暇願の名義は、Gである。
「別に構わないが…なんであいつ、自分で出しに来ないんだ?」
「いや、3日間隊長の顔見られないと思うと泣いちゃうかもしれないからって…」
ハーレムは、頭を抱え込んだ。
「…リキッド」
「は?」
「…今度あいつから預かるのは、退職願にしてくれ…」
−2月12日・PM3:00−
Gは自室で大鍋を掻き回していた。
部屋中に漂うのは、融けたチョコレートの香り。
甘さは控えて、香りを添えて。ブランデーに合う程度の、ビターテイストに仕上げる。
指先にとり、舐めてみる。会心の味わいに、笑みがこぼれる。
「これなら、隊長に気に入ってもらえる…」
−2月14日・AM10:30−
「ハーレム様、お届け物でーーす」
ガンマ団内メール便係が、4人がかりでばかでかい荷物を運んできた。
「…ん?兵器注文なんぞしとらんぞ」
「兵器班からじゃないですよ。部隊内部からです」
よく見ると、箱には「Happy Birthday&Happy
Valentine's Day」の文字がある。
…ものすごくイヤな予感がした。
「これって…受け取り拒否はできんか?」
「勘弁してくださいよ。すごく重いんすから…あ、ここサインお願いします」
差し出された受領票に、サインをする。さらにイヤな予感は高まる。
メール係が去り、残された荷物をどうしたもんかと思案した結果、ハーレムは机上の呼び出しボタンを押した。
「マーカー、悪いが俺の部屋まで来てくれないか?」
−2月14日・AM11:00−
「隊長、遅くなりました」
マーカーが、部屋に入ってきて、荷物の前で足を止めた。
「…なんですか、これは…?」
「今朝届いたんだが、なんかイヤな予感がしてな…それでおまえを呼んだ」
「イヤな予感…?」
「とりあえず、開けるぞ」
扉状になっている箱の前面を、ハーレムは引き開けた。
…その中は、イタリアルネッサンスの世界だった。
ヴィーナスの誕生。あの名画が、箱の中に再現されている。
問題は、画面の中央にあった。貝殻から生まれるチョコレートの彫像のヴィーナス。身長が2メートル以上あって、異様にごつい…
「マーカー」
顔色ひとつ変えずに、ハーレムはマーカーを促した。
「はい」
画面の中央めがけて、炎が走った。
−2月15日・AM9:00−
「有休延長?」
またもやリキッドから、Gの休暇願が出された。
理由欄に「火傷治療の為」とある。
ハーレムは、深くため息をつき、休暇願を未決書類箱に放り込んだ。
Fin.