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2. 倉田佐祐理、困惑する「あははーっ。」 だらだらと冷や汗を垂らしながらも笑顔を崩さない佐祐理。もし第三者がこのやり取りを見ていたならば、きっと佐祐理をさすがだと誉めるであろう。それほどまでに女の子たちの攻撃は凄まじかった。 実は香里の携帯電話から佐祐理に電話したところ、佐祐理には祐一からの連絡がきていたことが判明したのだ。しかも単なる連絡ではなく、何か頼み事もあったのだと言う。 そこで香里は、よりにもよって先輩である筈の佐祐理を百花屋に呼びつけたのであった。 最初のうちこそ周囲には他の客が居た百花屋ではあるが、女の子たちの論戦の凄まじさに、次々と逃げ去ってしまっていた。いまや店内に残るのは、ウエイトレスと店長だけである。 「いきなり証言拒否はよくないと思います!」 「佐祐理さん、紅生姜の刑だよ〜。」 「そういうこと言う佐祐理さん、嫌いです!」 「そんな酷なことはないでしょう。」 「……………」 怒る香里、泣く名雪、いじける栞、冷静な美汐、そして無言の舞。 既に百花屋への出入り禁止の瀬戸際にある事にも気づかず、女の子たちは佐祐理を必死に問い詰めた。 「本当にごめんなさい。佐祐理は詳しいことは何も存じませんし、祐一さんからお願いされた内容も申し上げられないんですーっ。」 ひたすら謝り続ける佐祐理。 色とりどりのパフェやケーキをはさんで対峙する在校生一同プラス舞。 困ったことに、祐一は頼みごとの内容を誰にも話さないようにと、佐祐理に約束させていた。そのため佐祐理は、こうして美汐たちに問い詰められながらも、必死でそれを隠しているのだ。 さらに驚いたことに、佐祐理は舞にも事情を秘密にしているのである。この二人はいっしょに同居しているほど仲が良いのだが、佐祐理の心の中にある祐一と舞の天秤は、今現在祐一の側に傾いているらしい。 「ごめんね、舞。こればかりは祐一さんに話しちゃ駄目って言われたの。」 「……………」 困ったような表情を浮かべる舞。だが、舞は佐祐理の顔と在校生たちの顔とをしばらく見比べた挙句、がっくりと肩を落としてこう言った。 「……佐祐理のこと、嫌いじゃないから。」 寂しそうに言う舞。どうやら佐祐理に押し切られてしまったようだ。 「祐一さんが戻ってきたら、きっと埋め合わせはするからね? ね?」 舞に抱き付くようにして慰める佐祐理。しょんぼりとうなずく舞。 しかし納得いかないのは美汐たち在校生一同である。佐祐理に唯一の手がかりを隠されてしまったのでは、祐一を探そうとしても途方に暮れるばかりだ。思案顔で考え込む女の子たち。 やがて美汐はずい、と身を乗り出すようにして言った。 「佐祐理先輩、先輩が祐一さんとの約束を守ろうとする気持ちは当然だと思います。でも先輩は、私たちが心配する気持ちもわかるはずです。」 「あははーっ、美汐さん、痛いところを突いて来ますね。」 「では何かヒントだけでも頂けませんか?」 必死に佐祐理に迫る美汐。 だが佐祐理も折れるわけにはいかない。 「実は佐祐理も祐一さんに色々聞いてみたんです。」 佐祐理の顔から笑顔が消え、とても寂しそうな顔になった。どうやら佐祐理も美汐たちと同じように、祐一のことが心配なのだろう。 「でも、祐一さんは私たちのために何も教えないんだ、とおっしゃるばかりなんです。知れば必ず不幸がもたらされると。」 「ど、どう言うことなんですかっ? 祐一さんはやはり何かの事件に巻き込まれているんですかっ?!」 栞が血相変えて尋ねる。他の女の子たちも心配そうな表情になる。 対する佐祐理はふるふると首を振った。 「祐一さんは、そう言うことでは全然ない、とおっしゃっていました。危険なことは何もないし、会おうと思えばいつでも会える。それどころか、帰ろうと思えばいつでも帰る事ができる、と。」 「ますます訳がわかりませんね。」 少し苛ついたような声で香里が言う。これだけはぐらかされれば無理もない。 「私が聞いたときは、だいたい1週間か2週間くらいしたら戻る、その間は定期的に連絡もする、という事だったんですが……」 「北川君も同じこと言ってたね。」 名雪が言う。 「はい、それは佐祐理も聞きました。もう少し時間がたてば、いつ頃戻れるかはっきりする、とも。」 「他には何か言ってませんでしたか?」 栞が聞く。 佐祐理は少し考え込んだ末、こう答えた。 「祐一さんから何を頼まれたのかはお教えできませんが、佐祐理は祐一さんが何かとても大切なことをしようとしているような印象を受けました。」 ぐるりと女の子たちを見回す佐祐理。その目が舞のところでぴたりと止まる。 「多分それは、ここにいる全員が以前体験したような、人間としてとても大切なことなんだろうと思います。」 |
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