暑中見舞いSS
うちわでぱたぱた
「暑いっ」
「……ホントに暑いですね」
ここの所の猛暑でフル稼働していた所為で、相沢さんのお宅のクーラーが全滅。
そんなわけで、相沢さんと真琴は私の家に避難して来ていたのですが、相沢さんのお宅に続き、私の家のクーラーまで壊れてしまいました。
この時期、電気屋さんはそのために大忙しで、なかなか修理に来てくれないと言った現状なのです。
「ふふふ〜ん〜♪」
そんな中、真琴一人だけ涼しげな顔です。
「……なぁ、真琴……せめて回さないか?」
「やだっ、真琴が勝ったんだからねー」
そう言ってまた漫画に視線を落とし、風でぺらぺらと捲れてしまうのを少し気にしながらも、そのまま読み続けています。
「……ですから、最初から回転にして皆で使えばよかったんですよ」
違う部屋から扇風機を持ってきたのですが、相沢さんの提案で、じゃんけんで勝った人が独り占めに出来る、なんて事を言い出したものですから。
「むぅ、それはそうなのだが……勝った時は涼しさ独り占めって感じで、楽しいだろ?」
「……負けたら、地獄じゃないですか」
「そうなんだが……やっぱ、ギャンブルは漢の浪漫なんだ」
「……私と真琴は女の子なんですが?」
「うー、ダメだ……すまん、天野、脱ぐぞ、俺」
そう言って、突然着ていたTシャツを脱ぎはじめます。
「は、はぅ、あ、相沢さんっ、お、女の子の前で、そ、それはないと思うのですがっ(照)」
「女の子っても真琴と天野じゃん……ふぅ、ちょっとはマシか」
はぅ、上半身裸です。
程よく引き締まった身体、しっとりと滲んだ汗が、その…せ、せくしーです(赤)。
「んー、でもやっぱ暑いな……って、天野、そんなにじろじろと見るもんじゃないぞ」
にやにやとした笑みを顔に浮かべながら、脱いだTシャツを軽く畳んでいます。
「は、はぅ……み、見てませんっ(赤)」
はぅ……み、見ているとこを見られてしまいました(泣)。
だ、だって仕方ないじゃないですかっ。
男の人が好きな女性のは、裸を見てみたいって思う気持ちと同じ様に、女の子だって好きな人の身体なら見てみたいモノなんですっ。
こ、これは私がその、す、少しエッチとか…そ、そう言うのに関係なくなんですっ。
そうなんですってばっ、は、はぅ(激赤)。
「しくしく、天野に視姦されちまった、もうお婿に行けないぞ」
両手で、肌を隠すように肩を抱いて、演技くさく泣いています。
「あ、相沢さんっ」
「はは、冗談だよ……それより天野、一枚でも脱ぐと全然違うぞ」
「い、いえ……その、わ、私はいいです」
はぅ、この暑さの中、少しだけそれも魅力的ですが、今日の服装の場合、一枚脱げば下着なんです。
その幾度か……か、身体を重ねたコトがあると言っても、さ、さすがにその、……て、抵抗あります(激赤)。
「むぅ、それじゃあ俺は見られ損か?」
「あ、相沢さんが勝手に脱いだのが悪いんですよ」
しかも、突然。
「ま、そりゃそーだけど」
ぱたぱたと手で身体を扇ぎ、軽く笑いながら答えます。
……一階の居間を探せば、団扇ぐらいならあったかもしれません。
「あの、相沢さん」
「んー?」
「少しだけ待っててください、今いいモノ持ってきますから」
「ん、ああ」
一階の居間を、軽く見渡します。
確か、いつもこの辺りに置いてあったような気が……。
あ、ありました。
テレビ台の横の棚から、内輪を取りだします。
「それにしても、やっぱり暑いですね……」
こうして、少し探し物をしているだけでもじんわりと汗が滲んできます。
……。
あ、えと、その……い、一枚でも脱ぐと違うそうですし。
……。
あ、いえっ、さすがに下着姿で相沢さんの前に出るわけもいきませんから、その……薄手のYシャツに着替えるだけですが。
えっと、部屋に帰るとまた二度手間になってしまいますので、干してある洗濯物を見てみます。
この暑さですから、もう乾いているでしょうし。
洗濯物を取り込んで、その中から相沢さんの前で着ていても恥ずかしくないモノを選びます。
白の薄手のYシャツに赤のフレアスカート。
シンプルなのであまり可愛いとは言えませんが、これなら相沢さんに見られても恥ずかしくないですね。
脱衣かごに、着ていた服を脱ぎ、持って来た服に着替えます。
……。
…。
つ、ついでですから、下着も替えましょうか。
「そのっ、べ、別にっ、ナニかを期待しているわけではありませんがっ(激赤)」
お、女の子の身嗜みなんですっ。
部屋に戻ってくると、真琴は相変わらず扇風機を独り占めして、横になって漫画を読んでいます。
相沢さんは、ベッドの淵に凭れかかる様にして座り、漫画を読んでいるのですが、やはり暑いのが我慢できないみたいで、ぱたぱたと手で扇いでいます。
「おまたせしました」
……その、ついでですから、やっぱり替えて来ました(赤)。
やはり、汗臭いよりはいいんですから。
「んー、お、なんだ? 着替えてきたのか?」
私の言葉に、視線を私の方に向けて、頭から爪先まで一通り流し見ています。
「はい、その……やはりさっきの服だと少し暑いので」
「ふーん、ま、そだな……けど、なんか可愛いな」
「そ、そうですか?」
さっきまでの服の方が私としてはお気に入りで、どちらかと言うと可愛いと思うのですが。
「ああ、いつも着てるのも可愛いけどな……けど、なんて言うか、素のままの天野って感じがして」
もう一度、私の身体全体を見るように視線を交わしてから。
「うん、だから……可愛いのな、ホント」
言葉を、噛み締めるように、仰います。
「は、はぅ…(赤)」
そ、その……いつも、私をからかうようにして言う、「可愛い」ではなくて、その…はぅ(赤)。
「え、えっと、その……こ、コレを…」
恥ずかしくて、話を逸らそうと、手に持った団扇を相沢さんに渡します。
「おー、いいな、団扇か」
――ぱたぱた
「ふぅ、ちょっとはマシだな」
「そ、そうですね…」
「まー、ないよりマシって程度だけどな…って、一つしかなかったのか?」
「あ、はい…」
ぱたぱたと扇ぎながら、対面に座る私に視線を向けます。
いくつかあったと思ったのですが、探している時に限って見つからないんですよね、こういったモノって。
「んー、そうか……じゃあ、ほら」
――ぱたぱた
「ぁ……ふふ、涼しいですね」
「んー、だな」
――ぱたぱた
何回か、私を扇いで、またご自分を扇いで。
それからまた何回か扇いでから、私を扇いでくださいます。
「暑いな、ホント」
「そうですね……やっぱり夏ですから」
窓の外からは蝉の声が大音量で聞こえてきます。
ゆったりと吹く風も生暖かくて、いかにも夏の風と言った感じで。
――ぱたぱた
「あー、まあ、夏だよな、ホント」
「はい、夏ですね……これでもかって言うぐらいの」
――ぱたぱた
相沢さんが届けてくれる風も、それほど涼しいと言ったものではありませんけれど。
不思議にも、涼しく感じてしまいます。
「……あー、天野、こっち、来ないか?」
ぽむぽむと、相沢さんの座っている隣にクッションを置いて、私を呼びます。
「……えと、はい(赤)」
たぶん、隣り合って座ることでお互いの身体の熱でより暑さを感じてしまうのでしょうけれど、それでも近くにいたいと願ってしまいます。
……私は、そう思ったとしても、相沢さんはやはり暑いのはお嫌いでしょうから、少し離れて座ります。
「ん、ほら……もっと寄って」
――きゅ
腰を抱き寄せて引き寄せ、より相沢さんの近くに座らされます。
その、ホントに体温を感じるぐらいの、距離。
「うし、じゃあ扇ぐぞ〜」
――ぱたぱたぱた
右手で私の身体を抱いて、左手で団扇を持って扇ぎます。
抱き合うほどの距離ですから、お互いの体温が感じられて、せっかくの涼も半減してしまっているのかもしれません。
でも、相沢さんはそのまま、
――ぱたぱたぱた
団扇を扇ぎながら、
「おー、涼しいなー」
と。
瞳で、私に「な?」と、尋ねてきます。
「はい」
私が答えると、優しく微笑んで、抱き締めた腕を少しだけ強くします。
私もそれに応えるように先ほどよりも、もう少しだけ相沢さんの身体に身を委ねて。
――ぱたぱたぱた
クーラーが壊れてしまって。
暑くて、暑くて。
これ以上ないぐらいの、暑さの中。
涼を求めているはずなのに。
抱き合っているのは何故なんでしょう。
そして、こんな時間がずっと続いて欲しい気がするのは、
どうしてなんでしょうね……。
――ぱたぱたぱた