軽いショックののち、するすると列車は動き出す。
 見慣れた景色が、窓の外を流れてゆく。
 点在するビルディング、雪に覆われた街並み、遠くに見える山々。
 暫く見納めになる光景。だけど、不思議と寂しさは感じなかった。
 何故かというと…多分…



 ONE STEP



 ちらり、と教室の前の時計を見る。
 14時18分。
 ここから駅まで、急いで20分。
 新幹線が出るのが、15時丁度。
 まだ間に合う…大丈夫。
 それでも、1分ごとに時計を見上げてしまう私がいて、
 今日だけは、全然授業の中身も耳に入らなかった。



 相沢祐一。
 私より一つ年上の、この学校の先輩。
 その名前を、その顔を思い出す度に、私の胸は甘さと、少しの痛みを感じる。
 天野美汐は…相沢祐一に、まあ、認めるのもちょっと悔しいが…恋をしているのだと思う。多分。



 ホームルームが終わると同時に、私は教室を飛び出した。
 今日ばかりは、なりふり構っているわけにはいかない。
 もう、時間の余裕はほとんどなかった。

 昇降口は、授業が終わったばかりということもあって、まだいつもより閑散としていた。
 私は急いで下駄箱からローファーを取り出し、雪の降る街へと飛び出した。



 それを聞かされたのは、確か一緒に初詣に行ったときだったと思う。
『俺…もうすぐ、実家に帰ることになると思う』
 いつもの口調で、そんなことを聞かされたのは。
 一瞬、その言葉が耳を素通りして…後から、途方も無いことを聞かされた事が判った。
『ど…どういう、事ですか…?』
 努めて冷静に振舞った積りだったが、後から考えれば、私の声は、例えようもなく震えていたような気がする。
 彼は、私を宥めるように順番に告げた。
 都内の大学を受験すること。
 そのため、暫く東京にある実家に戻るということ。
 そして、多分、そのままこの街には戻って来ないということ。
『幾らんなんでも、大学生になってまで秋子さんにお世話になる訳にもいかないしな』
 そう、笑っていた彼。
 その時の彼の目は、確かに未来を見つめていた。
 この北の街ではない、彼の生まれ育った街での、未来。
 そこに、私の姿は、どうしても見えなかった。



「おう、遅かったな。間に合わないんじゃないかと思ったぞ」
 彼の、いつもの笑顔。
「申し訳ありません…急いだのですが」
 荒い息を吐きながら、私は答えた。
「とんでもない、わざわざ見送りに来てくれて、ありがとうな。」
「…他に見送りの方は、いらっしゃらないんですか?」
 私は、ホームを見渡す。けれど、私の知っている顔は見当たらなかった。
「ああ、名雪は今日が受験だし、秋子さんも仕事があるからな」
「そうですか…」
 それはまあ、仕方が無いことかな、と思う。
 …でも、ちょっとだけ運がよかったかな、なんて思ってしまう。
 二人きりにしてくれたことを、ちょっとだけ神様に感謝する。

 …それとも、秋子さんあたりが気を回してくれたのかもしれない。

「結局、雪止まないままか…まあ、この街らしいといえば、らしいかな」
 相沢さんがホームの向こうの雪景色を見回す。
 空には、輝かしい出発とは裏腹に、厚い雪雲が垂れこめていた。
「そうですね…」
 笑顔を浮かべるのに、ちょっとだけ苦労する。
 気を抜けば、笑顔が崩れてしまいそうだったから。
 見れば、向こうから銀色の車両が入線してきていた。
「じゃあ、そろそろかな」
「あ…そうですね…」
 顔を上げる事が…出来そうになかった。
 ホームに到着した新幹線から、まばらに人が降りてくる。
 そして、相沢さんがデッキに乗り込む。
 そこでやっと、今回の目的に思い至る。
 私は急いで、鞄を探り、中から包装紙に包まれた紙箱を取り出す。
「相沢さん、これを…」
「…?」
 怪訝そうにその包みに目をやる祐一さん。
「14日…ですから…」
「そうか、さんきゅ」
 嬉しそうに笑う…相沢さん。
 列車の出発を告げるベルが、ホームに響く。
「あのっ、相沢さん」
 言いたいことは、山のようにあった。
 時間が幾らあっても足りないくらい。
『あなたのことが、好きです』
 そう言えれば、どんなに良かったことか。
 でも、言えない。それだけは言えなかった。
 まだ、私には相沢さんの未来には、登場できない。
 まだ、私達の未来は…交わることができない。
 だから…
「もし…もし来年、私が相沢さんと同じ大学を受けに…東京に行ってしまったら…どうしますか?」
「そうだな…その時は…」
 ベルが鳴り終わる。扉が閉まりはじめる。

 たった一言だけを残して、列車は出発していった。
 駅を出たわたしに、雲間から少しだけ、太陽の光が降り注ぐ。
 今はこれでいい。
 ここまででいい。
 これから、彼に追いつく為に。これが、第一歩なんだ…

 不意に、風が吹いた。煽られた雪が乱れ舞う。目に溜まっていた涙が…雪風に乗って、流れてゆく。



 ふと、意識が戻る。
 目を窓の外にやると、見知らぬ景色が流れてゆく。
 どうやら、夢を見てしまったらしい。
「昨日…寝れませんでしたからね…」
 慣れないチョコレートを夜半過ぎに完成させ、その後もどうしても寝付けなかった自分だから。
 目じりに浮かんだ涙を拭う。
「みっともない顔、見せられませんから」
 誰にともなく、そう呟く。
 車内の客は、誰も自分の言葉には耳を貸さなかったらしい。
 顔を軽く叩いて、眠気を追い払う。
 しっかりしろ、天野美汐。
 今日、もう少しで彼に会える。
 もう、その時は、すぐそこまで来ている。
 車内アナウンスが、終着駅への到着を告げる。



「そうだな…その時は………告白でも、してやるか」


 はうう、皆様(主にk-ash様)ゴメンなさいぃ〜
 24時間締め切り遅らせて、上がったのがこんな物とは…
 なんだかなぁ。この滅茶苦茶な場面展開…
 はぁ…

 しかもよく考えたらバレンタインとほとんど関係ないし<ぉ

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