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『狐さんチョコレート美味しい?』
『ハグハグハグ』
『あはは、良かった。気に入ってくれたみたい』
 狐さんはとても美味しそうにチョコレートを食べてくれた。
『無駄になるとこだったから良かったよ』
『キューン?』
『うん?どうしたかって?えっとね、本当は好きだった男の人に渡そうと思ってたんだけど、その人彼女がいるんだって』
 あんなに綺麗な彼女がいるなんて知らなかった。
『失恋しちゃったよ。えへへ』
 けどちょっとショックだったけど諦めはつく。だって私は小学生、あの人は高校生だから元々釣り合わないもんね。
『キュ−ン』
『わっ、くすぐったいよ。あはは、止めてってば』
 私のことを心配してくれたのかその子狐は私の頬をぺろぺろと舐めた。
『ありがとう、狐さん。……そうだ、肉まんをも買ってきてるんだよ。好きだよね』
 そして私は肉まんの袋を開けた。
『はーあ、大きくなったら本当に好きな人にチョコ渡したいな』
 そうなる日を私は夢見ていた。
 ……遥か昔の記憶。幸せなあの時の記憶。


Kanon Short Story
Valentine(前編)



「美汐ー、これで良いんだっけ?」
「ああ、そうじゃなくて。チョコは湯せんに溶かすんですよ」
「あっ、そうだった。えっと、こうだね」
「はい。そうですよ」
「よし、ガンバろ」
 私は今真琴にチョコの作り方を教えています。
 チョコレートの作り方を知らない真琴がわたしを頼ってきたのです。勿論私は2つ返事でOKしました。
「……けどこんな調子で明日までに間に合うかな?」
 真琴は自信無さげに訊いてきた。
 確かにもう何度も失敗していますからね。けど初めから上手く出来る訳は無いです。
「大丈夫ですって。今日は都合が良いことに日曜ですから時間はたっぷりありますよ。それに私も出来るだけ手伝いますしね」
「ごめんね、迷惑掛けて」
 真琴は落ち込んでしまった。
「迷惑だなんて……真琴のためなんだから迷惑だなんて思わないですよ」
「でも……」
「ほら、さっさとやらないと明日相沢さんに渡せなくなりますよ」
「あぅ……別に祐一に渡す訳じゃ……」
 真琴は口篭ってしまった。
 相沢さんに渡すつもりが無いのなら、料理の腕前がプロ級の水瀬さんに頼まずわざわざ私のところに料理を習いに来た理由はなんなのかしら。
 ふふ、きっと相沢さんにばれるのが恥ずかしかったのでしょうね。
「じゃあ誰に渡すのかしら?……それとも相沢さんには貰って欲しくないの?」
「そんな訳無いでしょっ。祐一に貰って欲しいに決まって………あぅー、美汐の意地悪ー」
 誘導尋問に引っかかったのに気づいて真琴は膨れてしまった。
「あははっ、ごめんなさい、真琴。……ほら、頑張って作りましょ」
「はーい」
 そして私たちはチョコレート作りを再開した。

「えっと、こんな感じかな?」
「そうそう、それで良いわよ。あとは型にゆっくりと流して……そう、それで良いわ」
「えへへ、やった」
 型に上手くチョコを流し込めて真琴は嬉しそうです。
「後は冷凍庫に入れましょう」
 真琴の作ったチョコレートを慎重に冷凍庫の中に入れました。
「さっ、これであとはしばらく待てば……て何してるの、真琴?」
「うん?何ってチョコ作ってるんだけど」
「でもさっき作ったでしょう。まだ作るの?」
「うん、だって1つしか作ってないもん。まだ渡したい人たちがいるからね」
「義理チョコ、というわけですか?」
 てっきり相沢さんへの本命チョコだけかと思っていました。
「へっ?義理チョコって何?」
「知らないのですか?……えーと、いつもお世話になっている人に感謝の意をこめて渡すもの。又は知り合いの付き合いを考えて体裁上渡すといった感じのチョコレートの事ですかね」
「ふーん、他に何があるの?」
「あとは本命チョコですよ。好きな人に送るチョコレートの事です。……まぁ、元々バレンタイン・デーは好きな人に贈り物をする日ということで男女どちらから渡しても良いですし渡す物もチョコと限定されてませんけどね」
「へー、美汐って物知りだね」
「そんな事はないですよ。……で、これって義理チョコなのよね」
 真琴が作ろうとしている物は先ほど作った物とあまり変わりがないように思えた。
「えっ?……うーん、さっきの説明だとこれって本命チョコだよ」
「本命?……なぜですか?」
「えっ、だってこれ秋子さんたちに上げるんだもん。あたしみんな大好きだから本命チョコだよ」
「……そう。ふふふ、そうね、そうかもしれないわね」
 私はそう言いながら綺麗な真琴の綺麗な亜麻色の髪を優しく撫でてあげた。
「あは、くすぐったいよ。……ねえ、こんな感じで良いんだよね?」
「はい。そんな感じで良いと思うわ。けれど全部同じというのも面白くないですね。……そうだ、こうしましょう」
「うん?どうするの?」
 私は買って来ていたホワイトチョコレートを溶かし始めた。
「これ使うの?」
「ええ、小さいチョコをブラックとホワイト2つずつの組み合わせにしても良いですし、重ね合わせても良いですしね」
「へー……面白そう。ねえ、ねえ、他に何かある?」
「そうねぇー、トリュフとかテラミスというものもあるけど……試してみる?」
 時間が掛かるけど真琴がやりたいというならいくらでも付き合ってあげようと思った。
「うん、やってみる」
「じゃあちょっと待っててね。生クリームとかチョコパウダーなどを用意しますから」
 ホワイトチョコレートの溶け具合を気にしながら私は生クリームを泡立て始めた。

ゥ ゥ ゥ

「結構時間が掛かっちゃったね」
「そうね。……どうします?泊まっていきますか?」
「うーん、そうだね。チョコが固まるまで待ってたらかなり遅くなっちゃうもんね。……うん、泊まって行く」
 確かに最後に冷凍庫に入れたチョコが完全に固まるまで結構掛かりますからね。
「そう、じゃあ水瀬さんのお宅に電話しておいて下さいね」
「うん、分かった。……えっと、電話使わせてもらうね」
 真琴は遠慮がちに訊いてきた。ふぅー、相変わらずこういうことになるとしり込みしてしまうのね。
「構わないわよ。……その間にこっちの片付けをしておきますね」
「あっ、うん。真琴も戻ってきたらすぐやるからね」
 真琴はそう言うと自分の家に電話するために台所から出て行った。
「さあ、やってしまいますか」
 私はそう呟くとチョコレート作りでヒドイ状況になってしまった台所を片付け始めた。
「……終わったのかしら?」
 そう言いながら母様が台所に入って来た。
「えっ、ああ、母様。すみませんこんな時間まで使ってしまって」
「気にしなくていいわよ。……それで上手く出来たのかしら?」
「はい。真琴は飲み込みが速いですからね。いろいろな種類のチョコを作れるようになりましたよ。本当に美味しそうでした」
 私が教えたやり方を全て真琴は実践し、どれも上手くできたようです。真琴の満足そうな顔を思い出すと自然と笑みが零れます。
「そう、それは良かったわ。……けど真琴さんも良いけど貴女自身は出来たのかしら?」
「私……ですか?」
「ええ、作ったんでしょう。……どうかしら?上手くいった?」
「えっ、あ、まあ作りはしましたけど。……所詮は義理チョコですからこれくらいで十分でしょう」
 真琴に掛かりきりで自分のチョコレート作りに時間が裂けなかったですけどそれは構いません。……だって本命チョコを作るつもりじゃなかったですから。
「あら、てっきり本命チョコを作るとばかり思っていたわ」
「いませんよ、本命チョコを上げるような人なんて」
「相沢さんだっけ?彼は違うのかしら?」
「ち、違いますっ。……あの人はただの友人、ただの先輩後輩の関係ですよ」
「ただの、には見えないけどね。……まあ良いわ、真琴さん、泊まって行くんでしょう?厨房の方で夕食は作ったからすぐ用意できるわよ」
「あ、え、じゃ、じゃあ後片付けが終わり次第食べようと思うのでお願いします」
「はい、分かったわ」
 母様はそう言うと台所から出て行ってしまった。
「……相沢さんへ本命チョコを……そんなの出来る訳無いです」
 私は小さく呟くと後片付けを再会した。
 その後真琴も戻ってきて二人で後片付けをし、終わったところでタイミングよく母様が夕食の準備が出来た事を知らせに来てくれました。
 真琴は久しぶりの私の家の夕食を食べてとても楽しそうでしたし、私と一緒の布団で寝ることが出来て嬉しそうでした。
 けれど私自身、真琴のそんな様子を見てとても幸せな気分になれ、今夜は良い夢を見れそうな予感を感じました。

ゥ ゥ ゥ

名無しさん。お腹すいてるでしょ、どうぞ』
 私はそう言って肉まんの袋を渡してあげた。
『あっ、ありがと。……けど名無しさんて……』
『だってまだ名前が思い出せないんでしょう。他に呼びようが無いのだから仕方ないです。……それとも適当に名前を付けてあげましょうか?殺村凶介とか……』
『な、なんだよそれ』
『だってあの時初対面でいきなり襲ってきたでしょう。……男の子が女の子に手を上げるものじゃないですよ』
 あの時は本当にビックリしました。
『あぅ〜、けど返り討ちにあった……』
『というか自滅でしょう。私はただ単に避けただけです』
『あぅ〜、足引っ掛けたじゃないかー』
『そうでしたっけ?……まぁ、それよりもこれ食べますか?』
 私は鞄の中から包装紙に包まれた箱を取り出した。
『誤魔化してない?……って、これなに?』
 包装紙を破って中を見た名無しさんはそう呟いた。
『チョコレートですよ、知りませんか?』
『馬鹿にしないでくれ。チョコぐらい知ってるよ。……けど、何で?』
『今日は2月14日、バレンタインデーですからね。あっ、言っておきますが義理ですよ』
『あっそ。で本命は誰に上げるの?』
『……いませんよ、好きな人なんて』
『ふーん、寂しいね』
『……怒りますよ』
『ご、ごめん。あ、謝るから許して』
 名無しさんは見た目は私より上なのに言動や行動は年下みたいです。
『まっ、良いです。許してあげますよ。……ふふ、感想を聞かせてくださいね。このチョコは私の手作りなんですから』
『へー、美汐の手作りか。それだったら期待できるな。……頂きます』
『はい。どうぞ』
 でもそんなところが好きなのだろう。
 私が初めて本命のチョコを渡した人。けど恥ずかしくて義理と偽って渡してしまった人。
 ……少し昔の記憶。けれどもう戻れない苦い記憶。

ゥ ゥ ゥ

 ジリリリリリ……
 カチャッ
「朝、ですか。…………真琴、起きてください、朝ですよ」
 私は隣で寝ている真琴を起こしました。ふぅー、相変わらず寝相が悪いですね。
「う、うん?美汐?……ああそっか、今日は美汐の家にお泊りしたんだっけ」
 眠いそうに目をこすりながら真琴は布団から身体を起こしました。
「おはようございます、真琴」
「あっ、美汐、おはよう」
「はい。さっ、早く顔を洗ってきましょう。のんびりしていると学校に遅れてしまいますよ」
「あぅ、それは嫌。……けど時間早いよ〜」
「そうですか?……いつもはもう少し早い時間に起きてるのですが……」
 時計の針は6時半を指しています。
「あぅー、早すぎるよ。はぁー、名雪だったらどんなことしても起きないわね」
「確かにこの時間ならそうですね」
「まっ、良いや。さっ、顔洗いにいこっ」
 真琴はそう言うと私の手をひいて洗面所にへと向かいました。
 けど今日は何の夢を見たのか忘れてしまいました。懐かしい夢だった気がしたのですが。

「念のために制服を持って来ていて良かったですね」
「うん。……で、服なんだけど」
「はい。大丈夫ですよ。ちゃんと皺になら無いように置いておきますから後で取りに来てくださいね」
「うん、分かった。……良し、じゃあ行こう」
 真琴はそう言うと家から出て行こうとしました。
「真琴、忘れ物ですよ」
「へっ?ああっ、チョコっ!」
「はい、忘れたらダメでしょう」
 私は真琴の作ったチョコレートをバックに入れて渡してあげました。
「かさばるからこれに入れていくと良いわ」
「ありがとっ。じゃあいこっかっ」
「はい。……では、行って参ります」
「あっ、えっと、行って来ます」
 私たちは家の人に挨拶をして学校にへの道のりを急ぎました。

ゥ ゥ ゥ

 キーンコーンカーンコーン
 お昼休みになりました。
「真琴、相沢さんたちにチョコ渡すんでしょ」
「え、う、うん、渡してくるね。……えっと美汐も一緒に行こうよ」
「不安なんですか?大丈夫ですって、ちゃんと受け取ってくださいますよ」
「そうじゃないんだけど………良いや、行ってくる」
「はい。行ってらっしゃい」
 私はそう言って真琴を送り出しました。
 きっと相沢さんは嬉しそうに受け取るんでしょうね。名雪さんにも渡すと言ってましたからきっと名雪さんも嬉しそうに受け取るのでしょう。
「……けど結局持ってきたけど……どうしましょうか、これ」
 私は鞄の中の相沢さんに渡すためのチョコを見て呟きました。
「真琴と一緒に渡せば良かった?……いえ、それだと本命だと勘違いされるかもしれないし真琴にも悪いです」
 相沢さんは真琴からのチョコをとても嬉しそうに受け取ることだろう。……そう、嬉しそうに。
「…………何故なの、微笑ましいのに同時にこんな気持ちになるなんて………止めよう、考えるのは。……はぁー、食事に行きますか」
 私は深い溜め息を吐いてから学食にへと食事を取るために向かいました。

「はぁー、何か変な感じです」
 食事を終えた後も私の心の中ではもやもやしたものは晴れなかった。
「いえ、悩む事無いですね。………そう、深く考えなる必要はないです。義理チョコ、なんですから」
(でも本命チョコとして渡したい)
「きっと相沢さんも私から貰えると思っているはずです。だって、親しい友人なのだから」
(でも友人以上の存在になりたい)
「良し、放課後渡しに行きますか」
(怖い、私の事を友人としか見てないのを意識するのが)
 そう決めたらもう変な感情は湧いてこなかった。
 (無視する事が出来た。表に嫌な感情が出なくなった)
「……そう言えば、真琴はどうだったんでしょうか。相沢さんは喜んでくれたのでしょうね」
(真琴の笑顔を想像すると嬉しい。けれど同時に妬ましい)
「真琴は本当に相沢さんの事が好きですものね。いえ、他にも好きな人はいますか」
(でも私は真琴の幸せを願いたいから、自分の気持ちは抑えて続けよう)
 食堂から教室への道すがらつい独り言を喋ってしまいました。
 相沢さんの癖がうつってしまったかも。

ゥ ゥ ゥ

「あっ、美汐〜」
 教室に戻ると真琴がいました。
「どうしたの?真琴」
「もう、勝手にどっか行っててそれはないでしょ。……どこ行ってたの?」
「そうでした。ごめんなさいね、真琴。先に食事を摂ってしまいました。……けど向こうで一緒にお弁当を食べたんでしょ」
 いつも相沢さん達は栞さんのお弁当を食べるか揃って学食に食べに行く。
 学食に来なかったという事は教室かどこかでお弁当を食べたのだろう。
「え、う、うん、そうだよ。……でも美汐も来れば良かったのに」
「ふふふ、食事をするためだけに行くのもなんですからね。……それでちゃんとチョコは相沢さんに渡せましたか?」
「う、うん、渡したよ。それに名雪たちにもね。……みんな喜んでくれたよ」
「みんなって全員ですか?」
「うん、祐一と名雪とあゆと香里と栞と舞と佐祐理と……あと北川にも渡したよ」
「ホントに全員なんですね」
「うん、だってみんな好きだもん」
 真琴がそう言うのを聞いてるだけで幸せな気分になります。
「良かったですね」
「うん、けど祐一ったら酷いんだよ」
「どうかしたの?」
「だってね、名雪や栞、あゆや舞まで渡してるんだよ。それも本命チョコを」
「……そう、けどそれは予想してたでしょ」
(改めて聞くのは嫌だった)
「うん、まあね。……けど佐祐理や香里からも貰ってたんだよ。まあ義理チョコらしいけどね。……けど祐一ったら『すまんなマコピー、もう両手に持ちきれないほど貰ってるぞ』って笑って言ったの」
「えっ?」
(なんなの、それは?)
「まぁ、あたしが落ち込んだら慌てて慰めてチョコを受け取ってくれたけどね。……とっても喜んでくれたけど、それだったら最初から普通に受け取ってくれれば良いのにね。美汐も祐一って意地悪だと思うでしょ」
「え、ええ、そうね。相沢さんは意地悪な人かもしれないですね」
(そう言った相沢さんの姿を想像したくはない)
「ねー。ああ、ムカツクー!」
 真琴はその様子を思い出したのか機嫌が悪くなってしまった。
「……けれど好きなんでしょう?」
(好きな感情の裏返し。羨ましい)
「あぅー、そうだけど……」
 真琴は顔を赤くしてしまった。
「けど良かったですね、受け取ってもらえて」
(真琴が羨ましい、妬ましい。真琴が幸せで嬉しい)
「えへへ、まぁね。……あっ、そう言えば美汐は渡さないの?」
「渡しますよ。相沢さんは友人ですから、渡さないのは変ですよ」
(違う。友人としては渡したくない)
「ふーん、そっか。で、いつ渡すの?」
 真琴は笑顔で訊いてきた。
「そうですね。放課後に渡そうと思います。あっ、その際義理チョコだと言っておかないと勘違いしてしまうかもしれませんね」
(勘違いして欲しい。けれど勘違いされたら困る)
 私は冗談めかして答えた。
「……ねぇ、美汐」
「うん?どうしたの?真琴」
 私がそう訊くと真琴は少し迷ってから口を開いた。
「……ねぇ、辛そうだよ、美汐?」
「えっ?」
 何を言っているのでしょう。
「どこが辛そうなんですか?……別に変なところは無いですよ」
 私のどこを見てそんな事を言うのでしょう。
「美汐は祐一のこと好きなんでしょう。なのにそんなこと言うなんておかしいよ。……それにさっきからずっと無理してるよ」
「もう、そんな事……」
(気づかれた。気づかれた。気づかれた。気づかれた…………)
「美汐?……あぅ、どうしたの?………けどあたし知ってるんだよ、美汐が作ったチョコが祐一のための本命チョコだってね」
「っ!?」
(何故 ナゼ どうして Why)
 知ってるはずは無いと思っていた。
「どうして知ってるのかって?………えっと、昨日美汐が『相沢さんへ本命チョコを……そんなの出来る訳無いです』って呟いてるのを聞いちゃったの。ごめんなさい」
「………」
(知られた。真琴に知られた。私の気持ちを…………だから何?だからどうだと言うの?)
 私の中で何かが狂った。
「あの、その………あぅー、みし……」
「だからどうだと言うのですかっ。私が相沢さんの事を好き?……ふふふ、そうかも知れないですね。けれどそれがどうしたと言うのですかっ?」
(止めて、止めて、止めて……)
「み、美汐?」
「でも告白するつもりは無いですよ。だからこのチョコは義理チョコとして渡すつもりです」
(誰か私を止めて)
「ど、どうしてよ、美汐」
 真琴は訳が分からないといった感じに訊いてきた。……本当に分からないのでしょう。
「ふぅー、決まってるじゃないですか。私は貴女たちの事が好きなんですから」
(言ったらいけない。それを言ったらダメ)
「えっ、それって……」
「分かりませんか?ならハッキリと言いましょう」
(ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ…………)
「貴女たちに遠慮して……いえ、違いますね。……真琴、貴女の幸せを第一に考えたら相沢さんにそのような物を渡せるはずが無いじゃないですか」
(……言ってしまった)
「えっ?」
 真琴は戸惑ってしまった。まぁ、そんな事を言われたら怒るでしょうね。
「ごめんなさいね、真琴。変な事を言ってしまいました。……けれど大丈夫ですよ。私はずっと貴女の事を応援し続けますから」
(そんな事できるはずが無い。真琴はもう許してくれるはずがないっ)
 私は自分でも醜いと思う笑顔で言った。
「美汐、ごめんね」
「えっ?」
(えっ?)
 二つの声が重なった。
「真琴がいるから美汐は幸せになれないんだね。……真琴がいたら迷惑だよね」
「っ!?」
 最低です。私は最低の人間です。
「……美汐?」
「……ごめんなさい、真琴。貴女は何も悪くないですよ。悪いのは全て私です。……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい………」
「美汐は謝る事無いよ。……あたしがいたから美汐は自分の思いを祐一に言えないんだもの」
 真琴は本当にすまなそうに言う。そんな真琴の姿が耐えられなかった。
「ごめ……」
「えっ、美汐!?」
 私はその場から逃げ出してしまった。自分の醜さを実感する事も、真琴の優しく純粋な心を見せられるのも耐えられなかった。

Fortsetzung folgt


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あとがき

 当初の予定以上に重い話になってしましました。
 かなり纏めるが大変です。