『letter 〜ウァレンティーヌスの贈り物・美汐〜』
 それは、いけないこと。
 あなたの、心の傷につけ込むこと。

 それは、よくないこと。
 あなたと、傷を舐め会うこと。

 ずっと、そう思ってきた。
 あのときから。
 あの娘がいなくなったときから。
 真琴が、いなくなったときから。
 あの、ときから。

 抑えられる想いだと信じていた。
 感情を押し殺して。
 他人(ひと)と交わらないで。
 いままでの、ように。

 けれど。
 私の心は、解かれてしまった。
 私は、他人と交わってしまった。

 あなたに出会って。
 あなたの勁い心に触れて。
 私の感情(こころは)動き出した。

 だからこの日。
 聖ウァレンティーヌスの祝日に。
 想いを、こめて。

 心の傷につけ込むのでもいい。
 傷を舐め会うのだってかまわない。

 だから、この日。
 聖ウァレンティーヌスの想いをかりて、あなたに伝えます。
 あなたに、相沢祐一さんに。
 目一杯の想いを込めて。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「『……あなたの、ウァレンティーヌスより』か……」
「……(///)」
「……天野」
「………」
「前々からおばさんくさいとは思っていたが、こういう知識はむしろオタクくさいぞ」
「物知りだと言ってください」
「……ま、言いたいことはわかった」
「…………(///)」
「いいんじゃないか」
「……どういう意味です?」
「ぅ……まぁ、OKってことだ(///)」
「そうですか……(///)」
「ただな」
「はい」
「つけ込むとか、舐め会うとかいうのとは違う。好きだからつきあうんだ」
「……(///)」
「好きな人が傷ついていればなぐさめるのは当然だし、自分が傷つけば好きな人に支えてほしい」
「…………」
「そういうのは、決して傷を舐め会っている訳じゃないと思うぞ」
「…………はい」
「…………」
「ですが……」
「………………」
「……恥ずかしく、ないですか」
「全然そんなことはないぞ」
「……わかりました。訂正します」
「なにをだ?」
「以前、相沢さんは現実的すぎると言いましたけど、ずいぶんロマンチストなんですね」
「ウァレンティーヌスに言われたくない」
「……(///)」
「……ま、いいんじゃないか、似たもの同士で」
「そうですね」
「ああ」





『目一杯の、想いを込めて。あなたの、ウァレンティーヌスより……』


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『なぁ、美汐』
『はい』
『毎年くれる手作りチョコとカードはうれしいんだが……』
『なにか問題でもありますか?』
『……初めてくれたときから、相も変わらぬ入れ物が気になるんだ』
『…………』
『服の切れ端で作った巾着ってのは、やっぱりおばさんくさいと思うんだが』
『ものを大切にしていると言ってください』

 ......fin

『letter』シリーズ、ヴァレンタイン編です。
文中で『聖ウァレンティーヌスの祝日』となっていますが、日本で一般的にヴァレンタインデーと呼ばれる日です。
発音の問題みたいですね。
また、『あなたの、ウァレンティーヌスより』というのは、ヴァレンタイン・カードの決まり文句です。
理由……気になった方は調べてみてください。
ちなみにチョコレートとは一切関係ありません。

さて、この『letter』シリーズはこれで3作目です。
時系列的には『ウァレンティーヌスの贈り物』、『投函されない手紙』、『birthday card・真琴』の順です。
あ、ただし『ウァレンティーヌスの贈り物』の最後の部分だけは、『birthday card・真琴』より後です。
このシリーズは【美汐と祐一は結婚している・真琴は帰ってこなかった】という大前提のもとで書いています。
『真琴は帰って来るんだぁ』なんて怒らないでくださいね。

2002/02/14
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