美汐さん、バレンタインです。












「あ、あの……相沢さん…」

「ん、なんだ?」

「…あの……普段…お世話になっているお礼と言うか…その……」

鞄の中から取り出した包みを、胸に抱きながら…上目遣いで相沢さんの様子を窺います。

「あぁ…そう言えば今日バレンタインだもんな、チョコか?」

そう言って、相沢さんは軽い雰囲気で聞いてきます。

「あ……いえ…その……そうなんですが…その…そうじゃないと言うか…」

「…ん?違うのか?」

相沢さんは私の様子を窺う様に、顔を覗き込んできます。
…すぐ近くに相沢さんの顔があり、私は顔が赤くなっていきます…。

「えと…その……相沢さん、甘い物はあまりお好きじゃないそうなので」

「ああ、まあそんなに好きってわけじゃないな」

「ですから…その…」

「…少し甘さを控えたモノを……その……つ、作ってみました…」

「おー、そうなのか?」

「はい……その……あまり、得意ではないので…その…恥ずかしいですけれど」

相沢さんに包みを手渡します。
受け取って、そのまま「開けてもいいか」と聞いてきます。
私は恥ずかしくて、こくんと頷いて返すだけになってしまいます。

ごそごそと、包み紙を開けていき、相沢さんは中に入っていたモノを手にして…。

「ありがとう、天野…」

優しく微笑んで、私にお礼を言って下さいます…。

「い、いえ…その……あまり上手に出来ませんでしたから…」

「いや、俺にはコレ以上ない程のプレゼントだ……なにしろ天野がわざわざ俺のために作ってくれたんだからな…」

そう言って、そのまま私を見つめます…。

「…あ、相沢さん……」

「ありがとう…天野……」

相沢さんは私の背中を抱き寄せ、私も相沢さんの背中に手を回して…それから二人の影が重なり…く、口付けを……。







は、はぅはぅ〜♪

コレですっ!
コレで逝きましょうっ!!

今日のバレンタインの練習もコレでバッチリです。
後はもう逝く所まで逝っちゃうだけですっ。

相沢さん、待っててくださいねっ♪








す〜

胸の上に手を置きはやる気持ちを抑えながら、相沢さんのお部屋の前で深呼吸をして息を整えます。

はぁ〜

真琴には肉まんとマンガを与えているので、一、二時間は自分の部屋からは出てこないでしょう。

す〜

名雪さんは今日は部活だそうです。相沢さんと一緒に帰るとか仰っていたので、きちんと部活の後輩に教えてあげました。
コレで6時過ぎまでは帰ってこないでしょう。

はぁ〜

あゆさんは、秋子さんが買い物を言いつけておいてくれたので問題ありません。
しかも隣町ですので、二時間程度は帰って来ないハズです。

……秋子さん、感謝します。

まあ、当の秋子さんは台所で夕食の支度をしているのでおそらくは安心です。



では、い、逝きましょう。


――こんこんっ

「うーい、開いてるぞー」

部屋の中から相沢さんの声が聞こえます……。
…?
ナニやらがさごそと音が聞こえますが…どうかなさったのでしょうか?

「あの…相沢さん、宜しいですか?」

「おー、天野か、ちょっと手が離せないんだ、入ってきてくれ」

はい、と返事をしドアを開け部屋へと入ります。

「悪いな、ちょっと散らかってるんだ」

………少しどころではありません。
足の踏み場もないとはよく言ったものです。
床一面に色とりどりの包装紙でラッピングされた小さな箱が置かれています。
ざっと見ただけでも4、50個はあるんじゃないでしょうか…。

「……あの、相沢さん……どうかしたのですか?」

「ん、いや……ほら、今日はアレだろ?」

視線はこちらに向けずに、そのまま箱を片付けながら仰います。

「アレとは?」

「……だから、今日はナニだろ」

「ですから、ナニとは何ですか?」

…まあ、なんとなくはわかっていますが。
その……相沢さんの口から言って頂きたいような気もしますので。

「…はぁ、コレだコレ…」

振り返り、がさごそと包みを一つ開けて中のモノを私に見せます。

………はぅ、予想通りのモノでしたね。

「チョコレート…ですか………」

「ああ……ん、そんなトコで立ってるのもなんだろ、まだベットの辺りには何とか座れる場所もあるからそっちの方に座っててくれ」

指差しますが、ホントに何とか座れる程度ですね……。
床一面に敷き詰められて箱を踏まないように、ベットに腰掛けます。
ベットの上にもいくつか箱が置かれています。

それにしても……この箱全てがチョコレートなのでしょうか…。

「あの…相沢さん、コレ…全てがチョコレートなんですか?」

「………はぁ、まあそう言うわけだな」

「……」

コレはなんと言いますか……。

「はー、毎年この時期はホントに大変なんだよ…」

「相沢さん……毎年この状況なのですか?」

「ああ、まあ…前の学校のヤツらからも贈られてきたんだよ……どこでどうこの場所のコト知ったのか」

私も同じ立場なら、どのような手を使っても調べ上げると思いますよ、ええ、それはもちろん。

「……それで、相沢さんは何をしてらっしゃるのですか」

「ん、あー、いや…開けないってのも悪いだろ、捨てるわけにもいかないし」

「とりあえず、一口ずつは食べようと思ってな…」

そう仰りながら、包みを解いた箱から出したチョコを一片を口にして、
ま、後は秋子さんにジャムの材料として提供するんだが…と、仰っています。

じゃ、じゃむですか……謎的ぢゃむでないコトを祈りたいです。

「で、どうかしたのか?天野は…」

「ぇ……あ、あの……その……ま、真琴が…マンガを読んでいるので、その…」

こんなにたくさんのチョコを見せ付けられて…今さら私の持ってきたのまで増やしてしまっては、さすがに渡せません…。

…その、それに……今渡せばあまり記憶に残らないような気もします。

「ああ、なるほどな…」

納得していただけたようです。
ふぅ……それにしても、毎年これほどの量のチョコを全て食べているのですか。
通りで甘いものが嫌いになるはずですね…。

「…相沢さんが甘いものがお嫌いなのが少し納得いきました」

「ん?いや…コレは関係ないぞ……コレは気持ちだからな…別に甘い甘くないはどうでもいいコトだから」

……それはそれで問題あります。
なんと言いますか……その、優しすぎるんです…相沢さんは。
きっとチョコを貰った時も、そんな風に言いながらいつもの笑顔で優しく微笑むんでしょうね。
そしてまた、次の年にも贈られる結果となって…そうやって年々増えていくのでしょう。

「ま、出来るならあまり甘くない方がいいんだけどな…」

ずずーと紅茶を飲みながら仰っています。

「あー、そう言えば天野は…」

「はっ、ひゃいっ?な、なな…なんですかっ?」

チョコを食べる相沢さんを眺めながら、少し考え事をしていた所に、急に話し掛けられたので少し驚いてしまいました…。

「…いや、紅茶いるかって聞こうとしてただけなんだが、いるか?」

「ぁ…え……ぁ…は、はい…その………いただきます…」

「ん、ちょっと待ってろ…今入れてくる」

そう言って、食べかけのチョコを箱に戻して部屋を出て行きます。


はぅ……それにしても、やはり物凄い状況です。

えっと、こちら側のがもう食べている分ですね……。
…それではこちらの方が………これから食べるモノ……。

………。

…。

……はぁ、仕方ありません……今さらどうぞ、なんて手渡せませんから…とりあえず少しでも食べていただける方を取りましょう。

そう思って、鞄から渡そうと思って持って来たモノを置きます。

コレではその他大勢になってしまうような気もしますが……仕方ないです。
優しい相沢さんのコトですから、手渡されば全て食べてしまいそうです。
いくら甘くない様に作ったとは言えチョコです、あまり甘い物がお好きでない相沢さんにとっては酷な事でしょうから…。

持ってきたチョコを箱の山の中において、相沢さんを待ちます。


紅茶を持って戻ってきた相沢さんと、話をしながら紅茶を飲みます。
…その間も相沢さんは、一つずつ箱を開けて、少しですが食べていきます。

………こうまでして食べるってことは、やはり……相沢さんは相沢さんですね。

女の子としては…本当なら、応えられない気持ちなら断って欲しいと思います…。
ですが、断らない事が良い事なのか悪い事なのかは別として…向けられた好意に対して、真剣な気持ちで応えている、と言うコトですよね…コレは。

そう言う風に思ってしまいます。

…相沢さんは、相変わらず私のコトをどう思っているの解りませんし、私の目の前で他の方から頂いたチョコを食べています…。

それなのに…そんな相沢さんの事を許してしまうのは…

……惚れた弱みの…所為なんでしょうか…。



はぅ……そうかもしれないですね…。
だって、その……い、今…まさに…私のチョコを手にして、食べようとしている相沢さんを見て、思いっきりドキドキしているんですから…。


…さすがにハートは恥ずかしかったので、小さな丸いチョコをいくつか入れてあります。
大き過ぎず、小さ過ぎない程度の、一口で食べられる程度のモノです。
チョコの中には、紅茶の葉をすりつぶしたモノを入れてあり、その香りによって少し甘さを抑えてあるので、甘い物があまりお好きでない相沢さんにもそれなりに食べられると思います。

「コレは手作りなのか?」

箱に入ったモノの中の一つを指でつまんで表や裏を眺めています。

「…そ、そうなのではないのでしょうか…」

はぅ……ナニやら品定めされているようで、その…少し不安な気持ちです。

「んー、じゃあいただきます」

…私の方に向かって仰います…。
その………もしかして…気付いてますか?相沢さん…。

「ん、なかなか美味いな…甘さ控えめで、紅茶の葉っぱが入ってるのか?」

「そ、そうみたいですね……」

「そうみたいって、自分が作ったのに忘れたのか?」

「……あ、あの……も、もしかして……その…気付いて……い、いつから?」

「いつからって、まあそりゃ箱開ける時からわかったけど」

はぅ…だったら、いろいろと私が返答していたコトバは…一体なんだったのでしょうか…せっかく気付かれないようにと…はぅ〜。

「じろじろと見てるんだもんな〜、アレだとわからない方がどうかしてると思うぞ?」

そ、そんなにじろじろと見ていたのでしょうか?
相沢さんの言葉に言葉が詰まってしまいます。

「は、はぅ…」

「こー、前にずずいっと乗り出して来てたしな………あむ」

はぅ…ぜんぜん気付きませんでした…。
どうも最近自分の行動に自信が持てません……特に、相沢さんのコトに関しては。

「んー、しかし何だな……あまり甘くなくていいな、コレならお茶があれば普通に美味しくいただけるぞ…あむあむ」

「あ…そ、そうですか………その、少し甘さは控えめにしておきましたので…」

「て事は、やはり天野の手作りなのか」

「ぁ……えっと……はい……」

はぅ、ココまで来ては……頷く以外にありません…はぅ(赤)

「んー、俺にはコレ以上ない程のプレゼントだな…」

「そ、そのような事は……他の方からも、こんなにたくさん貰っているんですから…私のなんて」

「いや、そんなコトないぞ…なにしろあの愛想のない天野が、わざわざ俺のために作ってくれたんだからな…」

…はぅ、愛想のないは余計です…。

………でも、その…はぅ…概ね、予想通りの展開です……こ、この後は…あ、相沢さんが私の背中を抱き寄せて……。
そのまま…二人の影が重なり合って…は、はぅはぅ♪な展開になれば、完璧なのですがっ。


そ、そうですね……相沢さんが抱き寄せやすいように身体を少し相沢さんの方へ傾けていた方が宜しいかと思われます。
そう思ってそそと身を寄せると、相沢さんの肩に私の方が触れ…相沢さんは少し驚いて私の方を見返しています……。

……あ、あれ……えっと……つまり、それはその……私から、身を寄せたと言う事ですか?

は、はぅ!?い、いけませんっ。

――きゅ

思い直して離れようとした所を相沢さんが抱きしめます。

「ぁ…」

こ、この様な展開は読めませんでした……急な事で、吐息にも似た呟きが口から出るだけです。

「………あー、と…なんだ、その………ありがとな、天野…」

照れて、はにかむ様に微笑む相沢さんは…子供みたいに愛らしいです…。
こう言う一つ一つの仕草が、私の心の中に相沢さんを特別な存在として留まらせていくんです。



「…あ、相沢さん……」

「ありがとう…天野……」



そ、それから先は………その……朝のシミュレーション通りの………て、展開に……は、はぅ♪









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