美汐の誘惑?

朝。水瀬家玄関口。

そこにそれはあった。

大きなラップで包まれた箱がリボンがけでぽつんと置いてある。

「あら、大きなプレゼント」

「落ち着いてないで、少しは慌ててください・・・」

 こういうとき、秋子さんが大人なんだなあ、と改めて思い知る。

 まあ、こんなに何事にも動じない大人というのも、ある種天然記念物モノだと思うが。

「いちごだお〜。いいにおいがするんだお〜」

 少なくとも、コイツが大人になっても、きっと秋子さんとは似ても似つくまい。

 ま〜、顔だけは秋子さんに似て美人なんだけどな・・・。

「ところで、どうします、コレ?」

 秋子さんがそんな事を何故か俺に言ってくる。

「いや、どうするって言われましても・・・。」

 俺は居候なんですから、この場合、水瀬家の荷物にどうこう言う権利はないはずなのですが?

「でも、ここに、タグがついてますよ?」

「タグ? どれどれ・・・」

“相沢 祐一様(ハート♪)”

・・・マテ。

 何の冗談でございましょう。

 嫌がらせか? 新手の嫌がらせなのか?

「あらあら、相沢さん、モテますね〜」

「あ〜、祐一のすけこまし〜。おんなたらし〜」

 ああっ、こいつ、寝ぼけているときの方がつっこみきつい・・・・。

「では、後は若いものにおまかせしましょうか、名雪」

「そうですね〜」

 二人は去っていった・・・って、こんな得体の知れないものの前に一人残さないで下さい!!

 がさ、がさがさがささささっ。

 動いてる・・・何か中で動いてるよ・・・。

 箱の表面に手を当てる。・・・・あたたかい・・・。

 質問します。

 家に送られてきた小包で、生暖かくて、中でがさがさ何か動いている気配があります。

 さて、それをあなたはどうしますか?

1、捨てる

2、やっぱり捨てる

3、捨てるにきまってるだろ!!

 まあ、そうだろうな・・・よし、ここは一つ。

 よっとばかりに箱を持ち上げる。

「おお、結構重いな。大体50キロくらいかな」

「失礼な事を言わないで下さい! 私は44キロですっ!!」

 ぐわっ、箱が喋った!!

 思わず箱を遠くに放り投げる。

 ぐしゃっと言う音がして、ひしゃげてしまった箱を見る。

 人間? しかも今の声は・・・。

「もしかして・・・美汐?」

「相沢さん、女の子を投げ飛ばすなんて、最低ですっ!」

 俺か? 俺が悪いのかっ!?

 喉の奥までせりあがってきた突込みを何とかどうにか飲み込んだ。

「それで? 何の真似だ、これは」

「あ、なんですか? その分かってるから言ってみろ、みたいな口ぶりは?」

「いや、本当に分からないから聞いているんだが?」

 まさかなあ、とも思うのだが。そういえば、今日は・・・。

「とにかく、そこから出てきたらどうだ? 顔も見ずに話していてもしょうがないだろ?」

「・・・出られないんです」

 あ〜、そういえば、箱が変な形で曲っているな。どうやら出口が開かなくなったらしい。

「仕方ないな・・・。ちょっと待ってろよ」

 何か切るものが必要だな。はさみでいいか?

 俺は、とりあえず家の中に引き返したのだった。

 

「はあ、最悪です」

 私は一人、ため息をついていた。

 バレンタインにはチョコを渡すだけでいいはずなのに、

「ダメですよ、天野さん。本当に好きな人なら、チョコなんて不要ですっ。そもそもバレンタインデーは恋人になるためのイベントなんですから、天野さんと相沢さんはもう恋人でしょう? なら、必要ありませんっっ!!」

 拳を痛いくらいに握り締め、演説をしていたクラスメートの顔が思い浮かぶ。

「私にいい考えがありますっ!!」

 ううっ、栞ちゃんの提案に乗った私が愚かでしたでしょうか・・。

 2月の外は寒くて凍えてしまいそうで、なのに、相沢さんが外へ出てくるまで。一時間位は待っていたのだから当然だと思う。

 手の先まで完全にかじかんでしまって、もう指一本動けそうにも無い。相沢さん、遅いですね・・。

 もしかして、私に呆れてもう学校へ行ってしまったのでしょうか? 

 やっぱり、こんなことするんじゃなかった・・・。

 そんな風に自己嫌悪していたけど、

「よし、美汐、待ってろよ。今、助けてやるからな」

 信じられないくらい近くに相沢さんが来ていた、だって、相沢さんの声は、私のすぐ隣から聞こえてきたのだから。

「よし、開いた」

 リボンを切って包装紙をはがし、そこから光が差し込んでいた。上から私のことをひょいっと見降ろしている相沢さんと目が合った。

「ったく、そんな格好しているから、寒くて動けなくなるんだ・・・」

 返す言葉もありません。

 私が着ている服は、お世辞にも暖かい服装ではありません。それは叱られても当然なんですけど、

 でも、その前に一言くらい言って欲しい言葉くらいあるんですよ。

「だけどな・・・」

「え・・・きゃっ!」

 相沢さんが私をひょいっと持ち上げた。急な行動に戸惑いながらも、私は胸に抱いたチョコを落とさないようにあわてて抱きかかえた。

 すっぽりと相沢さんの胸の中に収まってしまう。・・・知らなかった。相沢さんの肩幅って広いんだ・・・。

 ちょうど見上げれば相沢さんの肩に顔を埋める事が出来るくらい近くで相沢さんの呼吸まで聞こえる。

 真っ赤になっている私に気づいているのか、相沢さんは私を抱っこしたまま、玄関の扉を開けた。

「その姿、美汐には似合っている」

 わ・・・嬉しい。祐一さんが私のことをちゃんと見ていてくれた。

 祐一さんの腕に抱かれながら、私は腕を相沢さんの頭の後ろに回した。

 自然、相沢さんと私は向かい合う形になって、

 今日、初めてのキスをした。

 栞ちゃん、色々と作戦を立ててくれてありがとう。

 でも、一つだけ、予定外だったよね?

 本当は言う予定だったセリフを言わなくても、相沢さんはそうしてくださったんですから。

 私が言おうとしていたセリフ、それは・・・。

 でも、せっかくだから言っちゃいますね。

 

「祐一さん、今日は私を食べてくださいね♪」


 


あとがき

ホワイトデー企画で、甘南備いづみさんのCGを元に書かせていただきました。

なんというか、ベタな展開ですが。まあご容赦ください(笑)ホワイトデー企画なのに、何故かバレンタインですが・・・。

では〜。