某月某日。

学校にて。

同学年の美坂栞さんの言葉。

「それはもちろん祐一さんですっ」

笑顔で答えてくださりました。

…美坂栞さん。

ボブヘアーの小柄でかわいらしい女の子です。

同性の私が言うのもなんですが、上目使いで「お願い」をされるとかなりの効果があります。
 

…ライバルの数、1。
 
 
 
 
 

同じく階段でばったり出会った三年生の川澄先輩と倉田先輩の言葉。
 

「あははーっ。佐祐理は祐一さんにあげますよーっ」
「………」
「もちろん舞もあげるんですよねー」

ぽかっ!

「あははーっ。舞は照れてるんですよーっ」
「………」

ぽかぽかぽかっ!

「きゃあきゃあっ♪」

倉田佐祐理先輩。

学園内で知らないものはいないほどのアイドル。

容姿端麗、才色兼備。

一番のライバルかもしれません。
 

…同様に川澄舞先輩。

その端正な顔つきは女性ですら惹かれてしまうと言われています。

そして内面に秘めたる強さと優しさ。

こういうものに男性は弱いと聞いたことがあります。
 
 

………ライバルの数、3。
 
 
 
 
 
 
 
 

学校の学食にて。

二年生である美坂香里さんの意見。

「ん? まあ一応義理であげるわよ? 相沢君にも、北川君にも」

同じくその場にいた名雪さんの言葉。

「わたしはもちろん祐一にあげるんだよ」

屈託の無い笑顔。
 
 

香里さんは、川澄先輩と近いものがありますが、それに加え、時折浮かべる子悪魔的表情や、子どもっぽい仕草が普段とのアンバランスさで物凄い魅力へと転じています。

…それに義理と言っても、それは言葉のあやの可能性がありますからね。
 

名雪さんはなんといっても相沢さんの従妹。最も近い距離にいること。一つ屋根の下で暮らす従妹。
環境として最適な位置にいる上に、天然ボケという、ツボにはまれば史上最強の属性を持ちえています。
 
 

…ライバルの数、5。
 
 
 
 
 
 

商店街にて。

水瀬家主婦、秋子さんの意見。

「なんだか若返ったみたいでわくわくしちゃいますね。ふふっ…」

…そして水瀬家居候、真琴の言葉。

「ねえ美汐ー。あたしにもちょうだい〜」

私は少し戸惑ってしまいました。

「…真琴。明日は特別な日なんですよ」
 
 










美汐ちゃんのメリー(?)バレンタイン
前編
「某月某日の美汐ちゃんの動向」



















某月某日…つまるところ2/13日の話です。

私はそれとなくみなさんに明日の動向を聞いて回っていました。

明日は…いわゆる、バレンタインデーなのです。

その。

私も日々お世話になっている…なんというか。
 

お礼も兼ねて、相沢さんに…チョコを渡そうと思うのです。

…ですが。

「真琴。祐一さんへのチョコは買ってあげたの?」
「あう、あんなやつになんでチョコあげなくちゃいけないのよう」

真琴を除いて、私の知りうる限りではほとんどの女性が相沢さんにチョコをあげることを考えているようなのです。

「あらあら。照れなくてもいいのに」
「て、照れてなんかないわよぅ…」

真琴は顔を赤くして小さくなってしまいます。

そんな真琴を優しい目で見ている秋子さん。

大人の余裕と言うものが感じられます。

…しかし、明日はこの秋子さんですら、私のライバルなのです。

ライバルの数はこれで真琴も含めたら8人です。

べち。

「うぐぅ〜」
「…あら?」

…どこかで見たような方が転んでいます。

「大丈夫? あゆちゃん」
「あ、秋子さん…うん、ボクは大丈夫…あっ! チョコっ!」

ごそごそとポケットを探るあゆさん。

「…よかった。無事だったよ」

ほっと安堵の声を漏らします。

「祐一さんに…ですか?」
「あ…うん、えへへ」

あゆさんは顔を真っ赤にしていました。

…しかしなんということでしょう。

これでライバルがさらに増えてしまいました。

ひょっとしたら私は物凄く無謀な事をしているのでしょうか。

「あの…今日は失礼します」
「あ、美汐ちゃん、さようなら」
「またね〜」

…私は逃げ出すようにその場から離れていきました…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「はあ」

私は台所で、まだ原型のままのチョコを見つめながら溜息をつきました。
 

…相沢さんが女性にもてる方だということは知っているつもりだったのですが。

ここまでだとは思ってませんでした。

これでは、あの相沢さんのことです。

私ごときがチョコをあげたところで、義理チョコの一部だとしか思ってくれないでしょう。

…私の気持ちなんかに、気付いてくれるはずが無いんです。
 

………。
 

…………。
 

今更、愚痴ったところでしょうがありません。

全ては私の内向的な性格と、相沢さんの鈍い性格がいけないのですから。

あるいは、チョコを渡して思い切って私の気持ちを…
 

………。
 

と、とにかく。

私は全身全霊を込めて明日のためにチョコを作り上げるのみです。

「型も用意したから後は湯せんの準備…」

そうして、お湯を入れるための鍋を用意しようと思って手を伸ばした矢先。

足元にあるものがあることに気付きました。

「…これは」
 
 

それは、悪魔のささやきだったのです。
 

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