「…はっ?」
 

私が気が付いたとき。
 

見知らぬ部屋で。
 

見知らぬ服を着ていて。

「よう」

そして見知った顔があって。

「あ、あの…これは…一体?」

私はそこにいた相沢さんに、少し戸惑いながら話し掛けたのでした。
 
 














美汐ちゃんのメリー(?)バレンタイン
後編
「2/14のキセキ」












「いやあ、ここは俺の部屋だぞ」

相沢さんは複雑そうな顔で頬を掻いています。

「…そ、そういえば」

…僅かながら、私の脳裏に記憶が蘇ってきました。
 
 
 
 
 

私は。

…チョコレートを持って相沢さんの御宅に来たのです。

もちろん、相沢さんに手渡すために。

学校で手渡すことも考えたのですが。

みなさんがチョコレートを渡している姿を見ると、なんとなく渡し辛くなってしまい、学校が終ってしまったのです。

一旦はそこで諦めたのです。
 

ですが、どうしても諦めきれませんでした。
 

そして相沢さんの家を訪れて。

相沢さんはまだ帰宅していなかったので、部屋で待たせてもらうことにしていたのです。
 

…少し大胆な格好に挑戦して。

…その。

やはり男の方は露出度の高い服が好きなのかと思いまして。

それで…

待っているうちに色々なことを考えて。

不安や、期待や、これからのことや。

そしてだんだんと不安が強くなってきたんです。

私への自信の無さが。

チョコレートの味の自信の無さにも繋がって。
 
 
 
 
 

「自分のチョコの試食をしたら、ブランデーに酔っちまった、てとこか?」
「…はい…」

ほとんど覚えてませんが、おそらくそうなのでしょう。

私の手作りのチョコレート。

ほんの悪戯心だったのです。

ブランデーを入れたら、美味しくなるんじゃないかって。

…お酒に弱いので、試食はしてなかったのです。

渡す直前になって、どうしても味が気になって…
 

一口食べた後の記憶がありません。
 

「…わ、私、何か変なことをしませんでしたかっ?」

私は慌てて相沢さんに聞きました。

「…いやぁ」

そして相沢さんは意地悪い笑い方をします。

「天野が俺のベッドの上にいるということはだな」
「まさ…まさ…まさかっ?」

よ、酔っていたとはいえ、そ、そんなことをっ?
 

「だあ、冗談だ。んな顔すんな」
「ほ、本当ですか?」
「オオマジだ。そんなこと出来るかバカ」
「…そ、そうですか」

それは私に女としての魅力が無いという意味にも捉えられるのですが。

…そう、ですね。

相沢さんはそんなことをする人では無いのです。

ああ見えても相手の意見を尊重する方ですから。
 

「…うーん、ブランデーのせいで俺も酔っちまったかもなあ」
「えっ…?」

相沢さんはまた悪戯っぽく笑いました。

「ああ、チョコは全部食ったぞ」

そう言って、見覚えのある空箱をくるくると指先で回し始めます。

それは、私のチョコレートが入っていた箱でした。

「なかなか美味かったな」
「そ、そうですか。どうも…ありがとうございます」

なんだか食べてくださったのは嬉しい限りなのですが…その、恥ずかしいものです。
 

「ああ、そういえば酔っていた天野とキスしたような気がするなあ」

そして相沢さんは唐突に思い出したかのようにそんな…

「え…え…えええっ!」

き、き、き、き、き…っ!?

「ブランデー味のキスだったぞ。うんうん。しかも天野からしてきた」
「そ、そそそそそ…」

そ、そんなとんでもないことを私は仕出かしてしまったのでしょうか。

ああ、天野美汐、生涯最大の事件かもしれません。
 

「ほ、ほかっ、ほかにはなにもしてないですよねっ?」
「そりゃあ欲望に負けそうにはなったが…いやいや。うん。だから何にも無かったぞ」
「………」

なんだか安心していいのやら悪いのやらです。

残念なようでもあり、嬉しいようでもあり。
 

「………ま。ちゃんと酔ってないうちに天野の気持ちを聞きたかったからな」
「え?」
「ああ、俺は本当にブランデーに酔っているのかもしれんなあ」

はぐらかすように相沢さんはふらりと体の向きを変えました。

「あ、相沢さんは、そのっ」

私は思い切って聞いてみることにしました。

ひょっとしたら、相沢さんの気持ちを聞ける最後の機会なのかもしれないのです。

「…ああ、何だ?」

相沢さんはそっぽを向いたままです。

それでも私は聞いてみました。
 
 

「その…私のこと…は、どう、お思いになっているのですか…?」
 

「………」
 
 

相沢さんは答えてくれず、そのままじっとしていました。
 
 

「ああ、天野。酔っ払いの戯言だと思って聞いてくれ」

…やがて、ぽつりと呟く相沢さん。
 
 

「…はい」

それでも私は頷きました。
 
 
 

そして相沢さんは私の正面を見据えて。
 
 
 

…本当は相沢さんは全然酔ってなんかいないんです。
 
 

その目の輝きははっきりしたものでした。
 
 
 
 
 
 

「…俺は」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

…バレンタインデー。

女の子が、意中の男の人に愛の告白をする日。
 
 
 
 
 
 

…残念ですが、私は告白出来ませんでした。
 

何故かって。
 

それは。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「…じゃあな。体に気をつけろよ、天野…いや、美汐でいいのか?」
「どちらでも構いませんよ。お好きなように呼んでください」
「むぅ。じゃあ美汐は俺のことを祐一と呼ぶように」
「…なんだか恥ずかしいですね」
「気にするな。もっと恥ずかしいことをした後なんだぞ」

ぼふ。

私は思わず相沢…いえ祐一さんの頭を叩いてしまいました。

「いきなり何をする」
「…そんなこと、言わないで下さい」

思い出して顔が赤くなってしまいます。
 

…やはり訂正事項なのですが。

相沢さんは酔っていたかもしれないようで。

その。

…まあ、色々な行為、というものをしてしまいまして。
 
 

大人の恋愛って、凄いです。
 
 

「でも、あの言葉は嘘じゃないですよね」
「ああ、神に誓うぞ」

そして元々この人はこういう言葉すら恥ずかしげもなく言えるのです。

…そう。

だからストレートだったんですよ。
 

あの言葉も。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「天野、好きだ。俺と付き合え」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

…告白されたら、私から告白なんて、できないじゃないですか。
 

ね。
 
 
 
 

「ふつつかものですが宜しくお願いします」
 
 
 
 

これ以上は野暮と言うものです。
 
 
 
 
 
 
 

二人はこれからも幸せな毎日を過ごしました。

で終わることにしましょう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

メリーバレンタイン、です。
 

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