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風が騒ぐ。
夜空に輝く満月も、何処か落ち着きがない。
そう、今夜。
新宇宙の女王が決定する―――。

◇         ◇

 眠れない。
 この心に広がる、表現しがたい感情は何だろう。
 一体何が起こっているの?
 ベッドから立ち上がって、窓の外を見る。
 いつもより明るい月が、真上まで昇っていた。
 気が付くと、わたしの回りをふわふわとした光が漂っている。
 軽く手のひらを広げると、吸い込まれるようにはまった。
 光の球体に、新宇宙いの意志の姿が映し出される。
 ――アルフォンシア?
 アルフォンシアなの?
 それじゃ、わたし……!
 全てが理解出来たと同時に、力が抜けてその場にへたり込んでしまう。
 どうしよう。
 まだ何も伝えてない。
 わたしはどうしたらいいの!?
 セイラン様……!!

◇         ◇

 真夜中も過ぎた頃、女王候補アンジェリークは静かに特別寮を抜け出した。
 今日の昼に立ち寄った庭園。噴水の水が月の光に輝いて、小さな星空を作る。
 それはすぐ消えてしまうけれど、自分たちが一生懸命に作った惑星たちは簡単には消えない。
 その女王に、自分はなるのだ。
 しかし、本当にこんな気持ちで女王になっていいのだろうか。
 たった一つの恋も中途半端にしたままで、新宇宙を育成することができるのだろうか。
 でも、もう決まってしまった。
 そしてそれを放り出すことは出来ない。
 新宇宙の意志を、裏切ることは出来ない。
 自分は……女王候補なのだから。

いつからだろう 君のことを夜更けまで
考えてる僕がいる

 女王候補になる前、よくこの歌を歌っていた。
 そして今は、この歌詞の意味が、この歌詞の主人公の気持ちがよくわかる。

多分君は もう眠りについた頃
声も聴きたいけど 受話器戻した

 きっと彼ももう眠っているはずだ。
 そして明日の朝には、自分を女王として祝福してくれる。

想えば想うほど 君が好きになる

 苦手だった。
 彼の言葉一つ一つが棘のように自分の心に刺さって、彼に会った後は何度も涙を流した。

逢えば逢うほど 忘れられない

 だけど、本当は自分のことを考えて言ってくれていることに気付いた。
 そう思った瞬間、彼が気になって仕様が無かった。

こんな想いは とても言葉にできない

 溢れ出す、彼への愛情。
 恋という言葉では括れない、貴い感情。
 この気持ちをどうすればいいのか分からなかった。
 涙が溢れてくる。
 自然と歌う声が枯れて、もう歌えなくなってしまった。
 その時――。
「もう少し聞いていたかったんだけどね」
 突然聞こえた声に身体を硬くして、恐る恐る振り返る。
「僕としては」
 声と一緒に飛び込んできた彼の姿に、少女は驚きを隠せなかった。
(セイラン様……!!)
 庭園の入り口に立っていたのは、感性の教官であるセイランだった。
 少しずつ彼女に近づきながら、セイランは言った。
「君の歌声がこんなに綺麗だったとは知らなかったよ」
 彼のことを想いながら歌っていたのを聞かれた上、まさか逢えるとは思っても見なかったアンジェリーク は、身動きひとつ出来なかった。
「最後に聞けて、僕は得をしたのかな」
 微笑うでもなく、ただ呟いた彼の言葉に少女は俯いた。
 その台詞だけで、今夜女王が決定することを知っていることが分かる。
「……気付いて、いらっしゃるんですね」
 独り言のように小さく呟くアンジェリークには、今にも消えてしまいそうな儚さが漂っていた。
「気付いてない人なんていないと思うよ。……大事な夜なのに、ここにいていいのかい?」
 口をついて出るのは、いつもの皮肉。
 それが少女にどれだけ衝撃を与えていたか知る由も無く、セイランは続けた。
「……君は、女王になるつもり?」
 彼の問に、アンジェリークは戸惑ってしまった。
 改めて知らされる、辛い現実。
 それを彼の口から聞きたくなかった。
「わたしは、女王候補です。そのために試験を受けて……」
「そうじゃない。君の気持ちはどうなの?」
 しばらく考えたあと、ようやく口を開いたアンジェリークの言葉を遮り、セイランは言った。
 自分の気持ち……?
 どういった気持ちで、彼はそんなことを言うのだろう。
 惑わせて、何を聞きたいのだろう。
「君自身は女王になりたいのかい? 好きな人ぐらいいるんだろう?」
 彼の問にアンジェリークは勢いよく顔を上げ、セイランを見た。
 涙で濡れたその瞳が、彼女の気持ちを語っていた。
 でも、言うことが出来ない。
 彼の口ぶりでは、自分を女王にしたいように聞こえてならないのだ。
 自分の本当の気持ちを伝えて、今更どうなる訳でもない。
 そんな気持ちが、アンジェリークの心の中に広がっていった。
「君の優しさと芯の強さがあれば、立派な女王になれるよ」
 セイランの口から出たのは、女王を願う言葉。
 その言葉に、突き落とされたような絶望感を覚えた。
 そう。彼は教官だ。そして自分は女王候補。
 今更……分かっていたはずなのに……。
「セイラン様は……わたしが女王になることを、望んでいらっしゃるのですか?」
 悪あがきにしか思えない、答えを聞きたくない質問。
 もし今の問に「YES」と言われたら、自分はどうするだろう。
 言ってしまってから後悔した。
 声が震えている。
 力を込めた手も、微かに揺れる癖のない髪も、哀しみで震えていた。
「ここまで教えてきた甲斐があったということだからね。喜ばしいことだと思うよ」
「そ……そう……ですよね。セイラン様にとって、わたしは……」
 涙で言葉が濁る。
 生徒でしかない。その一言を口にするのが怖かった。
 予測出来ていた答え。
 だけど肯定してしまったら、そこで自分の想いも終わってしまう。
 それだけは避けたかった。
「でも、その言葉はあくまで教官としての台詞だ」
 だが、突然舞い降りた思いがけない言葉に、アンジェリークは耳を疑った。
 恐る恐る顔を上げると、セイランの優しい瞳と視線がぶつかる。
 そんな驚いた表情に微笑み、セイランは続けた。
「僕は君が女王になることなんて望んではいない」
 そう言うと彼はアンジェリークを包み込むように抱きしめた。
「セイ……ラン……様?」
 顔を真っ赤にし、少女はセイランのされるがままになっていた。
「君はここで諦めるのかい? これで僕と逢えるのも終わりにしたいの?」
 彼の言葉に、アンジェリークの鼓動がひとつ大きく高鳴った。
(セイラン様……気付いて……!!)
 気持ちを知られてしまった恥ずかしさと、気付いてもらえた喜びとが入り交じって、目頭が熱くなってくる。
 セイランはアンジェリークの髪を梳きながら、彼女の耳元で囁いた。
「そんなの、僕だったら願い下げだね。こんなに君が好きなのに」
 彼の声が頭の中で反響して、頭がぼうっとなっていくのが分かる。
 ――こんなに君が好きなのに――
 信じられない。
 何度も何度も繰り返し見ていた夢が、この夜に叶うなんて思ってもみなかった。
「君はどうなの? 君の、本当の気持ちを知りたい」
 少し身体を離して、彼が少女の顔を覗きこむ。
 その真剣な眼差しに、もう嘘はつけなかった。
 嘘なんてつきたくなかった。
「わたしも……わたしも、セイラン様のことが好きです」
 堪えていた涙が、頬を伝う。
 やっと言うことが出来た、遅すぎた告白。
 それでも、伝えられたことが何よりも嬉しかった。
 そして、同じ気持ちを抱いていたことが、アンジェリークに決心をつけた。
 セイランの背中に回した腕に力がこもる。
 自分のこの気持ちを失うのが怖くて、女王になれば切ない想いにさよならすることが出来ると考えた満月の夜。
 しかし、断ち切ることが出来なかった。
 終わることを知っていたのに。
 別れが来ることを知っていたのに。
 どうしても彼への気持ちを忘れることが出来なかった。
 諦めなくてよかったと、今なら思える。
 この想いがあれば、生きて行ける。
「最後だね」
 彼が寂しそうに呟いた。
 敵わない、とアンジェリークは思った。
「なんでもご存知なんですね」
「君のことだ。分からない方がどうかしてる」
 少し不機嫌な声で、セイランは言った。
 それに対して、少女はにっこりと笑う。
「何笑っているの?」
「……嬉しいんです。今夜、一緒にいられてよかった」
 この夜は最後じゃない。
 今から『始まる』のだ。
「いつかまた、逢いましょう」
「守られるのかい? そんな約束」
「はっきりとは言えません……。だけど、ゼロじゃない。そうでしょう?」
「何だか確信に満ちた答えだね」
 アンジェリークの言葉に呆れたのか、ひとつ溜め息をついたが、彼はこう続けた。
「でも……そうだね。100のうち99が別れる運命だとしても、1つだけの幸せな奇跡を信じる方がいい」
 彼の言葉で、アンジェリークの瞳にまた涙が滲む。
 そして感じる、新宇宙に生まれた新しい惑星の存在。
「セイラン様……」
「おめでとうなんて、僕は言えない」
 彼の表情がくもり、少女の頬に涙が伝う。
 この涙は嬉しいからなのか、哀しいからなのか分からない。
 だが、行かなくてはならない。
 新宇宙の意志――聖獣アルフォンシアのところへ。
「行っておいで。僕に出来る唯一のことを、無駄にして欲しくないからね」
 躊躇しているアンジェリークを抱き寄せて言うと、セイランは王立研究院の方に彼女を向けて、背中を軽く叩いた。
 少女は軽く頷き、二・三歩進むと、突然振り向いてゆっくりとお辞儀をした。
 そしてセイランに背を向け、王立研究院へと走り去った。
 アンジェリークの後ろ姿を見えなくなるまで見つめ、それからセイランは夜空へと視線を移した。
「僕達が出逢う運命だというなら、彼女が女王になることは宿命だったのかな」
 運命は変えることが出来るが、宿命は変えることが出来ないと誰かが言っていた。
 しかし、そういう言葉で諦めるなんて出来るはすがない。
 人の想いは、宿命をも変える強い祈り。
「君がまた逢えると言うなら、僕はそれを信じることにするよ」
 夜空に願う、奇跡。
 そして、奇跡の物語が始まるのは、また別のお話――。

END


りおさん、ありがとうございました! 前向きな温和ちゃん、好きです(^.^)
このお話、続きはやはり『レクイエム』になるのかな?
わたしはセイラン様とラブラブのままゲーム終わらせました(爆)

このお話のタイトルは、スターダスト☆レビューの曲だそうです。
アンジェの歌っている曲も、スタレビの曲だそう。(『気が付けば君のこと』というタイトルだそうです)
一度聞いてみるのもいいですね(^。^)

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