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愛は二度目覚める

 「この宇宙に生命が生まれてずいぶんたつね、アンジェリーク」
 「ええ、あなたのおかげで順調に増えてるわ、レイチェル」
 「何言ってるの。私は星々の人口バランスを考えているだけだわ。あなたの力無しではこれも出来ないことよ」
 あの女王候補試験から何年たっただろうか。
アンジェリークとレイチェルは少しだけ大人になり、彼女らの宇宙に出来た星々もまぶしく瞬いていた。
 途中、自分たちが生まれ育った宇宙が危機にさらされ、それを守護聖様や教官達と協力して救ったこともあった。
 そのときに、つらい別れもあった。
 「さよならは言わないよ、アンジェリーク…」
 力強く送り出してくれた彼の言葉が、今のアンジェリークを支えてくれているのかもしれない。

 「ねぇ、レイチェル。あなたばかりが星々の偵察に行ってくれているのは不公平だわ。私も…ね?」
 少し考え事をしていたアンジェリークが、不意に思いついたように切り出した。
 「何言ってるの!アンジェリーク。女王たる者、そうあちこち出歩いちゃいけないって!」
 「わかってるわ、でも…」
 しゅんとした女王を見て、補佐官はいずこも困り顔である。
 「なんだかロザリア様のご苦労がわかる気がするわね。
…しょうがないなー。一度だけよ?今は割と安定してるから…で、どの星に行くの?」
 クスッと笑って片手にデータボードを持ち、レイチェルが促す。
 「ありがとう!レイチェル。私…湖上の星に行きたいの」
 少し頬を赤らめながらも、明るい笑顔でアンジェリークは答えた。
 「ハイハイ。…って、アンジェリーク、あそこは点在する湖に、年中霧がたちこめてて面白いこと何もないわよ?深緑の星とか…白壁の星みたいに都会な所とか…」
 「レイチェル、私はそこが…いいの」
 ますます顔を赤らめながらも、アンジェリークは頑として行き先を変えなかった。
 「なんだかわからないけれど…いいわ。じゃ、後で研究室に来て」
 「ええ。ありがとう、レイチェル」
 部屋を出ていくレイチェルを見送りながら、アンジェリークはまだ火照っている自分の頬を両手で覆い、ひとりごちる。
 「セイラン様…」

 

 アンジェリークは、次元回廊を通じ、湖上の星に1人降り立った。
 「いい?アンジェリーク。お忍びだから護衛をぞろぞろ連れて行くわけにはいかないの。一人だからって、羽目を外したらダメよ?
とにかく、時間通りに戻ってきて。じゃあ、気をつけてね」
 アンジェリークはレイチェルから見れば危なっかしい女王様らしい。次元回廊に入るまで、心配そうにこちらを見ていた。
 「とにかく、この場所をちゃんと覚えておかなくてはね」
 あまり深くはないが、文字通り霧がたちこめる星だ。アンジェリークは持ってきた赤いリボンを少し高めの木の枝に結びつけた。
 少し風が吹いて、霧が多少晴れると、鳥達が一斉に飛び立った。散在する木々、大地を覆う草花。やはり何もかもがあの惑星に似ている。
 何故だかアンジェリークはこの星に呼ばれたような気がしていた。それもうなづけるというものだ。
 ふと、あたりを見渡すと、小さな小屋が少し離れたところに見えた。
 アンジェリークは引き付けられる様にそちらに向かって歩き出した。

 獣道さえない草の上をゆっくりと進む。次第に小屋に近付いていくと、人影があった。
 「あ…」
 イーゼルにキャンパスを立て掛け、一心に絵筆を動かしているその人の姿に、アンジェリークは息を飲む。
 青紫の髪を肩口で切り揃え、華奢な体にゆったりとした衣装をまとい、細く白い指が筆を握っている姿は…
 「セイラン様!?」
 思わず声を出してしまった。
 すぐ後ろ。ほんの数メートルの距離である。人影はゆっくりとこちらを振り返った。

 「やっと、来たね。アンジェリーク」
 見覚えのある顔、姿、聞き覚えのある声。その場でアンジェリークは頬を覆った。
 「信じられない…セイラン様…」
 この間から、何かしら予感を感じていた。しかし、こんな幸せな予感だったとは…。
 「でも、どうして。どうして…」
 だがしかし、聖地とリモージュ女王の統べる宇宙、また自分の統べる宇宙とは時間の流れが違う。
 あれから深き霧の惑星に戻ったセイランは、新宇宙の聖地に戻った自分とは違う時間に生きているはず…。
 自分は少し歳をとっただけだが、彼は、もう存在しないはず…。
 「驚いた?そうだろうね。実は僕も驚いているんだよ、これでも」
 すっと筆を置き、アンジェリークに近付いてくる彼。あの時別れたセイランそのものの、彼が。
 「セイラン…様」
 頬を両手で覆ったまま、彼を見上げる。澄んだ青紫の瞳がアンジェリークを捉える。
 「僕は…セイランでもあり、別の誰かでもある」
 少し間を置いて、彼は話し始めた。
 「僕は、君のことを知っているし、セイランという名前も名乗ってる。でも、君の知ってるセイランは死んだんだ。そう、寿命をまっとうしてね。
 おかしいことを言ってると思ってる?いいよ、そう思っても。でも、これは事実。僕はセイランの記憶を持って生まれた。正真正銘、君が治める宇宙生まれの人間なんだ」
 「セイラン様…が、セイラン様じゃない…」
 何の事を言っているのか、にわかにはアンジェリークには理解できなかった。
 ただ、優しく微笑む、今ここにいるセイランを感じるだけだ。
 「彼は、『千年の恋を眠らせる』…と、詩ったことがあるよね?
 そう。本当に眠らせたんだよ、君への想いを…きっとまた君に会えると…
 僕はもうセイラン自身だ。ずっと記憶の中だけの君に恋してた。アンジェリーク」
 アンジェリークは涙を流しながら、セイランの話を聞いていた。
 あの人が、忘れられなかったあの人が、自分のことを想いこの地に生まれ変わったと…
 「アンジェリーク…」
 優しく、両手を包まれる。
 「やっと会えた。気が長い僕も、ここで会えなかったら諦めていたかもしれないな」
 昔のような、少々皮肉っぽいセリフが、アンジェリークを微笑ませる。
 「私も、会いたかった。セイラン様」
 もう、彼が昔の教官であったセイランではないことなど関係なかった。自分を想ってくれる一人の青年として、セイランとして、彼は今ここにいる。
 アンジェリークが好きになった、セイランそのままに。

 「ねえ、アンジェリーク。君は女王なのだから、すぐにここから帰らなければいけないんだろう?」
 「ええ」
 幸せも束の間の夢に過ぎないのだ。自分が戻れば、また二度と会えない時間が廻る。
 アンジェリークは哀しげに瞳を伏せた。女王の仕事をやめるわけにはいかない…。
 「僕にいい考えがあるんだ、アンジェリーク。
 僕を…君の住む聖地に連れて行ってくれないかい?」
 何を言い出すのか…アンジェリークは一瞬自分の耳を疑った。
 「出来ないわ。そんなこと」
 「どうして?僕は僕に記憶を残したセイランみたいに君を諦めたくないんだ。今、行動して、君と居られる様にしたい。
 君の仕事の手伝いもしよう。聖地には補佐官もおられるだろうが、二人より三人だよ。
 君が僕と居るのが嫌だって言うのなら仕方がないけどね」
 少し意地悪な瞳。
 「レイチェルに…相談を…」
 「待てないよ」
 ニッコリと笑いながら困ったことを言う。
 アンジェリークは少し考えて、「いいわ」と明るく答えた。
 「リモージュ女王様にも守護聖様がいらっしゃるんですもの。セイラン様がわたしの宇宙の守護聖様になってもいいと思うわ」
 「素質があればいいんだけどね。ま、やってみるさ」
 お互いにウインクしながら、笑い合う。
 二人は次元回廊に向かって歩き出した。

 

 「でも、私の宇宙の聖地に来てしまったら、遊んでばかりもいられないわ。会える時間があるかどうか…セイラン様だって、ご自分の時間が減ってしまう…」
 フッと歩みを止めて、アンジェリークは考え込んでしまった。
 思い付きで言ってしまった自分の案に、今頃後悔をしているらしい。
 「いいよ。聖地に居れば、時間がほんの少し空いただけで会えるんだ。でも、僕がここに残れば、時間が出来たって僕はこの世に居られない。そうだろう?」
 何もかもわかっているよ。と、セイランの瞳は語っていた。
 守護聖の任務がどれだけ大変かわかっている上で、自分は賛成したのだと…。
 「行こう。アンジェリーク」
 「ええ」
 顔を上げ、歩を進める。
 赤いリボンを結んだ枝は、すぐそこに見えている…。

END

いやあ、すごいご都合主義な短編っすね(汗汗)
ま、二人が幸せならいいかなっと(^_^;)
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