| 銀のラトゥラ |
<1> 銀色の小鳥
うららかな昼下がりの庭園。
足下の小石を片っ端から蹴りながらゼフェルが歩いてくる。
「ったく、なんでオレのメカが使えないんだよ!」
いつものようにゼフェルは荒れていた。
日頃なにかと世話をやくルヴァのために蔵書整理ロボットを作ったのだが、どこをどう操作したものか暴走し、本と本棚を一部破損してしまったのだ。
今回ばかりは自分のせいだからと、ルヴァは謝ってくれた。
でも、ゼフェル自身は、役に立たないメカを作ったような気がして、なにか心の中がもやもやとしていたのだ。
「なんかこの景色すら気にくわねぇな」
景気良く噴水の水を手ではらってみたが、むしゃくしゃした気持ちは変わらない。
「だぁっ! もう! 時間は早いけど、外に出かけるとするか」
そのまま、ゼフェルは聖地を後にした。
◇
聖地を抜け出したゼフェルは、かよい慣れた通りを抜けていつもの繁華街へと足を運んだ。
夕日に照らされた軒先には夕餉の香りが立ちこめている。
「腹が減ってりゃ、怒りっぽくもなるってもんだぜ。さて、何を食うかな」
これから食べるはずの料理に思いをはせながら通りを歩いていたゼフェルだったが、ふと、誰かに見られている気配を感じた。
「何だよ。誰だ? オレ様にガンくれてる奴は」
通りを歩く人はこれといって気にも止めず通り過ぎていった。
あとは道端で篭に入った何かを売っている老人だけだ。
呼び込みをするわけでもなく静かに座っているだけだが、その陰に隠れるように座っている子供から射るような視線が投げかけられていた。
「何だよ、このガキ。何が珍しいんだよ」
頭から古びた布をショールのように巻き、顔しか出していないが、睨んでいるようにも見えるのは、その瞳の色のせいだったのかもしれない。
(何だこいつ、オスカーみてえな色だな・・・)
アイスブルーの瞳はゼフェルを捕らえて離さない。
近寄ったゼフェルさえ恐れてはいないふうだった。
あわてた老人がたしなめるように言った。
「これ、よしなさい。お客様、気にしないでやって下さい。自分と同じ髪の色を初めて見たからでしょう。失礼はこの通りお詫びしますから」
「そんな、じいさんが謝ることねえって。おいおめー、オレと同じ色の髪なのか?」
頭からかぶった布に手をかけた瞬間、その子供は老人の後ろへ回り込んだ。
ずれた布から現れた頭は薄汚れてはいたが、肩まで伸びたその髪はゼフェルより透き通るようなシルバーブロンドだった。
「何だよ、逃げないで何とか言ったらどうなんだよ!」
「申し訳ありません。この子は啼けない小鳥なんですよ。そっとしておいてやって下さい。ご無礼は重々謝りますから」
「小鳥って、どう見たって人間じゃねえか。口がきけねーってんなら、そう言やいいんだ」
「お客様はラトゥをご存知ないのですな。でしたらなおさらです、お気になさる者ではありませんよ」
「ラトゥって・・・ま、いいや。これ以上は詮索してもムダみたいだしな。ところで、じいさんは何を売ってるんだ?」
「これはお茶ですよ。野草をいくつかブレンドしております。それぞれに薬効もありましてな・・・」
「じゃ、それくれよ。頭の回転がシャキッとして、カツゼツが良くなるようなやつをな」
「そう細かい薬効は期待できませんが、これなどがよろしいでしょう。ありがとうございます」
ゼフェルは野草茶をルヴァへのみやげにしようと思った。
訳なんかどうにでもなる、そう思いながら、お茶の袋を手のひらで跳ね上げ、雑踏の中へとまた紛れていった。
◇
「さて、飲んだし食ったし。バレねぇうちに帰るとするか」
かなりいい気分でふらふらと元来た道をたどっていると、さっきの道で人だかりが出来ている。
「・・・あのじいさん、大丈夫なのかねぇ・・・」
「・・・だってあんなにおおっぴらにラトゥなんか連れてるからさ・・・」
後ろのほうではひそひそと噂話もとびかっているようだ。
ゼフェルは人混みをかき分けると、その光景に我が目を疑った。
無惨に飛び散った茶葉のなかで、泥まみれで倒れているのはあの老人だったのだ。
「じいさん! 大丈夫かよ」
「あ・・・さきほどの・・・わしにはもう・・・かまわんでください。・・・それより、あの子を・・・あの子をどうか・・・」
「じいさん!」
何やら周りでは警備兵らしき人影が近づいてきているらしい。
ゼフェルは気になりながらもその場を離れた。へたに素性をさぐられても困るからだ。
後ろ髪を引かれる思いはあったが、近くにいるだろうあの子供を捜す方が先だろうと、ゼフェルは近くの小路をかたっぱしから見てまわった。
「でもよ、あの子ってったって、いったいどこに行ったってゆーんだよ」
これ以上時間をかければ、抜け出していたことに気づかれて、お茶を渡すどころの話では済みそうもない。
ここは諦めてさっさと帰るに限るだろう・・・そう思った瞬間、
「うげっ!」
突然マントを引っ張られ、ゼフェルはそのまま後ろ向きに倒れた。
「いってて・・・誰だよ! 何しやがる!」
振り向いた先にいたのはあの子供だった。
頭からかけていた布は首周りにまかれ、シルバーブロンドの髪とアイスブルーの瞳が月の光を反射してる。
その姿はまるで、子供自身が銀色に輝いているようだった。
ゼフェルを睨み付けるような視線は変わらないが、表情はかなり不安気だ。
「どうしてたんだよ。今までどこにかくれてたんだ?」
しかし、子供はゼフェルの顔を見つめたままだった。
「あ、そうかオマエしゃべれないんだったな。悪かったよ、でもオレ帰らなきゃなんねーしよぉ。連れていくわけにはいかねーし・・・」
子供はゼフェルのマントの端を握りしめたままじっと見つめている。
このまま素直に離してくれそうにはなかった。
「だーっ! もう、わかったよ。連れていきゃいいんだろ。でも、オレだってオマエだって見つかったらヤバイんだからな。わかってんだろーな?」
小さくうなづく子供を邪見にすることもできずに、ゼフェルは秘密を抱えたまま聖地へと戻ることになった。
つづく。
さて、この『ラトゥ』の少年とは??
ゼフェルが聖地に連れていき、どんな事件が起こるのか??
この作品は、えでぃさんが書いてくれました。