| 銀のラトゥラ |
<2> 鋼の篭
夜が明けるより前に、ゼフェル達は何とか見つからずに自分の部屋まで戻って来た。
でもゼフェルには、この子供をどうしたらいいのかはわからない。
しきりに目をこする様子から、眠いのだろうということだけは解ったのだが。
「オマエ、疲れたんだろ? まずはオレのベッド使っていいから寝ろ」
本当はもっと何か言いたそうな瞳だが、それを聞き出す方法がゼフェルにはなかった。
布団をひきはがすと、半ばむりやりベッドに押し込んだ。
「いいか、目が覚めてもこの部屋から出るんじゃないぞ。見つかったらどうなるかわかんねーからな」
しばらくすると子供は、あっけないほど簡単に眠ってしまった。
だが、体に巻いていた布は胸元で握りしめたままだ。
よほど緊張しているのだろう、ゼフェルは布団を掛けなおすとそっと部屋から出ていった。
「オレは作業場のソファかな。まぁ、いつものことだけどよ」
大きなあくびをしながら半地下への階段をおりていった。
◇
「ゼフェルサマ、フシンシャハッケン! ゼフェルサマ、フシンシャハッケン!」
「・・・何ごとだよ?」
自作のメカが赤いランプを点滅させながらソファの周りをぐるぐる回っている。
もうお昼頃だろうか。
半ば強制的に起こされたので、あまり機嫌のよろしくないゼフェルだったが、だんだん覚めてきた頭の中では、何かがひっかかっていた。
「あぁ〜っ! あいつだ!」
階段を駆け上がり自室のドアを開ける。
ベッドの上には誰もいない。
「だーっ、どこへ行きやがった!」
部屋のすみでカタッとなにかが崩れる音がした。
見ると、書類やら、部品類が寄せ集まっている一角にあの子供はいた。
上目づかいにゼフェルの様子をうかがっている。
「なんだ、そこにいたのかよ。びっくりさせやがって。でも、オレの言いつけ守って部屋からは出なかったみたいだな」
子供は、ゼフェルを見つめたまま胸元の布を首に巻きなおした。
一瞬金色の光が首筋から見えたのはなにかの錯覚だろうか。
「よし。それよりハラ減ってねぇか? 何か持ってきてやるぜ、ちょっと待ってろよ」
あの子供を誰かに見られては困るので、ゼフェルは柄にもなく厨房まで昼御飯を取りに行った。
部屋まで持っていくという使用人をなんとかなだめて、少し多めのメニューをお盆にのせて自室へと帰った。
「メシもってきたぜ。まずは好きなだけ食えよ、オレはこれで充分だからな」
テーブルの上のスナック菓子の箱を取り上げ自分はベッドに座った。
子供はすんなり椅子に座り、少しづつ口にはこんだ。
お腹はすいているはずなのにものすごくゆっくりかみしめながら食べている。
「オマエ、女みたいな食い方するのな。男ならこうがぁっと食えよ、がぁっと」
聞こえてはいるのだろうが、食べるペースは変わらない。
これでも、一心不乱に食べているようなのだ。
「ま、いいけどよぉ。それ食い終わったら風呂にでも入れよ。着替えもなんとか探してやるから」
なんだろう、すんなりと世話をしている自分にふと気が付いたゼフェルだった。
「でも、だれにもバレずにこのまま過ごせるわけねぇしなー。弱ったなぁ」
クロゼットの中から比較的小さめの服と、ベルトを取り出すとベッドの上に並べて置いた。
「食べ終わったら着替えろよ。少し大きいかもしんねーけど、がまんしとけ。オレはこのお茶をルヴァんとこに届けに行くから、絶対この部屋から出るんじゃねーぞ。あ、でもトイレは左のつきあたりだから、見つからねーように行くんだぞ」
あの子供だって自分から離れたら大事になることくらい解るだろう、そうゼフェルは思った。
だから少しくらい部屋を離れたところで出ていったりはしないはずなのだ。
お茶を届けにいくついでにあのじいさんの言っていた「ラトゥ」について聞いてみよう、ルヴァならなにかしら調べる方法は知っているに違いない。
そう思うとルヴァの執務室へ向かう足どりも軽くなるのだった。
◇
「ルヴァ? ちょっと聞きてーことがあるんだけどよー。いるかー」
いつものように無造作にドアを開けてルヴァの執務室へと入っていく。
ルヴァは、今まで読んでいた本から顔をあげるとほっとしたように笑いかけた。
「あー、ゼフェルじゃないですかー。来てくれたんですねー。昨日の今日だからまだ怒ってるのかと思ってたんですよー」
「もういいって、気にすんなよ。それよりこれやるよ」
「何ですか? これは。開けてみてもいいですか」
「お茶だよ。頭がシャキーっとするやつなんだってよ」
「ああ、ゼフェル。うれしいですねー。私がお茶が好きなこと覚えていてくれたんですねぇ。でも、どこで手に入れたんですか? こんなめずらしいお茶・・・」
「どこだっていいだろ。このくらいオレにだって取り寄せられるぜ」
「そうですかー。いやぁ、この香りは初めてですねー。そうだ、みんなも呼んでお茶にしましょう」
「オレはいいよ。調べものしたら帰るからよ」
「まぁ、そう言わずに。たまには一緒にお茶でも飲みましょう。まずはお隣のオリヴィエのところにでも、行ってみましょうかねぇ」
自分の世界に入ってしまったルヴァを止めることもできず、ゼフェルはひきずられるようにオリヴィエの執務室へと向かった。
「もう、オリヴィエ様やめてくださいってば」
入ろうとして開けたドアの前で、ぶつかりそうになったのはマルセルだった。
「マルちゃん、ちょ〜っとかわいらしくしてあげるだけだからさ〜、逃げることないじゃない?」
後ろから来たオリヴィエの手にはピンクのルージュがしっかりと握られている。
「どうしたんですかー? マルセル」
「あ、ルヴァ様。僕、オリヴィエ様にロザリア様のご用事を伝えに来ただけなんですけど・・・。ルヴァ様はどうなされたんですか」
「いやぁ、ゼフェルがね、珍しいお茶を持ってきてくれたものですから、みんなでお茶にしようかとお誘いにきたんですよー」
「じゃ、僕みんなに言ってきます。オリヴィエ様! またあとで」
逃げるようにマルセルは廊下を走っていった。
「ちっ、逃げられちゃった。で、ルヴァ? そのお茶って美容にいい?」
「さぁ、どうでしょうねぇ。初めて飲みますからねぇ。ひょっとするといいかもしれませんよー」
そんな会話を交わす2人に挟まれるように、ゼフェルはテラスへとつれて行かれたのだった。
つづく。
ああ、和みますねー。(おっと、失礼)
放って置かれたラトゥの少年はどうなるんでしょう??
そして柄にも無くお茶に誘われたゼフェルは??
こちらはえでいさんの書かれた小説第2部です。