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銀のラトゥラ

<3> 放たれた小鳥 

 湖のほとりでひとり静かに竪琴を弾いていたリュミエールは、先ほどからじっとのぞく視線が気になっていた。
 彼の視界からははずれているものの、斜めの後ろの茂みに何やら人の気配が感じられたのだ。
「どうぞ、よろしかったらもっと近くで聴いていてもいいのですよ」
 顔をそちらへ向けるふうでもなく、竪琴を弾く手を少しだけ止めて聞き手に語りかけた。
 ほどなく、茶色い布を頭からかぶった子供がおそるおそる茂みから這い出してきた。
 それでもあまり近くまでは寄って行けないらしい。
 しかし、リュミエールはそんなことも気にせず、ただ静かに竪琴を奏でるだけだった。
「リュミエール様。こちらにいらしたんですね」
 声が聞こえると同時に子供は茂みへと消えた。
 入れ違いに現れたのはマルセルだ。
「ごきげんよう、マルセル。どうしたのですか?」
「ルヴァ様がね、お茶にしませんかって。珍しいお茶が手に入ったそうですよ」
「そうですか、それは楽しみですね。さっそくうかがいましょう」
「僕、他の方々にも知らせてこなくちゃいけないので、失礼します。おまちしてますね!」
 リュミエールは、元気に走り去るマルセルを見送ると、人影が消えていった草むらを少し振り返って見た。
 どんな人物だったのか少々気になるリュミエールだったが、流れるようにすっと立ち上がるとみんなが待っているという聖殿のテラスへと向かった。
          ◇
「あ! なんだろう・・・」
 占いの館では少々ヒマをもてあまし気味のメルが、目の前にある水晶球の中に現れた不思議な影を見つめていた。
「人・・・? 頭だけ見るとメルたちみたいだけど・・・あ、違うこれ、帽子だ!」
 水晶球の中のぼんやりと光る人影はゆっくりと踊るような動きをしている。
「きれい・・・でもなんだろう、涙がとまらないよ・・・」
 何を感じとったのかメルの瞳からは大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちている。
「メルはいるか・・・」
 そこへ音もなく入ってきたのはクラヴィスだった。
「ク、クラヴィス様! はい! ここにいます」
 あわてて両手で涙をぬぐって、クラヴィスの方を見てはみたが、ぐずぐずになってしまった顔は隠せなかった。
「やはり、お前も見たのだな・・・」
「クラヴィス様もですか? これは誰なんでしょうか」
「わからぬ・・・しかし、もうこの聖地内にいるのだろうな・・・」
「でも、ここは関係ない人が簡単に入れない場所ですよね。どうやって来たんだろう」
「悪い前兆ではないことくらい、お前にも解るだろう・・・気にするな・・・」
 クラヴィスはそっとメルの頭に手を乗せると、ぽんぽんと軽くたたいた。
「フッ・・・大丈夫だ。・・・ではな、邪魔をした・・・」
 あっけにとられた顔のメルを残して、クラヴィスは去っていった。
「クラヴィス様・・・メルのために、メルがこの人のことで悲しくなっちゃったの知ってて、来てくださったんだぁ。なんかうれしいなぁ」
「メルいる〜?」
 メルが一人で悦に入ってる間に、今度はマルセルが入ってきた。
「あ、マルセル様! いらっしゃい」
「メル? なんか目が赤いみたいだけど、どうかしたの?」
「メルの目は最初から赤いよう!」
「ふふふっ、そうじゃなくて。泣いてたみたいだったから。でも元気そうだね、安心したよ」
「えへっ。クラヴィス様のおかげなんだー。で、マルセル様のご用は?」
「そうそう、クラヴィス様を探しに来たんだけど、いないみたいだね」
「さっきまでいらっしゃったんだよ。まだ近くにいらっしゃるんじゃないかなぁ」
「そっかー、じゃ探してみるね。ありがとうメル、またくるね」
「マルセル様、またねー」
 メルの涙と一緒に、水晶球の影はもうどこかに消えていた。
          ◇
 昼下がりのテラスにリュミエールが到着すると、そこには待ちくたびれたオリヴィエとゼフェルがいた。
 ルヴァはお茶の支度にあたふたしている。
「珍しいですね、ゼフェル」
「おう、ここにいちゃ悪いかよ」
「そんなことはないですよ」
「今日のお茶はね、ゼフェルがルヴァのために手に入れたものなんですって。だもんだからルヴァったら、なんか舞い上がっちゃっててさー」
「そうだったんですか。わたくしがご相伴にあずかってもよろしいのですか? ゼフェル」
「いいんだよ、もうルヴァにやったんだから。誰が飲んだってかまわねーだろ」
 気持ちここにあらずといった風で、いまひとつくつろぎきれないゼフェルはテラスのイスに逆さに座り、背もたれを抱えてぐったりしている。
 学芸館の方向からは、手を高々と振りながらマルセルがやってきた。
「おまたせしましたー! 教官の方々にもお知らせしてきたんですけど、いいですよね?」
「ああ、マルセル。ご苦労様でしたねー。もうすぐ支度ができますからねー」
 ポットとカップにたっぷりとお湯を注ぎ、器を温めながらルヴァがねぎらった。
「なんか楽しみだなぁ、どんなお茶なの?」
「頭がしゃっきりして、カツゼツが良くなるお茶なんだってよ」
「キャーハハハ。そんなのあるわけないじゃん。どっかでだまされたんじゃないの?」
「るせえよ。冗談に決まってるだろ。それよりルヴァ、ラトゥって知ってるか?」
「ラトゥですかー。そうですね、どんな物なんですか」
「啼けない小鳥なんだってよ。鳥類図鑑かなんかで調べてくれねーかなぁ」
「鳥なのに啼かないの? 飛べない種はいるけど、啼けないっていうのは僕聞いたことないよ」
 小鳥には詳しいマルセルだったが、知らないらしい。
「おめーには聞いてねーよ」
「そんな言い方はないんじゃないか? ゼフェル。マルセルがかわいそうじゃないか」
 聖殿の方から向かってきたランディが、くるなりたしなめた。
「こいつがでしゃばってくるからだろー? それに、おめーは関係ねーだろ」
 いつもながら、三人寄れば・・・な状態になっているのを、冷静に見ているのはオリヴィエとリュミエールだった。
「あ〜ら、また始まっちゃったのね」
「仲がいいからこそなのでしょうね」
「リュミちゃんも言うわねー。ま、そうなんだけどね」
 ルヴァがお盆にのったお茶をこぼさないようにテーブルに並べはじめる。
「ゼフェル。ラトゥの件はあとで調べてあげましょうねー。さあ、お茶が入りましたよー」
「じゃ、頼んだぜ。オレは家に戻るわ。じゃーな」
「あー、ゼフェル。一緒に飲むんじゃなかったんですかぁ」
ルヴァのセリフも最後まで聴かず、ゼフェルはテラスを後にした。

<4> 小さな波紋


くう―――。後少しでラトゥの少年の謎が解けそうで…
解けませんねー_。(^^;)ゞいや-引っ張りますね。
でも、それだからこそ、次が楽しみと言うもの。

こちらはえでぃさんの書かれた小説第3部です。

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