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銀のラトゥラ

<4> 小さな波紋

 丁度その頃、ジュリアスの執務室にはロザリアが打ち合わせに来ていた。
「では、次の土の曜日までに届けよう・・・」
「お願いするわ。そういえば、ルヴァがテラスでお茶会をしているそうね」
「先程マルセルが知らせに来たが」
「ジュリアスも参加するのかしら?」
「無碍に断るのもどうかと思ったので、これから向かおうと思う」
「そう、楽しんでいらしてね。それでは失礼するわ」
 執務室のドアの前でロザリアと別れると、ジュリアスはテラスへと向かった。
 聖殿の入り口から森の湖の方向へふと目をやると何やら小さな影がこちらにむかって歩いてくる。
 聖地といえども一般人がいないわけではない。
 だから、どこで人に会っても不思議はないのだが、午後のうららかな日差しの中で古びた布を頭からかけたまま歩いている姿が、ジュリアスにはかすかな違和感として写ったのだ。
 建物に気をとられていた子供が、ふとジュリアスに気づいて立ち止まった。
 ほんの数秒だけ顔を見合わせていたが、子供の方がすぐに逃げるように走り去ってしまった。
 ジュリアスは混乱しているのか表情が固まったまま、何かをつぶやいた。
「・・・オスカー・・・か?」
 くるりと振り返ると、今出てきたはずの聖殿へ入っていった。
 聖殿の廊下を自分の執務室とは反対の方向へ足早に進んでいくと、オスカーの執務室のドアを開けた。
「オスカーはいるか」
 そこには窓辺の花を生け代えている秘書が一人いるだけだった。
「これは、ジュリアス様。オスカー様はルヴァ様のお茶会へ向かわれましたが・・・」
「そうか。わかった」
 よほど急いでいるのだろう、居所だけを聞くとものすごい勢いでジュリアスはいなくなった。
          ◇
 テラスでは、結局いつものメンバーでのお茶会が続いていた。
「これはおいしいですねー。そう思いませんかー? リュミエール」
「そうですね。ハーブティーの部類に入るのでしょうけど、この味は初めてですね」
「なんか、さっぱりとした感じがイイですね。ゼフェルもやるなぁ」
 普段はお茶より清涼飲料水派なランディも気に入ったようだ。
 そんなところへ少々早足でティムカがやってきた。
「皆様、遅くなりました。ルヴァ様、お招きにあずかりありがとうございます」
「ティムカはいつも礼儀正しいですねー。でもまあ、堅苦しい挨拶はよしましょう。まずはそこに座って、お茶をどうぞ」
「はい、いただきます。・・・これは・・・」
 一口ふくむと、なぜかティムカの表情が変わる。リュミエールはその様子を見逃さなかった。
「おや、ティムカはこのお茶を知っているのですか?」
「はい。これは僕たちの住んでいる惑星の近く・・・といっても辺境に近いですが、惑星リットリアの「匠(たくみ)」と呼ばれる羽根職人たちのお茶ですよ」
「惑星リットリアの羽根職人!? なんですかそれは」
 今まで聞いたことのない単語が次々と出てくるので、知識欲旺盛なルヴァのテンションがあがってきた。
「えっと、惑星リットリアは僕たちの惑星と同じ王制をしいている惑星で、そこの貴族の風習としてラトゥラの祭りというのがあるんです」
「ラトゥラ!?」
 全員に同時にふりむかれ、ティムカは一瞬イスから飛び上がった。
 みんなの異様な反応に、次の言葉を失ったティムカにマルセルが説明をする。
「さっき、ゼフェルがねルヴァ様にラトゥっていう啼かない小鳥のことを調べてくれって言ってたんだよ」
「そうだったんですか。ラトゥラとは特殊な楽器を演奏しながら踊る女の子たちのことなんです。その特殊な楽器は「羽根」と呼ばれていて、それを作るのが匠、つまり羽根職人なんですよ」
「で、ティムカちゃんはどうしてその羽根職人のお茶を知っているわけ?」
「はい、オリヴィエ様。ラトゥラはその羽根と生活の一切を貴族たちの出資で賄っています。つまり一人に一人必ずパトロンが必要なんですよ。普通はリットリアの貴族が出資するんですが、近隣の惑星にもパトロンにならないかという話はまわってくるんです。僕がまだ小さいときに僕たちの惑星で出資させてもいいかどうか、視察に行く父さまに連れていってもらったので、飲んだことがあるんです」
「では、ラトゥラの祭りっていうのは見たんですかー?」
 静かにうなづきながらも、ルヴァの質問はとまらなかった。
「いいえ、ラトゥラの祭りは出資した貴族たちがその技能を競わせるために開くもので、一般に公開されることはありません。僕が見たのは匠の家にいる普段のラトゥラだけです」
「だとするとラトゥラとラトゥは言葉が似ているだけで関係ないのかな」
 今までの話からのつじつまがいまひとつ合わないランディが問いかけた。
「すみません。僕も小さかったですから、それ以上のことは解らないんです。父さまも出資は禁止にしたので、それ以後リットリアへ行くことはありませんでしたし」
「そうですかー。でもどうしてゼフェルはラトゥの事を知らずにこのお茶を持ってきたんでしょうねー」
「これはなんかウラがあるね。キャハハッ! 面白そうだからあとでゼフェルをつっついてみようっかな〜」
「まだまだ調べなければならないことがあるようですねー。あとで、王立研究院にも寄ってみましょうかねー」
 お茶の出所は解ったものの、ゼフェルのもたらした謎は解けないままだ。
「オスカー! オスカーはいるか」
 それぞれいろんなことを思いめぐらせているところへ慌ただしくジュリアスが現れた。
「ああ、ジュリアス。あなたも一杯飲んでいきませんかー?」
 いつにも増して威圧感に満ちているジュリアスに向かって、さらりとルヴァが言った。
「ルヴァ。それどころではない。ここにオスカーが来ているはずだが」
「オスカーですか? いいえ、こちらには来ていないですよー」
「そうか、ならばよい。では失礼する」
「ジュリアス? オスカーがどうかしたんですかー? ジュリアス・・・」
 ものすごい勢いで歩いていくジュリアスにルヴァの問いかけは届かなかった。
「何かあったんでしょうか。よくないことでなければよいのですが・・・」
「な〜に取り越し苦労してんのよぉ。お肌に悪いわよ、リュミちゃん」
「なんか気になるので、俺、ジュリアス様に聞いてきます。じゃ、ルヴァ様ごちそうさまでした!」
「待ってよランディ! 僕も行くよぉ。ルヴァ様失礼します」
 ランディとマルセルはジュリアスを追って、走り去った。
「お子様の行動力はすごいわねー。あ、ティムカちゃんは今来たばっかりなんだから、ゆっくりしていきなさいね」
「ありがとうございます、オリヴィエ様」
「はぁ、今日は何やらいろんなことが起こりますねー」
 ルヴァには謎の多い一日になりそうだった。

<5> 白日の下に


さて、ラトゥラとラトゥの関係は??
ジュリアス様は何かご存知なんでしょうか??
第5部も、お楽しみに!!

こちらはえでぃさんの書かれた小説第4部です。

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