| 銀のラトゥラ |
<5> 白日の下に
思ったより時間をとられてしまったせいか、テラスを後にしたゼフェルは庭園をショートカットして私邸へ急いでいた。
普段は人があまり入っていかない所に抜け道があるのだ。
「はやく、戻んないとなー。見つかるのも時間の問題っぽいしなー」
「何が見つかるんです? ゼフェル様」
「うわ! びっくりさせるなよー!」
木立の影から姿を現したのはセイランだった。
「クスッ・・・心ここにあらずってところですね? そんなに大きな声で独り言を言っていれば、声をかけてみたくもなりますよ」
「何だっていいだろ。それよりなんでおめーがこんなところにいるんだよ」
「ここは人があまりやってこないですからね、新しい作品について考えを巡らせるにはとてもいいところなんです」
「やっぱり、みんなが言ってたのは本当だったんだな」
「何のことです?」
「探すといねーくせに、突然現れるって。神出鬼没ってやつだな。おめー、クラヴィスの次くらいに気味悪がられてるぜ」
「率直なご意見ありがたく拝聴しますよ。でも、僕のミューズはとても寂しがりやだから、会いたい気持ちを我慢しないんです。会いたいときには時と場所を選ばない・・・」
彼独特の語りに入りかけたところを遮るようにゼフェルが言った。
「けっ、言ってろよ。オレは忙しいんだ、ラトゥのことだって調べなきゃなんねーしな」
「それは、悪趣味ですね」
「何だとぉ?」
「いえ、器用さを司る守護聖様は、とうとう人体改造にまで手をだされたのかと思ってね」
「それ、どーゆーことだよ!」
「まさか、知らないでラトゥに手を出そうと思っていたんですか」
「つーことはおめー、ラトゥのこと知ってるんだな? よし、ちょっと顔貸せ!」
「ゼ、ゼフェル様。僕は・・・」
ゼフェルに腕をつかまれて、セイランは無理矢理私邸へとつれていかれたのだった。
◇
同じ庭園でも、噴水の前では周りの女性という女性の視線を集めてオスカーが歩いていた。
張り切りまくっていたマルセルに乗せられて、ルヴァのお茶会が開かれているというテラスへ向かっているところなのだ。
「ジュリアス様も参加されるとあれば、行かないわけにはいかないだろう・・・どわっ!」
突然後ろから何かがぶつかってきたせいで、オスカーは2・3歩よろけてから振り返りざまに剣に手をかけた。
「何者だ! ・・・って、おい! 大丈夫か」
そこに倒れているのは子供だった。
頭にかぶった布からはみ出した髪が日の光を浴びて銀色に光っている。
オスカーが抱き起こしたが、苦しそうに目をつぶり、息が相当あがっていた。
「この小さなレディには手当てが必要だろうな。ロザリアの所に連れていこう」
抱きかかえただけで女の子だと解るのも、一つの才能だろうか。
オスカーはその子供をそのまま軽々と抱き上げると、今来た道を聖殿へ戻って行った。
「・・・ほう、ここにいたのか・・・」
聖殿の中に入るなり、声をかけてきたのは占いの館から戻る途中のクラヴィスだった。
「クラヴィス様。お探しでしたか? 何か用事でもあったんですか」
「・・・いや、お前ではない・・・」
「では、クラヴィス様はこの子を知っているんですか?」
「・・・実際に会うのは初めてだが・・・」
「誰に知らせればいいんでしょうか。このとおり具合が悪そうなので」
「・・・わからぬ。・・・ではな・・・」
クラヴィスは「そんなことはどうでもいい」といった風にそのまま通り過ぎていった。
結局当初の予定通りロザリアの部屋へと向かうしかないオスカーだった。
◇
ゼフェルの私邸へとつれてこられたセイランは、居間に通されるなり質問責めにあっていた。
「で? ラトゥってのは何なんだよ」
「そう、正確に言えば音の鳴らない楽器ですね。人間ですけど」
「小鳥だの楽器だの人間だのって、めんどくせーな」
「聞いたのはゼフェル様の方ですよ。ということは、その前にラトゥラの説明をしなくてはならないようですね」
「今度はラトゥラだー? ああ、しゃーねーな。こうなったら全部聞くからよ、知ってること全部教えてくれ」
そばではお世話係がどこからともなく現れ、お茶を入れている。
「はぁ、解りました。まず、この聖地のある主星からかなり離れたところにリットリアという惑星があります。そこの貴族の間で長く伝わるのがラトゥラの祭りという演奏競技会で、そこで演奏するのがラトゥラという生きている楽器なわけです」
「生きている楽器!?」
「そう、「羽根」とよばれる楽器を頭にかぶって、マウスピースにあたる管を喉に直接取り付けてますからね」
「直接って・・・おめー」
「そう、喉のところから直接楽器がつながっているんです。これは特別な条件の下に生まれた女の子だけが、2・3歳の時に父親である匠に施術されてこうなります。当然、人間としての声はその時失ってしまいますけど」
「だから生きている楽器かよ・・・ひでえ話だな」
「そして羽根は純金製なので、貴族がパトロンにつかないかぎり作れないし、盗難にあうこともあるんです。で、施術後でありながら羽根を持っていないラトゥラがラトゥって訳です」
「で、その羽根を持たないラトゥを啼けない小鳥って言ったんだな」
「誰がです?」
「いや、こっちの話だぜ。で、ラトゥがどうして悪趣味なんだよ」
「羽根は一生に一個しか作られないので、ラトゥになったら最後、生きている意味すらないものとして扱われるんですよ」
「マジかよ! じゃああいつ・・・」
「あいつって・・・ゼフェル様?」
「あ、ありがとよ。オレ、ちょっと行かなきゃなんねーとこあるから」
ゼフェルは、ティーカップ片手に見上げるセイランを残して居間を出ていく。
「クスッ・・・あれじゃ、ここにラトゥがいますって言ってるようなものだね。お役御免なら失礼させてもらおうかな。僕のミューズがご機嫌を損ねないうちにね・・・」
セイランもそんなゼフェルの態度など一向に気にせず、ゼフェルの私邸を後にした。
一方、ゼフェルは自室のドアを開けると、急いで子供の姿を探していた。
「おい! おとなしくしてたか」
部屋の中をぐるりと見渡す、テーブルの上には半分ほど食べた食事があり、ベッドの上の服はそのままだ。
「腹一杯で寝てんのかー? 寝るならベッドで寝ろよなー」
家具の影ものぞいて見るが姿がない。
「まさか! 出ていったのかぁ!?」
あとは、この狭くはない聖地の中を見つからずに探すしかないのか。
そう思うと急に脱力感の増すゼフェルだった。
<6> 風に舞う羽根へ
やっと『ラトゥラ』と『ラトゥ』の意味が分かりましたね!!
(解説・セイラン様。うふっ)
オスカー様の特技も凄いです。(爆)
こちらはえでぃさんの書かれた小説第5部です。