| 銀のラトゥラ |
<7> 謎の星
王立研究院のカウンターではゼフェルがエルンストに詰め寄っていた。
「あのよー、リットリアっていう惑星の資料を見せてくれねーかなー」
「よろしいですが。しかし、検索するのに少々時間がかかります」
「どんくらいなんだよ?」
「明日の午前中までには」
「明日まで待つのかよー。でも、しゃーねーか。じゃ頼んだぜ!」
そう言ってゼフェルが振り返ったと同時に入り口のドアが開いた。
「あ〜、ゼフェルじゃないですか〜」
「ルヴァ!」
ほっとしたような笑顔でやや小走りにルヴァは近づいてくる。
「丁度よかったですよー。ゼフェルが持ってきてくれたお茶の事が解ったんですよ〜」
「え? あのお茶か?」
「ええ、惑星リットリアの羽根職人のものなんだそうですよ」
「リットリア!?」
ゼフェルとエルンストが同時に叫んだ。
エルンストは少々バツが悪そうに咳払いをしてから、切り出した。
「奇遇ですね。ゼフェル様はお茶の研究でも始められたんですか」
「奇遇・・・というと?」
「丁度今、ゼフェル様に惑星リットリアの事について依頼されたばかりなのです」
「エルンスト! なんでルヴァに言うんだよ」
「あ、これは申し訳ありません。極秘でしたか」
「極秘って程のことでもねーけどよ。で、ルヴァ。どこでお茶のこと調べたんだ?」
「調べたという訳では・・・お茶会に参加したティムカがたまたま知っていたんですよー」
「ティムカが? よし、ティムカはまだテラスにいるのか?」
「いいえー、お茶会はもう終わりましたけど。でも、ゼフェル。お茶といいラトゥのことといい、何かあったんですか?」
「何でもねーよ! じゃあな、エルンスト。頼んだからな!」
振り切るようにゼフェルは王立研究院を後にした。
心配そうに見送ったルヴァだったが、今のところ唯一の話し相手であるエルンストに向きなおった。
「リットリアに何があるんでしょうねぇ」
「そうですね」
丁度その時、近くにある電話が鳴った。
「はい・・・はい、かしこまりました。すぐに参ります」
「あー、エルンストは忙しそうですねー」
「いえ。ロザリア様がお呼びとのことでしたので。それよりルヴァ様のご用というのは」
「はぁ。たぶんゼフェルの依頼と重なるかもしれないのですが、ラトゥという鳥を調べて欲しいのです」
「鳥ですか?」
「ええ、啼けない鳥なんだそうです。こちらもゼフェルの方へ知らせてあげて下さいませんか」
「かしこまりました」
「さ、急いでいるのでしょう。ロザリアが待っていますよ」
「では失礼します」
エルンストも急ぎ足で王立研究院を出ていった。
「しかし、ゼフェルは何をしようとしているのでしょう。はぁ・・・」
解らないことだらけのルヴァは少々足どりが重かった。
◇
「あ〜あ、結局何だったのか教えてもらえなかったな」
「だってー、また『そなた達には、関わりのないことだ』の一言で終わりなんだもん」
聖殿の入り口の段差に並んで腰掛けていたのはランディとマルセルだった。
ジュリアスを追って聖殿の方へ来てはみたものの、真相は解らずじまいで途方に暮れているところだったのだ。
「マルセル。俺達に関わりが無いってことは、オスカー様だけに用事があるってことだろ?」
「それに、かなり急いでいたみたいだったよね」
「なぁ、これは直接オスカー様に聞いてみないか?」
「そうだよね。ジュリアス様がダメならオスカー様に聞けばいいんだ!」
丁度その時、植え込みの影から現れたのはオスカーだった。
「誰に何を聞くんだ?」
「オスカー様! ジュリアス様と会ってらっしゃったんじゃないんですか?」
「それなんだ、ランディ。さっきテラスでもジュリアス様がものすごい剣幕で探していたと言われてな」
「じゃあ、オスカー様はまだ用件を知らないんですね」
「当たり前だ。突然聞いたことだからな」
「あの、オスカー様? 僕たちも一緒に行っちゃダメですか?」
「だめだ、マルセル。みんなに聞いた様子じゃ、かなり急を要することみたいじゃないか」
「やっぱりダメですか・・・」
「ま、よほど深刻じゃなきゃ後で教えてやるさ。じゃあな」
そういうとオスカーも聖殿へと消えて行った。
◇
だんだん午後の日差しも傾きかけた頃、庭園を横切るようにメルが歩いてきた。
「あぁ、今日は商人さんいない日なんだった。商人さんならあの帽子のこと解るかな〜」
王立研究院に持っていくはずの書類を両手で抱えながら、大きな溜息をついたところへ誰かが声をかけた。
「おい、メルじゃないか」
「あ、ヴィクトールさん。こんにちは」
「どうした、元気がなさそうだな」
「ううん、そんなことないよ。今日は商人さんがいないな〜って思っただけだよ」
「ははは、メルは仲良しだからな。週末だけしか会えないのは寂しいか?」
「うん・・・でも、今日は聞いてみたいことがあったから・・・」
「そうか。じゃあ、早く日の曜日が来るといいな」
「うん!」
そこへ通りかかったのは聖殿から戻る途中のエルンストだった。
「あ! エルンストさん。これから今日の分のデータ届けようと思ってたんだよ」
「こんにちは、メル。それは丁度よかったですね。あ、ヴィクトールさん。ロザリア様がお呼びでしたよ。今頃学芸館に連絡が入っている頃ではないでしょうか」
「そうか、ありがとう。これから向かってみるとしよう」
「じゃ、ヴィクトールさん、またね!」
「じゃあな。メル」
そう言い残すと、ヴィクトールは聖殿へと歩いて行った。
大きく手を振り終わると、メルはくるりとエルンストの方を見上げた。
「で、エルンストさんはどんなご用だったの?」
「いえ、ちょっとした身元調査ですよ」
「へぇ、誰のなの?」
「迷子なので、まだ解らないのです。調べるのはこれからですからね」
「ふ〜ん」
「解っているのが、紋章たった一つなのですから・・・。本人から何も聞き出せないというのはもどかしいですね」
「え? 本人がいるのに解らないの?」
「ええ、しゃべることができないんですよ」
「もしかして赤ちゃんなの?」
「いえ、10歳くらいの少女でした。訳あって声が出ないのだそうです」
「それはかわいそうだなぁ。早くお家に帰りたいだろうな・・・」
「そうですね。それでは、私は研究院に戻ります。今日の分のデータはお預かりしましょう」
「じゃお願いします。がんばって下さいね!」
「ありがとう、メル。転ばないように!」
手を振りながら半ば後ろ向きに走り去るメルに、エルンストは声をかけた。
辺りの景色はそろそろオレンジ色へと変わり始めていた。
<8>黄昏の少女へ
ほんとにたくさんの登場人物が…。(爆)
でも、いよいよ本格的にラトゥの少女のことを調査されるようですね。
まだまだお話は続きます。
乞うご期待!!
こちらはえでぃさんの書かれた小説第7部です。