| 銀のラトゥラ |
<8> 黄昏の少女
再度訪れたオスカーの執務室も空振りに終わったジュリアスは、自分の執務室へと向かっていた。
テラスに行った時の勢いはもうなく、いくらか落ちついたのか、オスカーに対する疑問だけが残るだけだった。
執務室のドアに手を掛けようとしたその時、視界の端に飛び込んで来たのはオスカーだ。
「ジュリアス様!」
心中ただならぬものがあったオスカーだったが、ここは落ちついてジュリアスに近づいていった。
「先程テラスへ行ったところ、ジュリアス様がお探しだったと聞いたものですから」
「うむ、まずは中へ入るがよい」
「はっ」
ジュリアスの執務室へと入った二人は、お互いにどう話を切り出したものかと思っていた。
しばしの沈黙の後、口を開いたのはジュリアスだった。
「昼過ぎ頃に、聖殿の入り口で、とある子供を見かけたのだが・・・」
「ジュリアス様もお気づきでしたか」
「では、オスカー・・・」
「はい。私も庭園で具合を悪くした迷子がおりましたので、先程ロザリアの所へ連れていったところです」
「迷子なのか? その子供は、その、オスカーに似ていたような」
「ジュリアス様まで!?」
「い、いや。似ていると言っただけだ」
「ロザリアにも、そう言われました」
「では、その子供はまだロザリアの所にいるのだな」
「はい、今頃保護者も探し始めているのではないでしょうか」
「そうか、ならばよい」
「で、ジュリアス様のご用というのは?」
「いや、その子供が少し気になったのでな。保護されているのであればよいのだ」
実は隠し子ではないかと思っていたジュリアスは、思い違いを気づかれないように話をはぐらかした。
「そうですか、喉に紋章の付いた奇妙な金具が取り付けられておりましたので、その点もロザリアが王立研究院に調べさせているようです」
「金具?」
「はい、呼吸器でも取り付けるような金の金具が喉にあったのです」
「病気なのか?」
「いえ、もう回復しておりますし、本人もいたって元気なのですが・・・」
口ごもるオスカーに、ジュリアスの顔が曇った。
「何だ」
「は、その金具のせいか声が出せないのです」
「では、保護者を探すのは難儀であろう」
「ロザリアが王立研究院からエルンストを呼んだようですので、大丈夫かと思いますが」
「そうか、それは心強いな。・・・では、さがってよいぞ」
「は、失礼します」
オスカーが執務室から出ていくと、ジュリアスはホッと胸を撫で下ろした。
こうしてジュリアスの早とちりは誰にも知られずに済んだのである。
◇
ロザリアの部屋では、着替えを済ませた少女が椅子に座ってうなだれていた。
白い襟のついた青いワンピースを着て、髪にはお揃いのリボンが結ばれている。
きれいに櫛削ったシルバーブロンドに映えてとても美しかったが、ただ一つ、首に巻かれたスカーフだけはロザリアにも外すことが出来なかった。
時折、窓の外を伺っては溜息をつく、そんな少女の姿をロザリアは優しく見守っていた。
そんな時に、ノックの音と共に入ってきたのはヴィクトールだった。
「失礼します。補佐官殿、お呼びでしたか」
「ヴィクトール。こんなに早く?」
ロザリアは不思議そうに尋ねる。
「いえ、庭園でエルンストに会いましたので」
「そう、なら話は早いわね。早速本題に入らせていただくわ」
ロザリアは立ち上がると、少女が座っている椅子の方へとヴィクトールを促した。
「この子の保護者を探していただきたいの」
「迷子ですか」
「そう、ここに連れてこられてから数時間経つのだけど、聖地で子供がいなくなったという知らせがないのよ」
「いなくなった事に気づいていないと?」
「そうかもしれないわ」
「この子だけ、そのまま返す訳にはいかなかったんですか」
「ええ、その方にちょっと聞きたいこともあるの」
ヴィクトールは少女の前に屈み込むと優しく尋ねた。
「じゃ、どんな人か教えてくれないか」
少女は真剣な眼差しで見つめ返すだけだった。
「ヴィクトール。その子は声が出せないのよ」
「なっ・・・そうか、でも戻る所は解るか?」
再び問いかけたヴィクトールに、少女は小さく頷いた。
「それじゃ、暗くならないうちに帰ろうか。な」
少女は見上げると、その表情を明るくした。
椅子から立ち上がると、入り口へ走り出さんばかりの勢いだ。
「では、ヴィクトール。保護者が解ったら、私に知らせて下さるかしら?」
「はい。では行ってまいります」
少女は入り口でくるりと振り返るとスカートを少しつまみ、しとやかに礼をした。
その仕草に何かを感じたロザリアは、ますます保護者の存在が気になっていた。
◇
ロザリアの部屋を出て、聖殿の入り口まではヴィクトールと並んで歩いていた少女だったが、外に出るなり辺りを見回すと迷わず森の湖の方へと歩き出した。
そのまま森の湖をまわり、茂みをくぐり、庭園の裏手に出る頃には青いワンピースもよれよれになってきている。
「おいおい、本当にこれが戻る道なのか?」
問いかけるヴィクトールを振り返り、頷く少女だったが、回り道のようにも感じられるその動きは何を意味しているのだろう。
ヴィクトールはそれでも、子供が自分の場所に戻ることを信じてただ付いて行くだけだった。
そうするうちに近づいているのは守護聖の私邸がある辺り、それもゼフェルの私邸の方角だ。
「ちょっと待った。ここから先はゼフェル様のお屋敷だぞ」
なぜ止められたのか解らないという表情をして少女は振り返る。
「まさか。ゼフェル様が?」
脇目もふらず一直線にゼフェルの私邸の玄関へと向かう少女の後ろを付いていくヴィクトールは、かすかな疑問を抱きつつドアに手をかけた。
「失礼します。どなたかおられますか」
左手の隅から、赤いランプを点滅させながら小さなロボットが近づいて来た。
「イラッシャイマセ! イラッシャイマセ! オキャクサマ! ゼフェルサマ! オキャクサマ!」
「何だ? その声はヴィクトールかー」
奥からやってきたゼフェルはその光景に目を疑った。
「お・・・おめー! どこ行ってたんだよ」
言い終わらないうちに少女がゼフェルの方へ歩いて来る。
ゼフェルのマントをしっかりと掴むとひとまず安心したようだった。
「ゼフェル様だったんですか」
「なっ・・・何がだよ」
「この少女の保護者が見つかったら報告するようにと、ロザリア様に言われましたので」
「保護者ぁ!? オレはそんなんじゃないぜ。でも、こいつが何かやったのか?」
「いえ、それは解りません。ロザリア様は何でも「伝えたいことがあるから」というお話でしたので」
「ちぇっ! 面倒な奴に見つかったみてーだな」
「ゼフェル様?」
「なんでもねーよ。で? ロザリアには今すぐ会いにいかなきゃなんねーのか?」
「はい、私はこれから帰りがけに報告にうかがいますから。ご一緒したほうがよろしいのではないでしょうか。私がここで聞いたことをそのまま伝えたとしても、事実が曲がって伝わらないとも限りません。決して私にそのような気はありませんが」
「しゃーねーな。おめーはどうする。このままオレの家にいるか?」
やはりゼフェルのマントの裾をがっちりと掴んで離さない。
「じゃ、おめーも一緒にロザリアの所に行くか」
こうして3人はまた、ロザリアの所へと戻るべくゼフェルの私邸を後にした。
つづく。
これまたなんと、ジュリアス様の勘違いは笑っちゃいますねー。(^.^)
(でも、オスカー様のいつもの行動では、勘違いされても文句言えないか??)
しかしラトゥの少女のブルーのワンピース姿、見てみたいですねー♪
次回もどうぞ、ご期待ください。
こちらはえでぃさんの書かれた小説第8部です。