| 碧色の追憶 |
空を見ていた。雲一つない碧い空。
薄っぺらな青じゃない、深くて・・・そう、心が引き込まれるような
そんな碧い空だった。
それを見つめていたのは砂のようにこぼれていく時間なんて惜しいと思わせない程の
引力を持っていたからだ。
「お嬢ちゃん、何もない空がそんなに面白いかね」
・・・やれやれ、またか。
少しうんざりした気持ちで振り向いた僕の後ろに立っていたのは、白髪の老人だった。
「さっきから見ておったが随分長い間、空を眺めていたね。
まるで・・そう・・魅入られるかのように」
「そんな僕を見ていたおじいさんこそ随分と暇なんだね」
「わっはっは!こんな歳にもなると、それこそ時間なんてゆっくり流れていくのが
心地いいものなんじゃよ。君のような小さな子どもと違ってね。
おっと、そう言えば『お嬢ちゃん』じゃなかったようじゃな。わしの目も、余りあて
にはならないな」
「気にする事はないよ。僕にとってそんな事は日常茶飯事なんだ、些細な事だよ」
元来、僕は他人と関わるのは好きじゃない。
わざと突き放したような言い方をして僕の側から退場願おうと思ったのに・・・
・・・どうして隣に座るんだよ!!
僕の隣に座った老人は何故か笑っていた。
「面白い子だね、君は。いくつだい?」
「さあね、自分でも良く知らないんだ。多分12・3才ってとこかな」
「ますます面白い!!」
何が面白いんだか・・・全く。
「見てごらん、あの川辺で遊んでいる子供達を。君と同じ歳くらいだ。
普通あの位の子供はああして無邪気に遊んでいるものだよ。
でも君は空を見ていた。退屈もせずに・・・ずっと」
言われて僕は初めて彼等の存在に気付いた。
だけど、水しぶきをあげ、歓声と共にはしゃぎまわっている彼等を楽しそうだとは
僕にはとても思えなかった。
それよりも日の光に反射してきらめく水しぶきに心を奪われていた。
「ほら、今も君は彼等より違うものに目がいっている筈だ。違うかい?」
他人に心を見透かせれる程不快な事はない。
僕は黙って立ち上がった。
「もう行くのか?ならこれを持ってお行き」
そういって老人が僕に差し出したのは使い古した画材道具だった。
何故これを僕に?
そう口にするより先に彼が呟いた。
「君ならきっと手に入れる事が出来るだろう。吸い込まれるように見つめていた
あの碧い空を・・・。この白い紙の上にね。」
「僕が!?一体何を根拠にそんな」
「悲しい事にわかるんだよ。芸術家として他人の才能が嫌と言うほどね。
でもわしは、もうその才能に嫉妬するほど若くはない。」
芸術家・・・この時はそんな言葉に何の感情も抱かなかった。
ただ彼の言った一言が頭から離れなかった。
『あの碧い空を白い紙の上になら手に入れる事が出来る』と。
本当にそんな事が可能なんだろうか。
「最初は何も考えず思うがまま描いていってごらん。君ならきっといつかは
手に入れる事が出来るさ」
すぐに・・と言われたなら信用しなかっただろう。
だけど彼は言った。
“いつかは”と。
「そう言えば君の名前をまだ聞いていなかったな。何と言うんだね」
名前ね、今まで僕にとってそんなものは何の感心も意味も持たなかった。
でも、その時僕は咄嗟に・・・でもハッキリと答えていた。
「セイラン」
この碧い空が僕の名前を決めた。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「・・・・様!セイラン様!!」
ふと我にかえった僕を心配そうに見つめているアンジェリークの顔が真近にあった。
「良かった。急に黙ってしまわれたので御気分でも悪くなられたのかと思いました」
無邪気に笑うこの女王候補を前に僕は思う。
芸術家として名を馳せ、めったにない女王試験の教官として呼ばれ、活気に満ちあふ
れたこの聖地に立っている今の自分を。
「見て下さいセイラン様、今日の空はとっても綺麗な青い色ですよ!
セイラン様の瞳と同じ色ですね」
そうだ、この空が目に入って・・・柄にもなく昔の事なんかを思い出してしまったん
だ。
僕は未だ白い紙の上にあの時の空を手に入れてはいない。
まぁ、いいさ。時間はまだまだ充分すぎるほどある。
それに・・・手に入れるのに必要なのは紙だけじゃない。
「アンジェリーク、君の瞳も同じ色に染まってるよ」
そうして僕は笑った。
*FIN*
えっと、こんなシリアスな話書いたのは生まれてはじめてです。
いつもはお笑い系のシナリオ形式なもんで・・・。
長くなってすみません。ではでは、つたな〜〜いものですが
よろしくお願いします♪シナリオライター志望だったので
自分の書いた文章が載るのはとっても嬉しいですО(≧∇≦)О〃
さそうかさん、ありがとうございます!
素敵な小説ですよー。セイラン様の名前の由来、本当にこうだったのかもと思えてしまいます。
ラストのフレイズもすばらしい。(^-^)
言われてみたいですねー。くー!!(>_<)