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水面に映る月

その日は満月だった。

 森の湖は、月の光を浴びてそのかすかなさざ波を美しく輝かせていた。
 竪琴を携えて岸辺へと来たリュミエールは一本の木の根元に腰をおろした。
 この美しい月の光にメロディを乗せるためにはこの岸辺が相応しいような気がしたのだ。
 そのたおやかな指が弦を弾くと、静かな景色に新たな色彩がのったようだった。
   糺の森は、木々の隙間から銀色の針のように月の光が差し込んでいた。
 袖元に笛を忍ばせて永泉はその針の間を縫うようにすすんでいた。
 ここ数日の間でささくれだってしまった気持ちを鎮めるためにこの森を選んだのだった。
 大きく深呼吸をして静かに息を吹き込むと木々の間に染み渡るような調べが流れた。

一瞬、空気がゆらぐ。

 迷いの森の奥の方から聞き慣れない笛の調べが聞こえてくる。
 そのメロディの奥に響くかすかな迷いや悲しみが、リュミエールの心を深く揺り動かしていった。
   深泥ヶ池の方角から聞き慣れない琴の調べが聞こえてくる。
 その旋律の中にあたたかい優しさを感じながら、永泉は心のしこりが解けていくのを感じていた。

どんな人なのだろう。

 竪琴を弾く手を止め、リュミエールは森の方を見やった。
 今にも木々の間からその人物が現れそうな気がしたのだ。
 笛の調べはもう聞こえない。
   笛を袂にしまうと、永泉は音のした方向へ足をすすめる。
 この森を抜ければその人物に会えそうな気がしたのだ。
 琴の調べはもう聞こえない。

心の中の水面が揺れる。

 リュミエールは立ち上がると、満月の夜の不思議な出来事を胸に森の湖を後にした。
 今まで聞いたことのない、心に直接響いてきたあのメロディを忘れないように、かすかに口ずさみながら。
   何かのまやかしだったのかもしれないと思い、永泉は足を止めた。
 でも、あの包まれるような優しさを秘めた不思議な琴の旋律は、これからも消えることはないだろう。

そんな二人を満月だけが見ていた。

Fin.


すごいものを…えでぃさんてば……( ゜_゜;)
どちらから読んでも、両方同時に読んでも楽しめる、ちゃんとお話になってるもの。
よくあるネタと、ご本人言ってらっしゃいますが、いやはやどうして…。
私にゃ思いつかない技法でごんす。
えでぃさん、これからもよろしくね!!
(…いやはやー…)

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