居場所</head>

居場所               **written by PAPILLON

ベルメールさん、ベルメールさん
全部終わったよ、なにもかもが終わったの。
もう眠れない夜を過ごさなくてもいいの。
ベルメールさんが死んじゃう夢をみたくなくて夜に怯えなくても、もういいの。
一人で涙を流さなくても、もういいの。
ねぇ、ベルメールさん。
私、自分の居場所みつけたよ。



穏やかな夜の海。
青い空に、星ひとつ。
むせかえすような昼の暑さとはうってかわって涼しげな夜風が船内をふきぬけ る。
ナミはデッキで一人、その髪を風にまかせてたたずんでいた。
ゆらゆらと揺れる波につられて上下する船がゆりかごのようで心地いい。
船が目指すはグランドライン。
まだ見ぬ海賊王への道。
もうその境界線すらわからなくなってきている海と空をみつめ、ナミはアストロ ラーベと羅針盤を使って現在地の確認とこれからの進路を検討する。
慣れた手つきで淡々と作業を進めるその目は十八の少女のものというよりはむし ろプロのそれにふさわしい感じがした。
「おい。」
ふと後ろで自分を呼ぶ声がして、ナミは振り返った。
「ゾロ。何?」
声の主は三刀流の剣士であった。
仕事道具を片付けながらナミは軽く返事をする。
「サンジの奴がもうすぐメシだってよ。」
ポケットに手をつっこんで手短にゾロは答えた。
そのままゾロはナミのいる方へやってくる。
「何だ、そりゃ。」
ナミが片付けた羅針盤やら何やらを見てゾロは不思議そうな顔をした。
「あんたねぇ、これが何かくらいわかんないの?」
半ばあきれぎみにナミはためいきをついた。
「当たり前だ。俺は航海士じゃねぇ。」
あまりにもゾロがきっぱりと言うのでナミは怒る気もうせたらしい、やれやれ といった表情をして視線を海に戻した。
ゾロも無言で同じ海を見る。
しばしの沈黙。
でも決して居心地の悪いものではない時の空白。
聞こえてくるのは波の音、みんなの騒ぎ声。
ゾロの息遣い。

ナミの胸は本人の意思とは無関係に激しく鼓動を打つ。
なぜだろう?
みんなと一緒のときは平気なのに、こうやって二人きりになるとどきどきするの がとまらない。
熱があるわけでもないのに顔が熱くなる。

理由は十分過ぎるほどわかってる。
私は・・・ゾロが好きなんだ。
でもそんなことアイツは全然気づかない。
アイツらしいといえばアイツらしいけど。

「おい・・・腕はもうだいじょうぶなのか?」
ふいにゾロが聞いてきた。
腕の付け根のところ、アイツらの一味であるあかしのイレズミのあった部分。
いまいましいアイツらを自分の中から消してしまいたくて、私は自分で自分に ナイフを突き立てた。
この世の全てを呪って、自分自身さえ呪って。
でも今は傷跡さえ残るもののあのイレズミはもうない。
なにより、自分の心の中でアイツらという足かせが外れた気がした。
心の底からから笑えるようになった。
「うん、もう全然。それよりアンタは自分の心配しなさいよ。全治二年なんで  しょ、それ。」
そう言ってナミはゾロの胸を軽くつく。

  そうよ、アンタの方が全然重症なのよ。
まったく・・・人の気も知らないですぐに無茶をする。
そのうえ怪我をすれば寝れば治るなんて言って、バカみたい。
アンタの血を見てるとこっちが倒れそう。
アンタが死んじゃうかと思うと気が気じゃないわ。

「たいしたことねぇよ。」
さらりとこの大怪我人は答えてくれる。
「それがたいしたことなかったら私のはかすり傷よ。」
これでもう何度目であろう呆れ顔でナミは言う。
そりゃそーだ、とゾロは低く声をあげて笑った。
その笑い声につられ、ナミはぷっと吹き出して一緒に笑った。
ルフィの満面の笑顔も好きだったが、ナミはゾロの屈託のない笑顔が一番 好きだった。
こうして一緒に笑っているのが奇跡みたいに思えた。

ふっと真顔に戻り、それに気づいてゾロも笑うのをやめる。
「・・・ありがと。助けてくれて。」
すこしうつむき加減にナミは言った。
ありがとう、もう一度、今度はゾロに向いて言う。
「・・・別に。俺の意思じゃねぇ。俺はキャプテンの言うとおりに動いたまで   だ。礼ならルフィのヤツに言えよ。」
少し照れてそっぽを向きながらゾロは言った。ほんのすこし、顔が赤い。
「もっともルフィがお前のこと見捨ててたら俺はアイツのことたたっきってただ  ろーがな。」
ますます真っ赤になってぼそぼそとそう付け加える。
「お前は俺達の船の航海士だからな。」
海の向こうをみつめ、ゾロは確認するように言った。
「当たり前よ。私がやらなくて他に誰がやるっていうのよ。」
いつもの不敵な笑みをうかべてナミは答える。
「でもアンタだって私達の船の剣士なのよ?ちょっとは自分のこと考えて無茶す  んのやめてよね。」
まるでお母さんが子供をしかるような口調でナミは注意した。
人一倍気の強い彼女ならではの照れ隠し。
彼女は誰よりもみんなを気遣うこの船の女神。
「ばァか。」
ゾロは優しい目でナミをからかう。
「無茶でもしなきゃ仲間を守れねぇだろ。」
ぽんぽんとナミの頭を軽くたたいてゾロは背を向けた。
「オラ、メシに遅れっとサンジのヤツがうるせぇぞ。」
ふりかえってナミを一瞥し、ゾロは部屋の方へ歩いていく。
その後姿がたまらなくいとしくて。

「ゾロ!」
おもわずナミは呼び止める。
振り返るゾロ。
空には二つ目の星が輝きはじめた。
「大好き!」
とびっきりの笑顔でナミは伝えた。
ゾロが、大好き。
「その言葉、他のヤツには言うんじゃねぇぞ。」
いつものように、ゾロはひどく好戦的にその唇を歪めてそう言った。
意外な言葉に身動きすらとれなくなっていたナミの腕を取りゾロは仲間のいる 部屋へひっぱっていく。
「今度逃げたら承知しねぇからな。」
されるがままにひっぱられているナミの顔は見ずにゾロはぶっきらぼうに言い  放つ。
つかまれた腕に力がこもる。
「・・・逃げるわけないじゃない。私の居場所はここって、もう決めたんだか  ら。」
この船、この仲間、こいつの腕の中、それが私の居場所。
一生離れてやらないんだから。



ベルメールさん、ベルメールさん
私好きなひとができたの。
大好きって言えるひとができたの。
ベルメールさんも、ノジコも、ゲンさんも、村のみんなも、
ルフィも、サンジも、ウソップも、
みんなみんな、大好き。
だけどアイツが一番大好き。

私ね、海図をかくよ。
大嫌いなアイツらのためじゃなくて、自分と仲間のために。
世界一のキャプテンと、
世界一のコックと、
世界一の狙撃手と、
世界一の剣士のために。
それでね、私は世界一の航海士になるの。
いつかきっと、世界地図をまっさきに見せてあげる。


天国でみててね、私の、お母さん。

**END

PAPILLON様!本当に素晴らしい小説ありがとうございました!!
ちなみに本文の色は目に優しいゾロ色です。

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