平行世界



「俺に傷を負わせることが出来たら、戦闘に参加させてやってもいいぜ?」

 不敵な笑みを浮かべ剣を抜いたフリックに、ナリヒラはトンファーを構えて
見せた。

「お願いします。」

 普段の柔和な表情からは想像もつかない真剣な顔で、ナリヒラはフリックを
じっと見つめる。ここで、退くわけにはいかないのだ。自分の、そして皆の未
来がかかっている。

 今にも打ち合おうとしている二人を、ジョウイが慌てて止めに入った。

「危ないよ、ナリヒラ!何もここで争わなくてもいいじゃないか。」

 フリックは強い。それは一目で見て取れた。それだけに、フリックとナリヒ
ラを戦わせればどうなるのか。その結果が予想できるだけにジョウイは青くな
った。 

 けれどナリヒラは、ジョウイの言葉に耳を貸さない。真剣な顔で、フリック
を見つめたままだ。同じようにジョウイの言葉を無視したフリックがゆっくり
と口を開く。

「さぁ、かかってこい。」

 その言葉と同時に、ナリヒラはありったけの力を込めてフリックに襲いかか
った。










「…嘘だろ…。」

 床に伏し、動かなくなってしまったナリヒラを見てフリックは呻いた。たっ
た数回、打ち合っただけでまさか死ぬとは思わなかった。

 予想もしなかった出来事に冷や汗を流すフリックとは対照的に、ジョウイと
ナナミは顔を真っ赤にして怒っていた。何よりも、命よりも大切な人をこんな
風に亡くしたのだからそれは当然の事だろう。

「酷いわっ!!何でナリヒラを殺しちゃうのよぉ〜〜〜っ!!」

 ナリヒラの身体に覆い被さり、ナナミは号泣している。その横でジョウイは
じっとフリックを睨み付けていた。

「あんたは、手加減というものを知らないのか!!」

 幾らナリヒラから乗った話とはいえ、こんなのは酷すぎる。フリックは相当
な手練れであるのだから、相手を殺さないように手加減する事くらい容易だっ
た筈なのに。それをしなかったのは、ナリヒラを殺すつもりだったからなのか。

 武器を構えたジョウイを見て、フリックはビクトールの方を見た。どうにか
してくれよと目で訴えてみるが、ビクトールは首を横に振るだけだ。黙ってや
られて来いという事なのだろう。
 
 ナナミはまだ泣いている。ゲンカクが死んでしまった今、たった一人の家族
だったナリヒラ。その命も、儚く散ってしまった。

「ナリヒラぁ………。」

 服の裾を掴み、エグエグと泣いている少女を見てフリックは切なげに眉を寄
せた。自分が不用意に殺してしまった少年の為、この少女は泣いているのだ。
その事を考えるとやり切れなくなる。

 フリックは武器を捨てると、ジョウイとナナミに向かって深く頭を下げた。

「本当に、すまない。」

 その横でフリックと同じようにビクトールも頭を下げる。

「俺がこんな戦い許可したばっかりに…。悪かったな。」

 しおらしい二人の態度も、ナナミには届かない。彼女は今、ナリヒラしか見
えていなかった。だが、ジョウイは違う。怒りをたぎらせて頭を下げたフリッ
クの後頭部を殴りつけた。

「謝ってもらったって、ナリヒラは戻らない!!」

 彼はもう、死んでしまった。動かない心臓。身体の熱も、徐々に奪われ始め
ている。

 叫びながら、ジョウイは涙を流していた。大切な親友の死に怒りを感じ、大
切な親友の死に悲しみを覚え…。

「いつか、僕があんた達を殺してやる。」

 宣言すると、ジョウイはナリヒラの遺体を担ぎ上げた。そしてそのまま部屋
から出ていこうとする。ナナミは慌ててそれに付き従った。

 ジョウイ達が出ていったのを見ても、フリックは何も言わなかった。言える
はずがないのだ。ナリヒラの命を奪ってしまった今となっては…。

「こういう事もあるさ。」

 軽くフリックの肩を叩くと、ビクトールも部屋を出ていった。フリックは手
の内のオデッサを眺め、深く溜息をつくのだった。

 フリックに主人公を殺された瞬間…大笑いでした。味方殺してどうするよ。  そして更に笑うしかないのが、友人達の中でフリックに殺されたのは私だけ だったという事。皆、何をやっても対フリック戦では主人公が死なないものと 思っていたらしい…。  主人公の名前がナリヒラなのに、深い意味はありません。ちなみに城が「帝 釈」で部隊名が「修羅」だ。いっそ主人公、劉邦とかにすれば楽しかったかも。


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