英雄の下僕
「ルカが生きている」
という噂が同盟軍本拠地である帝釈城でまことしやかに流れていた。
噂の出所は解らないが、何でもルカが笑いながら豚を殺しているのを見たと
いう。一種怪談めいたその噂を最初は笑って聞き流していたシュウだが、噂が
広まるにつれて放置しておくわけにもいかなくなってしまった。
「こういう事は、士気に関わりますからね…。」
全く馬鹿らしいと呟きながらも、シュウは主要メンバー達を集めて会議を開
いた。何とか噂に対する対策を取る為だ。
「全く、何でこの様な噂が流れるんだ。」
ルカが死んだ事は多くの人間が目撃している。それなのに生きている等とい
う噂が流れる事が、シュウにはどうしても解せなかった。そんなシュウをアッ
プルが宥める。
「でも、別にルカの脈を取ったりしたわけでもないですし、ルカはあれだけ強
い人でしたからもしかしたらという気持ちが兵士達にもあるんでしょう。」
そんな二人のやり取りを、青くなって見つめる人々がいた。
言わずもがな、つい先日コウを迎えに行ったナリヒラ・カミュー・フリック・
マイクロトフ・クライブの五人である。
あの時は「きっとグレミオの勘違い」という事でカタを付けたが、ここにお
いてルカの話が蒸し返されると共に思い出してしまったのだ。もしかしたら、
コウがルカを助けてしまったかもしれないという事を。
「あの、軍師殿。そういえばルカの遺体はどうされたのです?」
そんな事は信じたくないカミューが、青くなりながらもシュウに申し出た。
遺体をちゃんと処理していたのならば、ルカが生きているなんて馬鹿な事は
あり得ない。けれどもし、ルカをあのまま放置していたりしたら…
「ああ、あれか?ちゃんと兵士に埋める様申しつけた。」
シュウの言葉に、カミューはホッと胸をなで下ろした。だがその代わり、シ
ュウの隣りに立っていたアップルが顔を青くしているではないか。
「あ、あのシュウ兄さん…。」
「ん?どうした、アップル。」
「ルカの遺体は、埋めてません。」
泣きそうな顔で告げたアップルをシュウは怒鳴りつけた。
「何だと?!」
「だって、ルカが恐いって誰もやってくれなかったんですよ。触ったら呪われ
るんじゃないかって…。」
「そんな馬鹿な事があるか!」
「でも、誰もやってくれなかったのも事実です!」
兵士の多くは職業軍人ではなく、早く戦争が終わればという願いで参戦した
民間人だ。遺体であるとはいえルカを恐れるのも無理はない。特に、あの壮絶
な戦いを見せつけられた後では。
「…で、埋めてないならどうしたんだ。」
額に青筋を浮かべながらシュウが訊ねると、アップルは開き直って大声で叫
んだ。
「知りません!!!」
「知りません、だと…?」
「ええ、そうですよ。どうせ私は何も知りませんよ。兵士達が揉めてる間に、
遺体は消えちゃったんですもの。」
「消えた?」
「ええ、だから私はてっきりシュウ兄さんが首実検する為に持ち帰ったんだと
ばかり思ってました。」
「何でその事を私に確認しない!!第一、ルカの面は皆に知られているんだ。
首実検する必要もないだろうがっ!」
「そっちの首実検じゃなくて人前に置いておく方です!シュウ兄さんなら、士
気を上げる為にそれくらいすると思ったんですよ!!」
首実検とはご存じの方も多いだろうが軍陣作法の一種である。本来は首を討
ち取ってきた者をねぎらう為に行われたというが、現在では本人かどうか確か
めるという意味合いが強い。
だが、本来の意味はあくまで儀式なのだ。アップルが勘違いしたのも兵法を
始めとする軍のしきたりに詳しい事を考えると無理からぬ事なのかも知れない。
けれどシュウは納得しない。怒り狂い、声を張り上げている。
「何で私がそんな不快な事をしなければならんのだ!!」
首実検とはその名が指し示すとおり生首とのご対面、である。討ち取ってき
た首に化粧を施し、板やら台やらにのせて色々する。見ていて気持ちいいもの
ではない事は確かだ。
「第一、私が首実検をやらなかった時点でその事は申し出てしかるべきだろう
が!」
息を荒くしながらシュウが怒鳴りつけると、アップルは唇を強く噛んだ。
それは、シュウの言うとおりだ。だが、恐くてとてもじゃないが言い出せな
かったのだ。それに、あれだけの事があったのだ。ルカが生きているとは考え
られなかった。例えシュウが首実検をする為に遺体を持ち帰ったのではなくと
も、遺体は心優しき誰かが埋めてくれたのだと思っていた。
だが城に帰ってきてから色々な人に尋ねたが、ルカの遺体を埋めた人にも、
遺体を埋めるのを見た人にも会わなかった。
これはおかしい、と思ったのはつい先日の話だ。ルカ崩御による事後処理に
忙しくて、ルカの遺体にかまけている暇がなかったのだ。
「まあまあ、それ位でいいじゃないの。ここで騒いでも仕方ないんだし。」
ナナミがシュウとアップルの間に入った。涙を流すまいと必死になってこら
えているアップルを見ていられなくなったのだ。
「それに、ルカが生きてるって決まったわけじゃないんだし。」
その場の雰囲気を明るくするためのナナミの言葉は、却って逆効果だった。
目に見えるほどの暗雲を背負った五人が、揃っておずおずと手を挙げた。
「一体、何です。」
その中でリーダーであるナリヒラに目を留め、シュウは発言を促した。
「…多分、多分ですけどルカは生きてます。」
「何だと?!」
これ以上はないという程目を見開いて、シュウはナリヒラにつかみかかった。
「何故あなたはそれを知ってるんです。第一、知っていたのなら何故申し出な
かったのですか。」
ガクガクとシュウに揺さぶられるナリヒラを、周囲の人間は哀れみの籠もっ
た目で見つめていたが決してシュウを止めようとはしなかった。人間誰しも、
踏み込めない領域というものを持っている。
けれどナリヒラもおとなしく揺さぶられ続けていたわけではない。知力では
敵わなくとも、腕力、脚力、忍耐力、全てにおいてシュウの上を行くナリヒラ
だ。頭脳ばかりで些か貧弱なシュウが揺さぶり疲れるのを待ってから、頭のて
っぺんにチョップを入れてやった。
倒れるシュウ。だが誰もシュウを助け起こさない。
「…やっと、静かになったな。」
ホッとしたようにビクトールが口を開いたのを皮切りに、今までシュウが恐
くて口を開かなかった面々が好き勝手に喋り始めた。
「軍師殿は逆上されると理性が飛んでしまわれますからね。」
「直ぐ怒鳴る。」
「もー、耳が痛くなっちゃったよ。」
ガヤガヤと五月蠅く鳴り始めた会議室だったが、やはりナリヒラは青くなっ
たままだった。
きっと、ルカは生きている。あのコウならば、ルカを助けるくらい分けない
だろう。ナリヒラはルカと一騎打ちをしたが、ルカが倒れたのを見届けただけ
で死んだかどうかを確認したわけでもない。あの時、ルカが気絶しただけだっ
たら…?
「ちょっと僕、グレッグミンスターまで行ってきます。」
「ああ?何しに行くんだ。戦闘はまだ無いぞ?」
ナリヒラがグレッグミンスターへ行くときは、コウを迎えに行くときと決ま
っている。故に何でこんな時に行くのかと、ビクトールは不思議に思いながら
ナリヒラを見た。
「実は、ちょっと確認したいことがあってね。」
努めて明るく笑い、ナリヒラは会議室を出ていこうとした。その背中に声が
かけられる。
「私も同行させて下さい。」
「あ、俺も行く。」
先日コウを迎えに行ったカミューとフリックだ。二人の申し出にナリヒラは
強く頷いた。
「うん。…一人だと大変だし、そうして貰えると助かるよ。」
一人ではあの山を越えるのは辛い。幾らナリヒラが強いといっても、一人で
何匹ものモンスターを相手にしたら無傷というわけにはいかないだろう。
「では、早速行きましょう。」
ナリヒラが承諾したのを見てカミューは部屋を出るよう促した。
「豚は死ねぇ〜〜〜〜!!!!」
叫びながら次々と豚を殺していくルカ。その周りからは歓声すら上がってい
る。
「やー、あの兄ちゃん豚捌くのが上手いねぇ。」
「ホント、全く無駄がないよ。ああいう人が来てくれるというのは有り難いも
のだよ。」
やんややんやとルカに拍手を贈る民衆。グレッグミンスターまでたどり着い
た三人は、目の前に広がる光景に呆気にとられていた。
「…これは一体…。」
呆然と、フリックが呟く。
今のルカはどうみても皇子には見えなかった。頭に捻りはちまきを巻き、剣
を片手に豚を捌くその姿は少々凶暴な肉屋といった所だ。
「楽しそうですね…。」
カミューの言うとおり、ルカはとても楽しそうだった。その笑みは限りなく
凶悪だが、ルカが楽しんでいる事は傍目にも分かる。
「やっぱり、生きてたんだ。」
ボソリと呟いて、ナリヒラは拳を握りしめた。だとしたら、助けたのはやは
りあの人なのだろうか。
そんな事を考えていると、ふと背中を叩かれた。振り向くとそこにはコウが
ニコニコと笑いながら立っている。
「やぁ、ナリヒラ。こんな所でどうしたんだい?」
コウに話しかけたもらった事がないナリヒラは酷く動揺した。けれど必死で
その衝動を押さえ込むとコウに向き直った。
「コウさん、あれは一体…。」
豚殺しに励むルカを指さしながら訊ねると、コウはけらけらと笑いだした。
どうも今日のコウは躁らしい。実によく笑う。
「ああ、あれね…。」
目の端に溜まった涙を指で拭いながら、コウは話し始めた。
「この間森に落ちてたから拾ってきたんだ。聞く所によると豚殺すのが得意だ
って言うじゃない。だから、肉屋の仕事紹介しといたんだ。」
「…この間って、ひょっとして…。」
「うん。ナリヒラ達がルカと戦ってた日だよ。」
「じゃあ、あれはやっぱり…。」
「そ、ルカ。力強いしスタミナあるし、結構便利だよ。」
そりゃルカなら力は強いだろうし、スタミナだってあるだろう。何せ18人
がかりじゃないと倒せない様な化け物だ。
だが、ナリヒラとしてはたまったもんじゃない。命がけで倒した筈の相手が、
今ものうのうと生きている。しかも英雄の手によって助けられて、だ。
「何でそんな事したんですかぁ〜〜〜〜!」
泣きながらナリヒラは訴えた。だがコウは堪えた様子もない。
「え、だってやっぱ勿体ないじゃない。」
「…勿体ないって何ですか…。」
「人類でだよ?あれだけ馬鹿力で体力底なしの人間なんてそうそう生まれてこ
ないよ。これはやはり一種の財産として、大切に保管するべきだと思うんだよ
ね。」
ルカが財産?ルカを保管?そんな馬鹿な事があるか。頭を抱えてグルグルと
唸りだしたナリヒラの代わりに、フリックがコウに声をかけた。
「おいおい、お前本気か?」
「本気本気。それに、ああいうヤツ結構好きなんだ。」
そう言ってコウは嬉しそうに豚を捌くルカを見つめた。その目に宿る優しげ
な色は子を見守る母のようで、フリックはやるせなく思う。
「好き、ねぇ…。」
「自分に何処までも正直だろ?普通、ああはいかない。」
ルカの場合は正直というよりも本能の赴くまま動いているといった方が正し
いのではなかろうか。普通の人は理性でもって、その本能を抑えているがルカ
にはそれがない。
そうは思ったが、フリックは敢えてそれを口に出しはしなかった。
「お前、今幸せか?」
ずっと気になっていた事を訊ねてみる。
「まぁ、それなりにね。」
返ってきた答えは実に素っ気ないものではあったけれど、コウはやはりそれ
なりに幸せそうだ。『それなり』という事はそう悪くないのかもしれない。
「それは良かった。」
笑ってフリックは未だ唸り続けているナリヒラを小脇に抱えた。
「帰るの?」
「今日は一応、噂の真偽を確かめに来ただけだしな。」
さっさと戻って事実を皆に知らせないと、と言ってフリックは苦笑した。知
らせたら皆どの様な反応をするだろうか。あのルカが生きていて、肉屋になっ
ているなんて。
それじゃあとフリックが片手を上げた瞬間、それまで呆然とルカを見ていた
カミューが口を開いた。
「あの、ルカがハイランドに戻ることは無いんですか?」
ルカにハイランドに戻られたら、同盟側としては大変な事になる。一人で何
百人分もの働きをするルカなのだ。ハイランドがこれだけ脅威ある国として周
りに認識されているのも、ルカの力あっての事だったのだから。
けれど、そんなカミューの心配は杞憂に終わった。コウが、ゆっくりと首を
横に振ったのだ。
「それは絶対にあり得ない。」
何かを企んでいる顔で、コウは笑った。
「ルカは、ハイランドに捨てられたんだよ。」
「え…?」
「今、ハイランドで力を持っているのはジョウイだ。そして彼の後ろには、シ
ード・クルガン両名がついている。
彼等にとってみれば、ルカは邪魔な存在でしかなかったんだろうね。だから、
捨てた。ルカは捨てられた事に、気づいてないみたいだけど。」
「それは、本当なんですか…?」
「本当だよ。僕が確かめたんだから。それに、ルカがハイランドに戻らないの
にはもう一つ理由があるんだ。」
あっけらかんと言ってのけると、コウは人混みを掻き分けてルカの方へと向
かっていった。そしてルカの耳元で何か囁いている。何を言っているのかは、
カミュー達の位置からではわからない。
二人は短いやり取りをすると、コウは片手に剣を握ったままのルカを連れて
戻ってきた。一体コウは何をするつもりなのか。
「コウ?」
フリックが訝しげにコウの名を呼ぶと、コウは笑ってルカの背中を叩いた。
背中を叩かれたルカはナリヒラ、カミュー、フリックの顔を順々に見回した。
そして、一言。
「何だ、貴様等は。」
このセリフにカミュー、フリックの二人は固まった。ちなみにナリヒラはと
いえばまだ自分の世界の住人だ。
二人はかつてルカと戦った。ナリヒラに至っては一騎打ちまでした仲だ。そ
れなのにルカが顔を覚えていない事などあるのだろうか。
「…おい、コウ。」
「何だい?」
「こいつは、もしかして…。」
「そ、記憶喪失。そのうち戻るだろうけどね。」
死にかけてたんだから無理ないだろうと言ってコウは笑う。
「おい、コウ。こいつ等は何だ?」
だが何が起こっているのかさっぱり解らないルカは、フリック達を指さして
顔をしかめる。
「ええっとね、青いのがフリックで赤いのがカミュー。青いのに抱えられてる
のがナリヒラだよ。」
「コウ…。」
「コウ殿…。」
身も蓋もないコウの紹介にフリックとカミューが嫌そうな顔をするがコウが
気にする筈もない。
「そうか。で、お前のどういった知り合いだ?」
「う〜ん、何だろうね。下僕みたいなもんかな。」
呑気にルカと談笑なんぞ続けている。
「コ〜ウ〜…、下僕って何だ。下僕って。」
それを聞きつけたフリックが怨みがましくコウを睨み付けた。
「あ、フリック。聞いてたの?」
「『聞いてたの?』じゃないっ。俺はお前の下僕になった記憶なんて無いぞ。」
「あはははは、冗談だって。そんなに目くじら立てないでよ。」
「…お前のは、冗談に聞こえないって…。」
深く溜息をつき、フリックは頭を抱えた。今日のコウはフリックのよく知る
コウだ。それは、いい。前の様に寡黙なのはコウには似合わない。だが、コウ
相手に会話をしていると非常に疲れるのだ。いっそ寡黙なままの方が良かった
んじゃないかと思ってしまう。
フリックがそんな事を考える横でカミューは何やら思案顔をしている。どう
したのかとコウが訊ねると、カミューは口を開いた。
「そう言えばコウ殿。ソロンの姿を見かけませんがどうしたのですか?」
何気ない、本当に何気ない口調だった。だがカミューは先日からその事が気
になっていたのだろう。それは表情からも見て取れた。だが、コウがその答え
を口にする前にルカが手にした剣をカミューへと突きつけた。
「ソロン、だとぉ…。」
地を這うような声で呟き、カミューを睨み付ける。
「ソロンが何だ!もう一度言ってみろ!!」
ルカの剣がカミューの首すれすれに当たっていた。応戦しようにもこれでは
手が出せない。どうしようかと考えあぐねているとコウが叫んだ。
「ルカ!!!」
人を威圧する、そんな声だった。その声を聞いた瞬間、ルカはびくりと肩を
竦めた。
「お痛は駄目だって教えたよね…?」
にっこりと微笑みながらルカの剣に手をかけると、そのまま剣を叩き落とし
た。ルカは怒りもせずコウの為すがままになっている。
「悪い、カミュー。まだ躾が行き届いてないんだ。」
コウに謝られて、カミューはとうでもないという様に両手を振った。
「いえ、こちらも不用意な発言をしたようで申し訳ありません。…ルカと、彼
とは何かあるんでしょうか?」
カミューが訊ねると、コウは大したことじゃないと笑った。
「ちょっと仲が悪いだけなんだよ。記憶がすっぱ抜けてても、色々と思う所が
あるんだろ。」
「そうなんですか…。」
もしかして貴方のせいなのではと口まででかけた言葉を、カミューは呑み込
んだ。言わなくても、きっとコウは分かってるに違いない。
「ま、昼間は別行動だから喧嘩が無くていいけどね。夜は五月蠅いよ。」
確かに今、ソロンはこの場にいない。コウの言うとおり別行動をしているの
だろう。しかし、ルカが肉屋ならソロンは何をしているのだろうか。
「昼間、もう一人は何処へ?」
カミューが思ったままの疑問をぶつけると、コウは山とは反対方向を指さし
た。あちらの方には何もなかったように記憶しているが、それはカミューの記
憶違いだったのだろうか。
カミューが不思議そうな顔をしているとコウが口を開いた。
「畑だよ、畑。」
「畑?」
「そ、畑。最近使ってなかったから荒れちゃってさ〜。でも折角戻ってきたん
だから整備しようと思って、ソロンにやって貰ってるんだ。」
ルカには見張りがまだ必要だし、と付け加えコウは笑った。
「よくあのプライドの高い人がそんな事引き受けましたね…。」
呆然とカミューが呟く隣で、フリックも驚きに目を見開いている。
ルカが肉屋というのはまあいい。元々皇子のくせに自分自身で戦場に赴き、
人を殺すのを楽しんでいた様な輩だ。屠殺業はお似合いだ。だがソロンは貴族
として生まれ、貴族として育ったような人間だ。畑仕事を申しつけられ、それ
をよしとするのだろうか。
二人は揃って目の前にいる人物を見つめた。
まだ年若いトランの英雄、コウ・マクドール。幾ら記憶喪失であるとはいえ、
あのルカを手なずけあごで使う人間だ。…彼であれば、ソロンに畑仕事をさせ
るくらい朝飯前なのかもしれない。
「取り敢えず、帰るわ…。」
どっと疲れたフリックはナリヒラを抱え直すと、フラフラと城の方へと歩き
出した。その後をコウに頭を下げてからカミューが追う。
心なしか、二人の足取りは怪しかった。
「あれで、城まで帰れるのかね。」
一応彼等の帰途の心配をしながら、コウは三人の後ろ姿を見つめていた。
そして本拠地。戻ってきた三人を待ちかまえていたのは頭に角を生やしたシ
ュウだった。その後ろではビクトールがすまなそうに両手を合わせている。シ
ュウにナリヒラ達の行き先を告げてしまったのだろう。
「全く、私の許可無しに不用意な行動を取らないで頂きたいものですね。」
頭に手をやりながらシュウは深々と溜息をついた。
ナリヒラはリーダーだ。リーダーにもしもの事があれば同盟軍が崩壊しかね
ない。それだけにシュウはナリヒラの身辺に必要以上に気を使う。それだけに
ナリヒラが噂の真偽を確かめに行ったと聞いてシュウは激怒したのだ。もし、
噂が本当で、ナリヒラが殺される様な事があれば大変な事になる。
ガミガミと三人に説教をした後、シュウは三人にルカの生死を訊ねた。それ
にはナリヒラが答えた。
「ルカは、生きています。けれど彼はもう狂皇子ではありません。」
きっぱりと告げると、シュウは困ったようだ。けれどコウには何も言わなか
った。
「今日はもう、休んで下さい。」
それだけ言うと、シュウ自身は部屋へと引き上げてしまった。残された三人
は顔を見合わせる。
「…また、彼を殺しに行かねばならないのでしょうか。」
憂鬱そうにカミューが呟いた。彼の呟きは、この城に住んでいる人間達の思
いでもある。
「さぁな。軍師の考える事は、俺には到底計り知れないね。」
素っ気なく言葉を返しながら、フリックは久しぶりに会った昔ながらのコウ
の事を思い出していた。
よく笑い、よく喋るコウ。人を喰ったような発言ばかりしているが、何故か
憎めないのだ。常に前を見て走り続けたおかげで、深く傷ついたりしただろう。
それでも決して諦めたりせずに、彼は走り通した。
今のコウは幸せそうだった。ルカとソロンという上等な玩具を得て、彼等を
調教するという「それなり」の生き甲斐を得たのだろう。フリックはコウから、
ルカを奪いたくなかった。
シュウは、戦えと言うだろうか。ルカの首を討ち取ってこいと命令するのだ
ろうか。して欲しくない、と思う。だが軍師という立場から考えた場合、ルカ
をこのまま放置する事は決して出来ないだろう。
「…リーダー、どう思う?」
まだ幼いナリヒラに訊ねると、彼は首を捻った。
「まぁ、でもリーダーは僕だし。」
そう言って笑うと、ナリヒラはコウに手紙を書くのだと言って張り切って部
屋を出ていった。
馬鹿話。
書いているうちに、私の中での人物像というのが徐々に出来上がっていきま
した。U主、結構壊れ気味だとか、フリックはお人好しだとか。(そりゃ元か
らか。)何処まで続くの、英雄シリーズ。(シリーズだったみたいです…)
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