焦がれる少年



 忍者になりたかった。

 自分を、自分の国を守ってくれたあの人の様に。

 そして今度はあの人を守ってあげたかった。




「…イナリ、超スマン。アカデミーの入学許可は下りんかった。」

 そんな祖父の言葉をイナリは黙って受け止めた。

「アカデミーには、その里の者しか入れんのじゃよ。」

 半ば予想はしていた結果だった。

 幼いとはいえ、イナリは分別のある子供だったし、それに忍者というのが
どういう性質のものかよく理解していた。

 アカデミーに入学したいとワガママを云ってみたものの、それが叶えられ
ないという事が分からない筈ないのだ。

 それでもイナリは夢を見たかった。

 忍者になり、あの人を守るという夢を。




 夜になり、床についてもイナリは眠らなかった。

 否、眠れなかったという方が正しいのかも知れない。

 そして数ヶ月前に一度会ったきりの、あの人の事を思い出す。

 まだ少年でしかない金色の髪の英雄。そうは云ってもあの人は、イナリよ
り年上ではあるけれど。

 あの人が辛いとき、今度は自分が助けてあげたい。

 その為に必要なのは力。

 まだ幼い自分には何もできなくて、だけど何もしないままでいるのは嫌で、
せめてあの人の通った道を辿ろうかと思った。

 けれどそれも閉ざされ、イナリは途方にくれる。

 自分は何をしたらいい?




 
 気がつくとイナリは眠っていたようだ。

 辺りには日の光が満ち、外からは小鳥の鳴き声が聞こえる。

 眠い目を擦りながらイナリは布団から起きあがり、定まらない足取りで居
間へと向かった。

 そこでイナリは目を見開いた。

「よっ、イナリ!」

 照れくさそうに笑って挨拶するのは、イナリの英雄うずまきナルト。

「…な、なんで…」

「ん〜?タズナさんに呼ばれたんだってば。」

「………」

「イナリ、お前忍者になりたいんだって?」

 その一言で、イナリは全てを察した。

 アカデミーに入学できないと聞いて落胆していたイナリを慰めるため、ナ
ルトは連れてこられたのだと。

「何で、何で来たんだよ…」

「?」

「俺の事なんて放っておけばいいだろぉ……」

 今にも泣き出しそうな声でイナリは呟いた。

 いっそ、自分の事なんて放って置いてくれればいいのだ。

 どんなに目を掛けて貰っても、自分は忍者にはなれない。

 ナルトの役に立つことはないのだから。

「…なぁ、おっちゃん。」

「なんじゃ。」

「イナリ、少し借りるから」

 その言葉と共にイナリは腕を引っ張られ、外へと連れ出された。

 ナルトの腕は、前に会ったときよりも遙かに力強かった。





 ナルトはイナリの腕を掴んだままズンズン歩いていく。

 そして人気のない所まで来ると、突然話を切り出した。

「…何で、忍者になりたいんだってば?」

「強くなりたい」

 そしてナルトを守りたい。

 敢えて言葉には出さなかったけれど、それはイノリの切なる願い。

「強くなるなら、別に忍者じゃなくってもいいだろ?」

「じゃあなんでナルトの兄ちゃんは忍者なんだよ」

「そりゃあお前、オレは火影になる男だからだってば。」 

 そんなの、納得できるはずがない。

 ナルトは忍者だ。

 それは変えようのない事実で。

 けれどイナリは忍者にはなれない。

 これも変えようのない事実で。

 ならばイナリはどうすれば、ナルトの力になれるのか。


 それを思うと胸の奥が締め付けられ、目の奥が痛んだ。

 濡れたものが頬を伝う。最初はごく僅かだったそれは後から後からひっき
りなしに湧いてくる。
 
 涙が止まらない。もう二度と泣かないと誓ったのに、それでも止まらない。


 イナリが止めようと必死になって、手で目を押さえているのを見かねてか、
ナルトはイナリの手を取り払った。

「しっかりしろってば!」

 ビクリ、とイナリの体が硬直した。

 それでも目をしっかりと見開き、ナルトを見つめている。

「…何で、そんなに焦るんだってばよぅ…」

 今度はナルトが泣き出しそうになる番だった。

 イナリは何故忍者になりたい。

 平和な国に生まれ、別に忍者などの危険な仕事に就かなくとも彼を愛して
くれる人はいるのに。認めてくれる人だっているのに。何を好きこのんで忍
者になどなりたがるのか。

 強さを求めているのか。

 スリルを求めているのか。

 名声を求めているのか。

 イナリにこれらは当てはまらない。

 短い出会いではあったけれど、ナルトはイナリを分別のある子供だと思っ
ている。出会った当初はひねくれていたが、本質は素直な良い子だ。

 それなのに、何故。


 
「…兄ちゃん…」

 不意にイナリがナルトに抱きついた。

「…イナリ…?」

「…好きなんだ…」

「?」

「…兄ちゃんが、好きなんだ…」

 だから、強くなりたい…。

 囁くようにして云われたそのセリフは、ナルトには聞こえなかったけれど。

 それでも気持ちは伝わる。



 ナルトは思い切りイナリを抱きしめた。

 自分を慕ってくれる小さい子供が、愛しくてならなかった。

 小さな肩が震えている。恐らく、この事を告げるのにはかなりの勇気が要っ
たに違いない。

「なぁ、イナリ。」

 優しく、ナルトはイナリの耳元に囁いた。

「政治とか、学んでみない?」

 俺が火影になったら、お前が宰相だ。木の葉の国に宰相なんかないけれど、
それでもアドバイザーはいて困ることもないだろう。

 にっこり笑ったナルトに、イナリもつられて笑った。

 




 自分でもキャラ勘違いしてるとは思います。イナリ、こんなにウジ虫では ありません。その上尻切れトンボっぽいですが、これにて一応終了です。(涙)  でも昔から気になっていた事なので、書けて一応気が済みました。 今度未来編とかやりたいなぁ…。イナリは青年実業家(爆) 

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