閑話休題
買った。ようやく買ってしまった。
ナルトはスーパーのビニール袋を抱え、興奮しながら走っていた。
発売された当初は自分の財布の中身じゃとても買えなかったが、今日は特売
だったので思い切って買ってしまったのだ。
「これで暫く楽になるってばっ!」
ナルトが抱えた袋の中身。…それは、米だった。
ナルトは米があまり好きじゃない。好きなのはやはりラーメンをはじめとす
る麺類だ。けれど、それでは栄養が偏ってしまう事をナルトは知っていたので
一応米は食べることにしていた。
ラーメンでは何杯分も作らなければならず、それが面倒だという理由もある。
けれど米ならば一度炊いてしまえば、ただ茶碗に盛るだけだ。
買ってきた米をテーブルに下ろし、ナルトは釜を取りだした。そして釜に、
米を五合カップで量って放り込む。
目盛りにあわせて水を入れ、釜を炊飯器にセットした。後は炊けるのを待つ
だけだ。
…そう、ナルトが買ってきた米は今話題(?)の無洗米だった。研がなくて
もいいという事で、主婦層に人気が高い。けれど値段の都合から、今までの間
ナルトには手が出なかったのだ。
米は毎日食べるものだ。ちょっとした値段の差が、大きく響くことになる。
米が炊けるのを待つ間、ナルトは部屋の掃除を始めた。任務で長いこと家を
空けていたため、部屋中が埃臭い。せめて食事くらいは綺麗な場所でしたいと
いう思いもあって、ナルトは雑巾を取りだした。本当ならば軽く掃いてから雑
巾がけをした方がいいのだが、そんな面倒な事はしたくない。
水で湿らせた雑巾を床へと放り投げる。そして、その雑巾に片足を乗せてナ
ルトは部屋中を歩き回った。この掃除方法はかつてキバが考え出したものだ。
腰を曲げなくていいという点では確かに画期的だが、足しか使ってない分どう
しても掃除した後も汚れが目立つ。それ故、アカデミーではイルカに禁止され
ている方法だが、楽である為その方法を使用する生徒は後を絶たなかった。
一通り部屋中を歩き回ると、雑巾を床から持ち上げる。雑巾は埃で真っ黒に
染まっていた。それを洗面所に放り込んだ所で、ご飯の炊ける音がした。
ピーッという甲高い音も、今日は格別だ。
ナルトはいそいそと手を洗うと、しゃもじを片手に炊飯器に近づいた。本当
は少し蒸らした方がいいのだが、今日はそんな事を考える余裕もない。
炊飯器を開ける。中からは米のいい匂いがした。だが、どうだろう。何処か
違和感を感じる。けれどその違和感が何なのか分からないまま、ナルトは米を
茶碗に盛った。
おかずは残っていたノリの佃煮と先日イルカが持ってきてくれたソーセージ。
昨日の豚汁の残りを暖め直して、それらをテーブルの上に並べる。一人暮らし
の割にはましな食事だと一人悦に入りながら、ナルトは席に着いた。
手を合わせて頂きます。そして炊き立てご飯を口の中に放り込む。
その瞬間、先ほど感じた違和感の正体が判明した。
米が、固いのだ。普通の米より数段固い。よくよく考えてみれば、予め米を
研がなくていい状態にしているのだ。普通の米と違うのは当たり前。当たり前、
なのだが…。
「…まずいってばよ…。」
ボソリと呟く。やはり炊き立てご飯は、ふっくら柔らかでなくてはならない。
なのに、この米は固い…。
どうりで安売りしていた筈だと妙な所で納得し、ナルトは固いご飯を食べ続
けた。
そして次の日、その話をサクラにしているとサスケが横から口を挟んだ。
「…俺も、やった事がある…。」
流石うちは一族というべきか、サスケは無洗米が発売された当初、喜び勇ん
で買いに行った。米を研がなくていい。毎日の事であるため、それがどれだけ
魅惑的か。
だが、炊いた米を食べた瞬間後悔した。米が固かったのだ。食べられない事
はない。けれどそれでも、普通に研ぐ米の方が美味いのだ。贅沢を言ってはな
らないと言われるかもしれないが、寧ろ無洗米の方が贅沢品だ。サスケはそれ
以後、無洗米を買わない事を固く決意した。
だが、やはり忙しくなってくると研ぐ手間を省きたいが為にどうしても無洗
米に頼ってしまう。そして、そうこうしているうちに買ってきた無洗米は無く
なった。
次はもう、無洗米を買わない。そう決意した筈だが、楽である事と飯のまず
さを天秤にかけたとき、楽さに傾いてしまうことがある。過酷な任務故、どう
しても米を研ぐ、それだけの行動が億劫になってしまう事があるのだ。
「うまく使い分けるしかないだろう。」
自分の体験談からもっともらしく話を締めくくると、サスケは深々と溜息を
ついた。その姿は、何処から見ても家事に疲れきった主婦。そんなサスケは見
たくないとサクラは視線を逸らしたが、ナルトにとってサスケは同士だ。
「そっかぁ〜…。」
ぼんやり呟きながら、サスケと同じように溜息をつく。無洗米は不味い。し
かし楽。どちらを取るかは、その時の状態次第だ。
「…それより、明日はスーパーで塩と卵の特売だ。行くだろ?」
話題をナルトの興味を惹く安売り情報に切り替え、サスケは暗に一緒に行こ
うとナルトを誘う。何故だか異様なまでに安売り情報に精通しているサスケの
情報は、ナルトにとって有り難いことこの上ない。明日は休日だし、それなら
ばとナルトは頷いた。
「あ、そういやマヨネーズも切れてたってばよ。」
「それなら今日、隣町の雑貨屋で安売りやってるぞ。お一人様一個までだ。」
思い出したようにナルトが呟けば、サスケがそれに答える。そんな二人の所
帯じみたやり取りにサクラは溜息をついた。まだ若いんだから、もっと華々し
い話がしたいのにこの二人は一人暮らしのため人一倍所帯じみている。
「…先生、早く来ないかな…。」
いい加減スーパーの安売り情報から離れたい。そして安売りを餌にし、ナル
トを釣ろうとするサスケを封印してしまいたい。二人が仲がいいのはいい事だ
けれど、こういう風に仲がいいのはどうかと思う。
けれどその日カカシは、いつまでたっても現れなかったという。
《おまけ》
「先生、この間どうして来なかったんですか?」
遅刻することは多くとも、無断欠勤など一度もなかったカカシだ。それだけ
に気になってサクラが問いかければ、カカシはにこやかに笑って頭に手をやっ
た。
「やー、スーパー行ったら押しつぶされちゃって。」
…カカシが潰されてしまうスーパーとは一体どんな所なのだろう。それより
も、スーパーとは人が押しつぶされてしまうような所なのか。
また嘘なのだろうと訝しげな目でカカシを見ていると、ナルトが横から口を
挟んだ。
「やっぱ先生でも買い物って大変?」
「うーん、そーだなぁー。」
大変といえば大変だ。何せおばちゃん連中は遠慮というものを知らない。タ
イムセールが行われた時など、その場に一斉に押し寄せてくるので偶然その場
に居合わせたのならば押しつぶされてしまう。まぁ、死にはしないが。
顎に手をやり、買い物の時の状況を頭に思い浮かべていると、ついにサクラ
が切れた。
「もうっ!スーパーの話なんていい加減に止めてよ!!」
私はうら若い乙女なんだからと叫び、サクラはカカシとナルトにハリセンを
喰らわせる。ハリセンなので殺傷力は少ないが、精神的に痛い。
叩かれた頭を抱えて、ナルトとカカシはその場にしゃがみ込んだ。
日常をテーマに書いてみました。かなり所帯じみている。…でも、一人暮ら
ししていたらこれくらいにはなるよね…。
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