情けない男







 もういい加減あいつの尻拭いはうんざりだ。頭を抱え、サスケは地べたに座
り込んだ。その横ではナルトが仰向けになって眠っている。

 先ほどナルトは敵陣に無茶な突っ込みをし、それをサスケがフォローするた
め後に続いた。一人一人の技量でいけばサスケとナルトの方が上だったが、如
何せん敵の量が多すぎた。ナルトがつっこんでいく前ならば術を使って敵を痛
めつけることもできたのに、ナルトが敵の中心にいてはそんな事も出来ない。
仕方なしに体術で敵をなぎ倒し続けたらこの様だ。

 畜生。俺をこんな目にあわせた張本人が健やかに眠っているのかと思うと腹
が立つ。だがナルトの顔色が平素よりも蒼いことに気づき、サスケは慌てた。

 ナルトは眠っているのではなく、気絶していたのだ。先ほどの惨劇を考えれ
ば無理からぬ事だったけれど、サスケにそこまで考える頭はなかった。自分の
事だけで精一杯だったから。

 ナルトの肩を叩き、呼びかける。

「おい、しっかりしろ!」

 けれどナルトは目覚めない。もう一度肩を叩き、耳元で叫ぶ。

「目を覚ませ!!」

 やはりナルトは目覚めない。ここまできてサスケは不安に襲われた。このま
まナルトが死ぬような事があったらどうしようかと。

 まだ想いを伝えてない。いや、そこが問題ではなくてナルトには元気に笑っ
ていて欲しいのだ。

 辺りを見渡して、人影が無いか確かめる。ただでさえ交通量の少ない森の中、
ナルトとサスケ以外誰も存在しなかった。

 こんな時に限って誰もいないとは!サスケは舌打ちし、ナルトの顎に左手を、
額に右手をあてて気道の確保をする。人命救助の基礎の基礎だ。

 それから呼吸の確認。口元に耳を近づけると、微かではあるが吐息がかかる。
それに胸も上下していた。…よし、まずは大丈夫だ。

 けれどナルトの顔色を考えるとこのまま放置しておくのはまずい。だが助け
を呼びに行ってくれる人もいなければ、ナルトの様子を見ていてくれる人もい
ないこの状況。一体自分はどうすればいいのか。

 ナルトを里まで運ぶにしても機材がいる。不用意に背負っていては危険かも
しれないからだ。短距離の移動なら背負ってもいいかもしれないが、ここから
里までは距離がありすぎる。

 サスケが悩んでいる間にもナルトの顔色は悪くなる一方だ。先ほどの敵との
戦いで、毒を使われたのかもしれなかった。

 徐々に失われていく顔色はサスケの肌よりも白い。もしかしたらという恐怖
の前で、サスケは自らを鼓舞した。

 とにかくナルトを楽な体勢にするのが先決だろう。第一このままただ仰向け
になっているだけの状態では、舌が咽につまらないとも限らない。ナルトの身
体をねじらない様に横倒しにし、不意に仰向けにならない様ナルト自身の腕と
足で身体を固定する。

 それから上着を脱ぎ、サスケはナルトの上へと被せた。これで少しは楽にな
ってくれるといいのだが、多分そうはいかないだろう。出来たのは彼が窒息死
しないようにすることだけだ。

 木の葉の里の敷地外のこの里で、どの様に助けを呼べばいいのか。近くに味
方はいない。…スリーマンセルはとっくに解消された今、任務は引率つきの団
体で行うものではなくなっていたからだ。

 そもそも今回の任務は偵察という、ナルトの性格には合わない地味なものだ
った。そんな任務に大人数を裂くわけにも行かず、任務遂行はサスケとナルト
の二人に任された。だが、ナルトは地味な行動というのが酷く苦手なのだ。案
の定というべきか、うっかり敵陣で姿を見られ、森の中で乱闘になった。

 もう最悪だ。諜報活動では姿を見られるのは厳禁とされている上、負傷し気
を失ってしまう忍びなど。

 だがそんな男が愛おしいのだから仕方がない。彼の命を、失うわけにはいか
ないのだ。

 こんな時九尾が出てきてくれたら楽になるのに、そうは都合良く事が運ばな
いようだ。九尾は近ごろ、滅多に出てこない。サスケが最後に九尾を見たのは、
もう一年近く昔のことだ。

 驚異的な治癒力を持つナルト。だがそのナルトは不死ではない。あくまで九
尾の力を借りているだけであり、元々はただの人間なのだ。融合に近い形で存
在している二つの魂だが、それでも一つの魂ではなかった。

 だから、ナルトは何かあれば命を失う。それは人間と同じ事。こんな時は、
当たり前のそんな事すら恨めしく思える。

 サスケはナルトの手を強く握りしめた。早く意識を取り戻して欲しいと強く
想う。

 血の気を失うほど強く握りしめた手は、ひどく汗をかいていた。その汗がナ
ルトの肌に吸い込まれていく様を、サスケは不思議な気持ちで見つめていた。








「ああ、ここにいたのか。」

 背中に救命道具を背負ってキバが現れたのは、ナルトが倒れてから小一時間
ほどたった頃だった。キバの後ろにはシノが控えている。

 どうしてここに、という疑問が浮かんできたが今はナルトの救助の方が先だ。
サスケは手短にナルトの症状を話している間、キバは救命道具を地面に広げた。
シノはナルトの様子を伺いながら、どんな薬を使えばいいのか考えている。

 二人の処置は適格だった。こと、医学に関してはサスケはさっぱりだ。その
為二人が来てくれたことは大変有り難かった。

 見る間にナルトの顔にも赤みが差し、彼の様子を伺っていた三人はほっと安
堵の溜息をついた。もうナルトは大丈夫だろうと判断したサスケはキバ達に問
う。

「なんでここにいると分かった?」

「火影様からのお達し。」

 答えてキバは苦笑した。火影のナルトに対する溺愛ぶりを一部では有名だ。
その身に九尾を宿しているという理由もあるのだろうが、それだけではない事
をキバ達は知っている。そんな火影は彼の水晶でよくナルトの様子を伺ってい
た。

 今回もその為ナルトが倒れたことを知り、キバ達を派遣したのだろう。たか
だか一人の忍びのためそこまで労力を裂いてしまう火影というのは、ある意味
問題だ。

 サスケも苦笑し、そっとナルトの肩に手を置いた。そして耳元に囁く。

「…起きろよ…。」

 その声を聞き、ナルトが少し身じろいだ。

「おいおい、何やってんだよ。」

 サスケをナルトから引き離し、キバが軽く睨む。サスケという男を認めては
いても、ナルトに同じ想いを抱くという点では二人は敵同士なのだ。

「ただ起こしていただけだ。」

 しれっと言い放ち、キバをにらみ返す。二人の間の空気は険悪だった。

 だがそれはあくまで二人の間での事。シノはそんな二人を気にも留めず、ナ
ルトの寝顔を見守っていた。

 


 高校生以上の方なら多分経験しているでしょう、心肺蘇生法。…意識失った 人を寝かす方法、あれってトドみたいだと思いません?    久しぶりの更新がこんなんですみません。 


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