都合のいい男でいい


 

 あいつは知っているのだろう。俺が、あいつに抱く感情に。






「泊めてくれ。」

 そう言ってフラリと訪れた男は薄い金色の髪をしていた。昔から、焦がれ続
けた色だ。太陽の光の下いつもキラキラと輝いていた。その光りは今も衰えて
はいない。寧ろ一層光を増したようにも思える。

「好きにしろ。」

 出来るだけあいつの顔を見ないように言い捨て、俺は立ち上がった。狭いア
パートの一室。あいつの顔を見て、正常でいられる自信は無かった。

「好きにするってば。」

 子供っぽさの抜けない口調で言い、男は土足のまま部屋へと上がる。洋風の
このアパートは靴を脱ぐ必要が無いから、その事自体を咎めだてるつもりはな
い。しかし、男の靴にはまだ柔らかい泥が付着していた。

 無言で男に向かって雑巾を放り投げる。男は雑巾と俺とを見比べた後、漸く
靴の泥に気づいて拭き始めた。

「お前って、相変わらず細かいんだな。」

 そうじゃない。俺が細かいんじゃなくてお前が大雑把なんだ。口にしかけた
言葉を飲み込み、俺は黙り込んだ。

 何を言っても、無駄なのだ。暖簾に腕押し、糠に釘。柳のようにしなやかな
この男は、俺の言葉を常に容易く受け流す。昔は違った。俺の一言一言に、激
しく反応を返してくれた。

「…何か、言えってばよ…。」

 泥で汚れた雑巾を投げて寄越しながら、男は声に艶を乗せて話しかけてきた。

 俺はその言葉を無視することで意思表示をする。この男がこういう声を出し
たときは要注意だ。何かを要求する時しか、こんな声は出さない。

「外は、雨か。」

 靴に泥がつくのだから多分そうだろう。男は予想外の言葉に面食らった様だ
ったが、直ぐに平静さを取り戻した。

「そ、雨。だから家に帰りたくないんだってば。」

 雨だから家に帰りたくない?そんな理屈が通用するものか。第一この男の家
と、俺の家とでは職場からは男の家の方が近い。雨の中歩くのが面倒だという
理屈も無いだろうに。

「何が望みだ。」

 問いかける俺の声は、自分自身で驚くほど冷ややかだった。だが男は気にし
た風もなく、俺を見て微笑んでいる。

「分かってるんだろ?」

 言いながら、ゆっくりと近づいてくる。雨の、そしてこの男の匂いが鼻先を
掠めた。

 男は手を伸ばし、俺の首筋に軽く触れる。それがこれから先に起こる事への
合図だった。













「ほら、さっさと喰え。」

 サスケはナルトの前に山と盛られた白米を差し出した。ナルトは目を潤ませ
サスケを拝む。

「サンキュー、今月やばかったんだってば!」

 ナルトは特に金遣いが荒いわけでもないのに、常に金欠状態だ。そして金欠
が極限にまで至ったとき、ナルトはサスケ宅を訪れる。

 昔住んでいたうちはの家は一人では手入れが大変だという理由で今は人に貸
してある。その代わりに住む場所として選んだのは、ただ寝るためだけの狭い
アパートの一室だった。

 だがこの部屋を借りたことで生まれたうれしい誤算もあった。それは、ナル
トが度々この部屋を訪れてくれるという事だ。

 サスケが借りた部屋はイルカ宅に近く、イルカが居なければそのまま流れて
ナルトはサスケのもとへとやってくる。最初の頃はついででしかなかった様だ
が、近ごろではサスケ自身に会いにやってきてくれる事さえあった。

「美味いか?」

「美味いってば!」

 忍びとしての給与に加え、月々家賃として振り込まれる一定の収入もあって
サスケは同期の忍びに加えて裕福だ。それ故、ナルトをこうやって甘やかすこ
とが出きる。向かい合って食事をする、そんなささやかな事がサスケにどれだ
け活力を与えてくれることか。米櫃が底をつく位、大した問題ではない。

「…借りは、そのうち返してもらうからな。」

 そう言って意地悪く笑えば、ナルトも笑顔で返してくれる。

「火影になったら100倍にして返してやるってばよ!!」

 ナルトはまだ火影になる夢を諦めてはいない。それどころか、昔よりも強く
火影に執着している様にも思えた。

 先ほどナルトが触れた首筋を、自分の手でそっと撫でる。そこは微かにでは
なるが熱を持っていて、その事実にサスケは苦笑した。





 最近シリアスばかりだったから、せめてオチだけでもギャグに。…でも、本 当にギャグなのか…?何かが違う、何かが…。肩すかしを喰らわせただけか?


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