自転車に乗って



 桃センパイは重い。そりゃ俺よりも身長あるし、肩幅だってあるし、体重だ
って当然重いけどさ。だけど、ここまで重くなくてもいいんじゃないかって思
うわけよ。

 学校と家との間にあるゆるやかな坂。行きは楽々の下りだけれど、帰りは恐
怖の登坂となる。越前は自分には大きすぎる自転車をこぎながら、照りつける
太陽を睨み付けた。

 青学での練習は終わり、体力ゲージだって空に近い夕方。オレンジ色した太
陽は、駄目押しとばかりに輝いている。重いペダルを踏みながら、越前は後ろ
に向かって声を掛けた。

「桃センパイ、一体何キロあるんすか?」

 言外に重いんだよと吐き捨てて、ペダルを踏む足により一層の力を込める。
ギリギリと嫌な音をたてながらもなんとかペダルは半回転し、そこで再び回転
を止めた。

「ん〜、何キロだったかな。」

 春の体力測定の結果を思い出しているのだろう。桃城は首を傾げて見せた。
だが彼の軽い頭には自分の体重の事など微塵も残っていなかったらしく、彼は
首を傾げたままの状態で冷や汗を浮かべて苦笑した。

 まともな答えが返ってくるなんて期待してなかったから別にいいけど。肩を
すくめ、越前はペダルから地面へと足を移した。後ろに乗っていた桃城は顔を
しかめる。今はまだ坂の途中で、自転車からおりるには早すぎる。

「交代です。」

 額に流れる汗を拭い、越前はすばやく自転車からおりた。桃城も慌ててそれ
に倣う。いくら越前が支えているからといっても、このまま乗っていたら自転
車が倒れてしまいそうだったからだ。 

「おい、越前。今日はお前がこぐんじゃ無いのか?」

 そもそも桃城は、学校を出る際いつものように自分で自転車をこぐつもりだ
ったのだ。それを何を思ったか知らないが、越前が今日は自分がこぐと言い張
ったので今に至る。

 だから、越前が最後までこぐのが当然なのだ。けれど越前は桃城にハンドル
を預けると、自分はもうこぐつもりが無いのか呑気に欠伸なんぞしている。そ
の態度には、流石の桃城も腹が立った。

「え・ち・ぜ・ん?」

 一文字ずつ区切って発音し、越前にプレッシャーを与えようと試みる。しか
し鋼鉄の精神を持つ王子様にそんなのが通用するはずもなく、越前は再び欠伸
をしただけだった。

「ったっくよぉ〜…。」

 一つ年下のこの少年が、とてつもなく我が侭なのは知っている。そしてまた、
この我が侭を受け入れることを自分が楽しんでいるという事も。きっと弟が出
来たみたいで楽しいのだろうな、とは自己分析の結果だ。勿論越前には話して
いない。話したらきっと、馬鹿にされるのがオチだろう。

 桃城はしっかりとハンドルを握りしめ、自転車に跨った。越前もするりと実
に身軽に自転車に飛び乗る。

 合図は、必要なかった。

 桃城がペダルを踏むと、自転車は一気に加速した。暴走運転じゃないかと思
える程のスピードで坂を一気に駆け上がり、そしてそのまま越前の家まで一直
線だ。

「桃センパイ。」

 自分より太い首に腕を回し、耳元に囁く。だが桃城は前を向いたまま、後ろ
を見ようとはしなかった。


 …なんだろう、これ。思いついたときはいいネタだと思ったが、一週間放置 している間に腐ったらしい。駄目じゃん…。


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