楽しいお仕事
頼まれれば何でもやります。それが例え、どんな仕事であろうと。
「カッズマく〜ん、元気してるぅ?」
カズマが寝床にしている診療所にいつものように突然現れた君島は、気が抜
けるような猫なで声ですり寄ってきた。
「何だよ、何か用か?」
しかし応えるカズマは不機嫌で、その声は地を這うほどに低い。
「どーした。何か拙いことでもあったか?」
カズマのあまりの不機嫌さに、君島も声のトーンを下げる。何か問題でも発
生したのだろうかと不安になった。
カズマは何でも屋を生業としているだけに、様々な問題に巻き込まれる事が
多い上にカズマ自身が発生させる場合もある。
不安げな顔で自分を覗き込んでくる君島に、カズマは居心地が悪くなったよ
うだ。身を捩り、君島との距離をとる。
そして、不機嫌そうに吐き捨てた。
「どーしたもこーしたもあるかっ!あの依頼人は何なんだよ。」
あの依頼人と言われても、君島には咄嗟に誰の事なのか分からない。何せ、
カズマに紹介した依頼人の数は星の数…とまでは行かなくともかなりの人数が
いたからだ。
最近紹介した依頼人だけでも五人はくだらない。
「…って、誰のこと?」
すっとぼけた表情の君島に、カズマの怒りは益々募る。
君島の胸ぐらを掴み、つばが飛ぶほどの勢いで怒鳴り始めた。
「てめぇは自分が仲介した依頼人も覚えてないのかよっ!あいつだよ、あいつ。
この間の黒服の怪しいヤツ!!」
そのカズマの説明でピンときたのか、顔に飛んできたカズマの唾を拭いなが
ら拍子抜けしたような声をあげた。
「ああ、あの人か。」
その男なら君島も覚えている。
アルター使いを一人頼むと依頼してきたその男は、さるお方の頼みで依頼に
来たと言っていた。何をするのか、詳しい依頼内容は言わなかったが、それで
もカズマに回したのは男の払いが良かったからだ。
何をさせられるか分からない仕事、いくら払いが良くとも嫌ならばカズマ自
身が断るだろう、と。
「で、カ〜ズマく〜ん。何させられたのかな?」
短気であるカズマはしょっちゅう怒っているけれど、今回の怒り方は結構酷
い。怒りと、苛立ちと、やるせなさが混じったような表情をしている。
何か余程の事でも頼まれたのだろうか。そう思うと、ついついからかってや
りたくなる。だって、カズマは実にからかいがいのある男なのだ。そしてあま
り後に引く性格をしていないから、限度を弁えていれば幾らでもからかう事が
出来る。
君島にとってカズマは相棒であり、悪友であり、…そして楽しい玩具なのだ。
楽しそうに目を輝かせている君島を見て、カズマは嫌そうに顔をしかめた。
「人の不幸がそんなに楽しいのかよ。」
「うん。」
しかしそれには、カズマの不幸に限定され、尚かつカズマが心身共に無事で
あることという条件がつくが。
そして今回は、その条件をきっちり満たしていた。
「あーあー、どうせてめぇはそういう奴だよっ。」
ぼやきながら、君島の頭にヘッドロックをかける。
勿論カズマが本気になったら君島など死んでしまうから、手加減はしている。
軽いじゃれ合いの様なものだ。
そしてこういった一時が、君島は好きであった。
カズマと、自分と、軽口を叩きながらじゃれ合って過ごす。そんな他愛もな
い時間。カズマも君島も、ちょっぴりヤバイ仕事をしているだけにいつ消える
とも分からないこの時間は大変貴重なものだ。
「ちょ、ちょっと待てカズマ!痛いって…。」
態とらしいほどに悲痛な叫び声を上げる。するとカズマは面白がって、君島
の首を絞め始める。
「へっ、ダァレが待つか!この薄情者ッ。」
先ほどの苛立ちが嘘のように晴れやかな顔をしているカズマ。君島とのじゃ
れ合いはカズマの鬱憤晴らしにもなるようだ。
「…く、首は拙いよガズマ゛ぐん…。」
君島の苦しげな声に流石に拙いと思ったのか、カズマが手を離す。
急に首を解放された君島は、思う存分空気を吸って咳き込む羽目になった。
けれどカズマに言わせれば自業自得。背中をさすってやるなんて優しいマネは
しない。
それでもあまりに長い間咳き込んでいる君島が心配になって、顔色を窺うよ
うに覗き込む。
「おい、平気かよ。」
ぶっきらぼうなカズマの言葉。君島にしてみればその言葉が聞きたくて、対
して苦しくもないのに咳き込んでみたりしてしまうのだ。
それにまた見事にひっかかるカズマが愛おしい。
小刻みに肩を震わせ笑う君島に、カズマは自分が騙された事を知った。一発
どついたろかとも思ったが、それを実行する前に君島が口を開いた。
「そういや、結局何があったんだ?」
そこで話を逸らすほど、カズマは野暮ではない。素直に君島の質問に答える。
「…変態がいたんだ…。」
「…変態?」
「黒服野郎の親玉、アルターマニアなんだと。アルター出せって言うからその
通りにしたら、頬ずりされた。」
その場面を思い出したのか、カズマは真っ青になり鳥肌まで立てている。
「…そりゃぁ……」
幾ら払いが良くとも、気持ち悪かっただろう。
「んで、結局されるがままだったのか?」
カズマの性格柄、そんな事はないだろうと思いながらも聞いてみた。
「んなわけあるかっ!!誰が好きこのんでそんな変態の餌食になるかよ。」
そりゃあ金は惜しかったけど…と小声で付け加えるカズマを目の前にして、
君島は頭を抱えた。
このままカズマを放っておいたら、金のために妖しい仕事の一つや二つやり
かねない。何せカズマはまだ若く、その手の仕事をやろうと思えば幾らでも出
来るのだ。
出来ればカズマには、そんなマネをして欲しくない。
そんな思いから、これからはもっと色々カズマに仕事を回そうと決意する君
島だった。
君島って某隠密のイメージなんですけど、どうでしょう。名前の呼び方とか、
何となく似ている気がします。暖簾に腕押し糠に釘〜♪っぽい性格も。
しかし、スクライドの文章って書きにくい…。
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