Drive
ずっと側にあった温もりが消える。
それは酷く、恐ろしい事なんだって初めて気づいた。
どうして、気づかなかったのか。冷えた頭で、ぼんやりとそんな事を考えた。
背中で君島は、徐々にその温もりを失っていく。軽口を叩きながら、触れて
きたときに感じた体温。鬱陶しいと思いながら、それでも嬉しかったのに。
その体温が、消えていく。
嘘、だろう。そう思いたかった。
けれど背中に感じる確かな重みは、否が応でも現実を自覚させられる。
目の前で、かなみが泣いていた。拭うこともせずに、ただ涙を流している。
それが何のための涙であるのかなんて、知りたくなかった。
「…行こう…。」
君島を背負ったまま、カズマは足を元来た方向へと向けた。かなみがそれに
付き従う。
三人は、ひたすら無言だった。
かなみは話さない。涙がこみ上げてきて、口を開くことが出来ないからだ。
カズマは話さない。何が起こったのか、現実の整理で忙しいからだ。
君島は話せない。もう、逝ってしまったから。
かなみの元へ向かうときは、勝利の喜びと、君島が駆けつけてきてくれた喜
びで鼻歌を歌い出したい位だったのに。行きと帰りでは、こんなにも違う。
“行きはよいよい 帰りは辛い”
そんな、歌があった気がする。…正に、その通りだ。
ずり落ちてきた君島を、軽く揺すって背負い直す。その瞬間、不意に頬を掠
めた君島の唇が、酷く冷たかった。
カズマと、ホーリー隊員が闘った場所。其処に君島の車があった。
カズマは君島を助手席に座らせると、自分は運転席へと入った。
「…いつもと、逆だよな…。」
返事は当然、無い。
「俺さ、結構車乗るの好きだったんだぜ?…お前の、限定だけどな。」
かなみのしゃくり上げる声が聞こえた。
カズマはゆっくりと目を閉じる。
「…さぁて、ちょっと行って来るかぁ!」
気合いを入れるため、大声を張り上げる。
「少しだけ、待ってろよ。」
軽く君島の髪に触れ、車を降りる。心配そうな顔をしているかなみの頭を撫
で、ホーリー達が居る方向へと足を向けた。
“派手にいこうぜ”
そうしなければ、気が収まらない。体中の血液が沸騰している。
けれどその興奮は、いつもとは違う色合いのものだ。
前は、闘う時楽しかった。自分の力を試せる気がして、純粋に楽しかったの
だ。けれど、今は違う。身体を支配している感情に、楽しみなんてものは微塵
もない。
君島の顔が、浮かんでは消える。
もう声が聞こえない。その事が、酷く感情をを揺さぶった。
ホーリーを荒らすだけ荒らして戻ってくると、かなみは泣き疲れて車のシー
トで眠っていた。その顔には苦悶の表情が浮かんでいる。
「悪いな…。」
かなみが悲しんでいるのが判った。
君島の死と、その報復に走るカズマに。
かなみの悲しみも判る。けれどカズマは行動せずには居られない。
かなみを起こさないよう、そっと運転席に乗り込む。そして、キーを回しエ
ンジンをかけた。
ハンドルにもたれ掛かり、エンジンが温まるのを待つ。緩やかな車の揺れは
疲れた身体に心地よかったが、疲れているはずなのに、そんなものではとても
眠れそうになかった。
「…君島…。」
返事が返ってくる筈など無いと知っているのに、話しかけてしまうのは何故
なのか。
「…君島…。」
声が、掠れる。
カズマは口を噤むと、無言でアクセルを踏み込んだ。
車は緩やかに動き出す。砂利道の上で、車は直ぐにスピードを上げた。とて
も目を開いていられる状態ではない。
それでもカズマは、しっかりと目を見開いていた。そしてそっと、横に座っ
ている君島を見つめる。
君島は、ただ眠っているだけのように見えた。今にも目を開けて、軽口を叩
き出しそうだ。
『オイ、カズマ。お前車運転出来ないんじゃなかったのかよ。』
そんな声が、聞こえてくる気がした。
本当に、聞こえたらいいのに。そうしたら笑って答えてやるのに。
「バァーカ、お前のせいだよ。」と。
…君島、あの後どうなるの?あのまま車に入れっぱなしかな。それも、カズ
マと君島らしくていいと思う。
でも一番カズマだなぁと思ったのは、君島の銃でのアルター。あれは感動でし
た。
|