発信人・恋する伊達男




「ホラ見て、カズ君。」

 いつもの様に牧場に出かけたかなみは、大量の花を抱えて嬉しそうに帰って
きた。

「どうしたんだ?それ。」

 ロストグラウンドに花は珍しい。カズマは驚きつつ、花を見つめた。

「う〜ん、よく分かんない。玄関の所にね、置いてあったの。」

「玄関?」

 怪訝そうな顔をしたカズマに、かなみは小さく頷いた。

「カズ君、誰からか心当たりある?」

 人見知りをするかなみの知り合いはごく少数だ。精々牧場に関わっている人
くらいのもので、わざわざ家にまで花を持ってくるような人間の心当たりはな
い。だとしたら当然、この花はカズマに贈られたものなのだろう。

 カズマは改めて、まじまじと花を見つめた。

 綺麗な白い花は見たこともない形をしている。

「…心当たり、ねぇ…。」

 白い花を一本抜き取って、カズマは花びらを口に含んだ。

「カズ君、それ食べ物じゃないよ?」

「…そうみたいだ。」

 余程、不味かったのだろうか。カズマは顔をしかめて花を吐き出した。


「おいおい、何やってんだよ。」

 いつの間に入ってきたのか、君島が呆れ顔でカズマを見下ろしていた。

「よっぽど腹減ってたのか?」

 手土産の菓子パンの入った袋を机に置き、カズマの隣りに腰を下ろす。

「…何しに来たんだよ…。」

 花を食べるところを見られてばつが悪いのか、不機嫌そうにカズマは言い放
った。けれど君島にはカズマの不機嫌など通じない。

「ん〜、お前の顔見に、だけど?」

 ニヤリと笑って、カズマの頭を軽く小突く。カズマも迷惑そうな顔をしてい
るものの、君島の手を振り払おうとはしなかった。

「…バカ言ってんじゃねーよ。それより、何だよソレ。」

 言いながらカズマが指さしたのは、君島が持っていた草とも花ともつかない
植物だった。草と言い切るにはオレンジと紫が鮮やかで、しかし花というには
形が悪い。茎に葉っぱをつけただけの様な形をしているのだ。

「ん?コレか。お前のトコの玄関に転がってたぞ。」

「ソレもか?」

 カズマが嫌そうな声をあげる。

「それもって…、そっちの花もか?」

 君島はかなみが抱えたままの花を指さした。

「…そーだ。なんか玄関にあったんだと。」

「はぁー、玄関にねぇ。」

 奇特なヤツもいたもんだと、君島は呆れた。

 花を贈るのは構わない。しかし贈っても、贈り主が分からないと意味が無い
ではないか。第一カズマは特に花が好きというわけではない。カズマを喜ばそ
うとして花を贈ったのならば、寧ろ逆効果といえる。現に今、カズマは不機嫌
だ。

 君島は、玄関で拾ってきた派手な色の植物を見つめた。

 君島でも何度か見たことあるその植物は、歴とした花だ。名前はストレリッ
チア。日本ではその形と色から、極楽鳥花と呼ばれている。

 花言葉は確か…

「恋する伊達男、か。」

 思わず、口をついて言葉が漏れる。けれどカズマもかなみも、聞いた様子は
ない。

 その事に何故か安堵しつつ、君島はカズマに花を贈ってきた人物の事が分か
る気がした。

 白い花はデンドロビウム。花言葉は、カズマにぴったりのものだ。

 自然、笑みが零れる。

「君島、何笑ってんだよ。」

 不思議そうな顔をしてカズマが君島の顔を覗き込む。

「イヤ、別に。…それより、腹減ってたんじゃないか?パンでも食えよ。」

 言いながら、君島はカズマに袋を手渡した。

 誤魔化すような態度をとる君島に釈然としないものを感じつつも、それより
食欲の方が勝ったのかカズマは袋の中からパンを取り出すとかぶりついた。

「ほら、かなみちゃんも食べるだろ?」

 かなみの方を振り返ってみれば、かなみは花をどうするべきか困惑気味の表
情を浮かべている。

「俺に貸してごらん。花瓶…は無いから、洗面器借りるよ?」

 かなみから花を受け取り、君島は苦笑する。

 こんなに大量の花を、この小さな少女がよくぞ抱えていられたものだ。花の
香りに、窒息してしまいそうになる。

 

 デンドロビウム。

 花言葉は、わがままな美人。

 恋する伊達男は、わがままな美人に何を伝えたかったのだろうか。




 交通事故現場に、ストレリッチアが捧げられていました。気持ちのいい花な ので、私は結構好きなのです。亡くなったのは、伊達男だったのかしらと些か 不謹慎な事も考えてしまいます。  差出人不明の花があったら、私なら生ゴミに出します。でもまぁ、相手はカ ズマだし…。喰えそうな花じゃないんですがね、デンドロビウム。   

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