あすかが行く!




「はぁあぁ〜〜〜…。」

 大層な溜息をつき、あすかは布団へとなだれこんだ。

 かなみが浚われてからというもの、心の休まる暇がない。かなみを救いにい
くのだと、カズマが暴れるのだ。それを抑えるのは主にクーガーの役目だが、
クーガーだけでは二十四時間監視する事なんてできはしない。よって、あすか
と劉邦を交えてカズマ監視のローテーションが組まれているのだ。

 今、あすかはカズマの監視を終えたばかりだった。

 暴れるカズマを抑えつけるのに、どれだけ体力がいる事か。肉付きはあすか
の方がいいのに、スタミナと力ではカズマの方が数段上だ。暴れ続けたせいで
幾らか弱ってはいたが、体力を使うことに変わりはない。

「どうにかしないと。」

 カズマも、こっちも参ってしまう。あすかは布団の中で、真剣にその事につ
いて模索し始めた。





 
 目が覚めると、劉邦が建てた小屋の中にいた。どうやら暴れ疲れて眠ってし
まったらしい。

 カズマはキョロキョロと周囲を見渡し、誰も居ないことを確認すると勢い良
く立ち上がった。

 監視の眼がない、今がチャンスだ。今なら、誰にも見咎められる事無くかな
みの元へ行くことが出来る。

(クーガーの間抜けっ!)

 監視を怠ったクーガーを嘲笑いつつ、カズマは扉の取っ手にと手をかけた。
そして、出来るだけ音を立てないようそっと開く。

 そして、カズマは固まった。

 其処には一人の少女が扉に背を向けて座っていたのだ。その為顔は全く見え
ない。だが、あの髪の色、あの服装は…

「…かなみ…?」

 上擦った声で、カズマは呟いた。

 そんな馬鹿なという思いと、無事だったのだという安堵感。他にも嬉しさと
か、猜疑心とか、色々な感情が混ざってどんな顔をしていいのか解らない。

 ふと、少女がカズマの方に振り向いた。

 その顔には見覚えがあったが、かなみのものではない。

「カズ君。」

 少女にしては随分野太い声でカズマの名を呼ぶと、少女はカズマの元へと近
寄ってきた。

「カズ君、朝ご飯食べる?」

 にこやかな顔で話しかけてくる少女…否、そうではない。

 その正体に気づいたカズマは大声で叫んだ。

「お前、なんでそんな恰好してんだ!!」

 カズマの叫びは無理のないものだった。何せ、今カズマの目の前でかなみと
同じ恰好をしているのはあすかだったのだ。

 あすかの顔は、そりゃあ少女の様に可愛い。顔だけならば、美少女で通るだ
ろう。だが、ここであすかの体つきを思い出していただきたい。

 鍛えすぎたのか、少年の割に太い腕。クビやら腰やらは細いかも知れないが、
それでもカズマには及ばない。

 その、あすかが

 かなみと同じ恰好をしているのだ。腕はいい。だぼだぼの袖に隠れて見えな
いから。けれど、剥き出しの足ばかりはどうしようもない。

 カズマは毛虫でも見つけた時のように、顔をしかめた。

「…お前、そういう趣味があったのかよ…。」

 程良く筋肉のついた足が、キュロットスカートの裾から覗いている。その不
気味さといったら、なんと形容すればいいだろう。顔が美少女なだけに、余計
に不気味だ。

 一人苦悶しているカズマを余所に、あすかは至って平然としていた。

「別に趣味じゃないですよ。ただ、貴方の心を慰めようと思いましてね。」

 やっぱりかなみちゃんがいれば心休まるだろうと思って、恰好だけでも真似
てみましたとあすかは笑う。

「ついでに、こんなものもあるんですっ!」

 そう言ってあすかが出したのは、見事なまでのかなみグッズ。

 かなみの顔がついたタオル。かなみの顔がついたマグカップ。果ては、洗面
器なんてものまである。

「…オイ…。」

 カズマが剣呑な声を出すが、あすかは気にもとめない。

「あ、やっぱりこんな物よりこっちの方がいいですかね。」

 あすかはイソイソと袋の中からかなり大きな物体を取り出した。

「ほら、これがかなみちゃん人形!!」

 パッパカパーン!と効果音まで聞こえてきそうな勢いで、あすかが取り出し
たのは見事なまでの出来映えの等身大の人形だった。一体そんなもの、いつの
間に作ったのか。

 無理矢理人形をカズマに押しつけたあすかは、実に満足げな表情をしている。

「これで暫く大人しくしてて下さいね。」

 なんて事まで言うものだから、ついにカズマはブチ切れた。

「いい加減にしろぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!」

 見事あすかの顎を、カズマの拳が捕らえる。

 あわれあすかは、星になったとさ…。


 …ごめんなさい…。  これで争奪戦だったとは、誰が信じよう。誰も信じまい。(反語)どうして 出てこなかったんだろう、クーガーと劉鳳…。(遠い眼)  

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