花
「…俺にどうしろってんだよ…。」
ボリボリと頭を掻きながら、カズマは部屋の中を見渡した。
積み上げられたラッピングされた包みの、山、山、山…。何だってこんな事
になったのか。このままでは自分の生活空間までなくなってしまう。
山の中から包みを一つ取り上げ、いっそ捨てようかなと考える。イヤ、待て。
誰かに売りつけるのも良いかも知れない。何せコレは…
「…隊長から…。」
いつの間に入ってきたのか、イーリャンが立っていた。その手には、今カズ
マが手にしたのと同じ様な包みが幾つも抱えられている。
「またか?」
嫌そうにカズマが尋ねれば、コクリと頷く。
幼いそんな動作にかなみを重ねながら、カズマは先日会ったばかりのホーリ
ー隊長、ジグマールの顔を思い浮かべた。
二十代だと言っていたが、どう見ても三十代の顔。彼は何かにつけて、カズ
マに品物を送りつけてくる。それは日常必需品だったり、食べ物だったり、使
いようもないガラクタだったりする。
それを、どうしろというのか。
最初の頃は、まだ足りないモノも多かったから有り難かったが、こうも毎日
続くといっそ嫌気もさしてくる。おまけに、こうやって品物を送りつけてくる
人間は隊長だけではない。
「すみませーん。」
既に聞き慣れてしまった声に、そちらの方へと顔を向ければ大量の花が蠢い
ている。正確には、花を持った人間が蠢いているだけなのだが、あまりの量の
多さに花が蠢いている様にしか見えない。
「サイン、お願いします。」
花を部屋の中央へと運ぶと、馴染みとなった店員が伝票を渡す。だが生憎、
カズマは字がかけないので拇印だ。店員が持っていたボールペンを指へと塗り
たくり、ベタリ、と押しつける。
「毎度、どーも。」
店員は明るい声を残して、その場から立ち去った。
「…花屋…。」
「そう、花屋だ。」
「クーガーから。」
「そうだ。」
何を想ったかは知らないが、クーガーはこうやって毎日の様に花を送り付け
てくる。前にクーガー自身が持ってきた時どうしても受け取らなかったせいな
のか、近ごろは花屋が花を持ってくる。
相手が単なる店員となると、受け取らないわけにはいかない。クーガーから
だと知って受け取ろうとしなかった事があるのだが、その時は店員に泣いて縋
られ、大変気まずい思いをした事がある。
それ以来、なし崩しに花を受け取る羽目になっている。おかげで部屋は、店
が開ける程の量がある。
「花、嫌い?」
余程嫌そうな顔をしていたのだろうか。イーリャンの問いかけに、カズマは
苦笑した。
「嫌いじゃねーよ。好きじゃないけど。」
そう、嫌いではないのだ。場所はとるし、喰えないし、ただ存在するだけの
ものだけれど嫌いではない。けれど、好きでもないのだ。カズマは花を愛でる
という趣味はない。
イーリャンは何故か困った顔をした。カズマが花をどう思っているかが、そ
んなに重要な事なのだろうか。
「イーリャン?」
俯いてしまったイーリャンに、声をかける。するとイーリャンは後ろから、
何かを取り出した。
「…これ…。」
「……嫌い?」
イーリャンが取り出したのは、花だった。
そこら辺にでも咲いていたのだろうか?葉っぱはキレイに切り取られていた
が、何処かひなびた感じのする黄色い小さな花だった。
カズマでも、この花なら見たことがある。名前は確か…
「タンポポ、だよな。」
イーリャンはこくりと頷いた。
「嫌い?」
再度イーリャンは聞いてくる。
ああ、そうかと思う。イーリャンは、カズマが花を好きではないといった事
を気にしているのだ。嫌いではないといった。だが、そこで敢えて嫌いかと聞
いてくる心情がわかる気がした。
カズマはイーリャンの手からタンポポをそっと取り上げると、その小さな体
に抱きついた。
「好き、だよ。」
耳元に、そっと囁く。
イーリャンの顔に浮かぶ笑み。それにつられ、カズマも笑った。
何がしたいの、海田さん。
歪んだ愛情をイーリャンとカズマに注ぐおかげで、わけがわからなくなって
いる。また間違えたね、争奪戦。いつになったら書けるの、争奪戦。
ごめんなさい…。
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