それもまた愛




「豆まきしようぜ。」

 そう言って君島が持ってきたのは、何処からどう見ても豆ではなかった。

「…なぁ、これ違うんじゃねーか?」

 幾らカズマが無知とはいえ、豆まき位知っている。行事好きの誰かさんのお
かげで、日本で現在行われている行事は粗方こなしてきていた。

 普通、豆まきに使う豆といえば小指の先ほどの小さな炒り豆だ。当たっても
さして痛くないのがこの豆のいい所といえる。けれど君島が持ってきたのは…

「あぁ、胡桃ですね。」

 嬉しそうに言って、かなみはバスケットいっぱいに入った胡桃を覗き込んだ。

「これで豆まきしたら、痛いですよ?」

 そう、胡桃は豆と違ってでかい。そして人間の指の力だけでは潰せない程の
固い殻を持っている。こんなものをぶつけ合ったら最後、怪我人が出てしまう。

 真面目な顔で胡桃を指さすかなみを見て、君島は苦笑した。

 別に君島は、胡桃で豆まきをしようなどと本気で考えていたわけではない。
ただ、豆まきが出来たら楽しいかなぁと考えていただけだ。だが生憎豆が手に
入らなかったので、豆の代わりにまけそうな物を持ってきただけなのだ。

「ま、痛いだろうな。」

 でもカズマなら平気だろうと意地悪く笑う。カズマは君島の笑みの裏に隠さ
れた真意に気づいて、思わず後ずさった。

「…なぁ、まさか、だよな…?」

「さぁ、どうだろうねぇ、カズマくん。」

 胡桃を一つつかみ取り、君島はニヤリと笑った。

「君島さん?」

 楽しそうな君島を、かなみが訝しげな目で見上げる。けれどそんな視線を気
にもせず、君島は大きく振りかぶった。


(当たる!!)


 そう感じて、カズマは反射的に目をつぶった。だが予想していた衝撃は、い
つまでたっても訪れなかった。

 恐る恐る目を開ける。すると其処にはかなみと呑気に胡桃を割っている君島
の姿があった。

「き〜み〜し〜まぁ〜?」

 独特のイントネーションをつけて君島の名を呼べば、彼は振り返ってヒラヒ
ラと手を振った。

「カズマもこっち来いよ。この胡桃美味いぞ。」

「そーよ、カズ君。この胡桃とってもおいしいよ。」

 かなみにまで言われてしまうと、カズマは抗う事が出来ない。なんとか君島
に対する怒りを収め、カズマは二人の方に歩み寄った。

「ほれ。」

 君島はカズマの手に胡桃とハンマーを渡した。左手でそっと胡桃をおさえ、
右手に持ったハンマーで殻を叩き割るのだ。
 
 けれどハンマーの扱いなんて慣れていないカズマは、直ぐに自分の指を打ち
付けてしまう。いくらカズマが打たれ強いといっても、ハンマーで何度も指を
叩けば痛いにきまっている。それも、自分で叩いているのだから尚更だ。

 恨めしげに君島を見ると、彼は器用に割った胡桃をかなみと分け合っている。
流石にかなみに自分で割らせるのは可哀想だと思ったのか。

 胡桃を頬張りながら、かなみが心配そうにカズマを見ている。腫れてしまっ
たカズマの指を心配しているのだろう。カズマはかなみを心配させない為にも、
平然と胡桃を割らなければならない。

 胡桃を見る。ゴロゴロと、ちょっとでも手を離せば転がってしまう厄介な物
体。ハンマーなんて使うから割れないのだ。いっそ拳で割ってしまえ。

 握り拳を固めると、カズマは胡桃に向かって振り下ろした。

 が、見事的を外れカズマの拳は床をぶち抜いてしまった。

「カズ君…。」

「カズマ…。」

 呆れたようにかなみと君島がカズマを見ている。そんな事言ったって、仕方
ないじゃないか。胡桃が割れないのだから。

 なんだか面白くなくて、床から拳を抜くとカズマは胡桃を君島の方へと放り
投げた。それを君島がキャッチする。

「しょーがないヤツだよ、全く。」

 溜息をつきながらも、君島はカズマの投げた胡桃を割ってやった。そしてそ
れをカズマに渡す。

「ほら、喰えよ。」

 カズマはそっぽを向きながらも、しっかりと胡桃を受け取った。そして口の
中へと放り込む。それから暫くの間口をもぐもぐと動かしていたが、一言。 

「…うまい…。」

 その言葉を聞いて、君島は微笑んだ。

「だったら、もっと喰え。」

 言いながら胡桃をバスケットから取り、器用に割っていく。それを端からカ
ズマは口へと放り込んだ。まるで流れ作業だ。


 そんな二人を見て、かなみはぽつりと呟いた。

「…カズ君なら、握りつぶせるのに…。」

 確かに、そうだろう。カズマほど力があれば、胡桃を握りつぶすくらい造作
もない。けれどカズマはきっと其処まで頭が回らなかったに違いない。

 だったら、君島は…?

 もしかしたら、カズマに胡桃を割ってやりたかったのかもしれない。




 行事はやはりこなした方がいいのかな、と今更ながら豆まき。クリスマスも 正月もやらなかった癖に豆まき。  このサイト、現代物のジャンルが少ないので行事をやろうと思うときちょっ と色々な事が引っかかる。


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