等身大の現実
ソウイチから渡された人形を手に、ユキヤは沈黙していた。
一体ソウイチはいつの間にユキヤの髪の毛を手に入れたのか、それも気にな
ったがそれ以上に気になることがある。
等身大のユキヤの人形。これを一晩のうちに作り上げたとソウイチは言って
いるが、本当にそんな事が可能なのか。髪の毛を植え付けるだけで、一晩は十
分かかりそうに思える。
「…これ、本当に一晩で作ったんですか…?」
不信感を顕わにしてユキヤが訊ねると、ソウイチは苦笑した。
「おいおい、俺を舐めるんじゃないよ。これでも俺は人形作りの天才名のさ。
マヤだって見事なもんだろ?」
確かにマヤは見事な人形だ。喋れる様になってからというもの、単なる幼い
少女の様にも思えてしまう程にだ。だが、ソウイチはマヤを作るのに数年を要
したと言っていた。隠れながらの作成だった為にそれだけ時間がかかったのか
もしれないが、それでも幾らおおっぴらに作ることが出来るからといって、高
さ170pもある人形を一晩で作るのは無理なように思える。
「やっぱ、幾ら天才でも無理なんじゃ…。」
人形館での悪夢退治を終え、青屋敷に帰ってきたのはもう夕食の時間だった。
ソウイチが部屋がマヤをユキヤに預けてから、再びユキヤの前に姿を現したの
は六時間後の話だ。
ユキヤはぼりぼりと頭を掻きながら、納得しなさそうに溜息をついた。そん
なユキヤを見て、ソウイチも溜息をつく。
「髪の毛はカツラだし、服の中の身体はきっちり作らなくてもいい。だから、
結構手間なんてかかんないもんなんだよ。目だって閉じてるから、わざわざ眼
球入れなくていいし。」
「…まあ、そうかもしれませんが。」
不承不承といった風にユキヤが納得すると、ソウイチは笑った。実に楽しそ
うに、ソウイチは笑う。
「とにかく、そういう事だから危なくなったらそれ使うんだぞ?いいな?」
何度も何度も念を押すと、ソウイチは自分の部屋に帰るためドアのノブに手
をかけた。そんなソウイチを、ユキヤが呼び止める。
「ソウイチさん。」
上擦った声でソウイチの名を呼ぶと、ユキヤはソウイチの腰にしがみついた。
「ソウイチさんは行くんですか?ミズキ君や、ミルコさんみたいにいなくなっ
てしまうんですか?」
それは絶対に駄目だと、ユキヤは繰り返すとソウイチにしがみつく腕に力を
込めた。ソウイチは、まるで駄々っ子の様な仕草をすうユキヤの髪を優しく撫
でた。
「大丈夫だ。俺は自分が危険だという事を知っている。…二人のようには、な
らないさ。」
自信に満ちた口調だった。だがユキヤは知っている。ソウイチが、天才と呼
ばれた子役であった事を。今も、演技しているだけではという疑念が拭えない。
「絶対ですよ!明日になって、もしソウイチさんがいなくなっていたら僕は怒
りますからね?」
ソウイチには、傍にいてもらわないと困る。だからユキヤは必死になってソ
ウイチに縋り付いた。そんな自分の行動を、女々しいだなんて思わない。真実、
ソウイチにはいてもらわないと困るのだ。
「ユキヤくん…。」
困ったように、そして照れた様に頬を僅かに紅く染めソウイチは呟いた。ユ
キヤが自分の事を心配してくれている。その事実が例えようもなく嬉しかった
のだ。
ここで、何も言わずにソウイチは去るべきだったかもしれない。そうすれば
ソウイチは幸せなままでいられただろう。だがここで、ソウイチはうっかり口
を滑らせてしまった。
「俺がいないと、君は困るかい?」
この言葉により、ソウイチはユキヤが自分を好いているという事を確認した
かったのだろう。そんな事をすれば、どうなるのかつい先日までのソウイチな
ら分かっただろう。だが、この時ソウイチは極度の興奮状態により、正常な判
断が下せなくなっていたのだ。
ユキヤを優しく抱きしめながら、返事を待つ。暫しの沈黙の後の答えは、ソ
ウイチを撃沈させるのには十分な威力を持っていた。
「当然ですよ!全体の攻撃魔法使えるの、今はソウイチさんとマヤだけなんで
すからね?いなくなったら大変な事になっちゃうじゃないですか。」
僕は魔法より打撃の方が強いし…と言いながらソウイチの肩をバシバシと叩
く。やはりユキヤは、ソウイチを使うことしか考えていなかった。
哀れ、期待したソウイチはガックリと肩を落とし、トボトボと自室に帰るな
り館に喰われたのであった。
シリアスだと思って期待していた方は…いないでしょうね。
というか、YAKATA関連の文章読んだ人間がいなさそう…。私はそれなりに
好きなんですがね、YAKATA…。
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