最悪の結末
時計館から戻ってきたユキヤは憂鬱だった。理由は幾つかある。
まず、取り戻した自分の記憶。時間という魔物の中で狂ってしまった父と姉。
それを見つめるのは、心臓が切り裂かれる様に痛かった。忘れたままでいられ
たら幸せだっただろう。だが、忘れたままでいるなんて事はどのみち不可能だ
ったに違いない。悪夢退治が終わったら、皆それぞれの道を進むためバラバラ
になってしまうのだ。ユキヤも、自分の家である時計館に帰る羽目になってい
ただろう。
そしてもう一つは、三人の仲間の不在…。中でもリーダー格であったソウイ
チの不在は痛かった。戦闘レベルが格段に落ちたように思える。それ故、「最
強」である事が大好きなユキヤは戦闘の合間に深々と溜息をつく事が少なくな
かった。
「やっぱり、私じゃ駄目なんですね…。」
ミズキの代わりを必死になって努めてきたユリエの呟きも、ユキヤには届か
ない。心配げなマヤの視線も、労るようにすり寄ってくるゲンタの存在も。
ユキヤは、ただ強くありたいのだ。もしかしたら、姉を守れと言ってきた父
の命令が身体の奥深くに染み込んでいるのかもしれなかった。
そんなユキヤであるから、このメンバーのままで最後の館に乗り込むのに不
満を抱いていたのだ。どうせなら圧勝がいい。だがこのメンバーでは無理なの
だ。せめてソウイチがいてくれたら心強いのに。
不満たらたらのまま、ユキヤは青屋敷に帰り着いた。
と、そこで気づいたのだ。青屋敷の外観が、再建される前とされた後ではま
ったく違う事に。つまり、今建っている青屋敷は…。
ごくりと唾を呑み込み、ユキヤは柄にもなく緊張した。もし、これが事実だ
としたらユキヤ達はとんでもない所に住んでいたことになる。その事をユリエ
達に伝えようとするたび、見計らったように屋敷の者達の邪魔が入った。もう、
間違いない。ソウイチが言っていたように、この屋敷の者達は《悪夢》の手先
なのだ。
案の定、というべきか。ユキヤが館の秘密に気づいたことを、館の者達も悟
ったのだろう。執事に見張られながら、ユキヤは自室へと戻る羽目になった。
執事がいる前では迂闊な事は喋れないから、当然ユリエ達に館の秘密を告げる
ことも出来ない。
執事を振りきる策もなく、ユキヤはマヤとゲンタをユリエにあずけて自室に
戻る。だが当然、このまま眠るつもりはない。暫く待って、廊下に執事がいな
くなったのを見計らってからユリエ達に館の秘密を告げるつもりだ。
だがどうだろう。執事はなかなかいなくならない。仕方なくユキヤは一度床
に入った。だが、寝付けるはずもない。ユキヤは起きあがると、真実を告げる
べくユリエの部屋へと急いだ。
出来るだけ足音を立てないように廊下を歩き、はす向かいにあるユリエの部
屋の様子を伺う。ユリエと、ゲンタの寝息が聞こえてきた。どうやらぐっすり
眠っているようだ。部屋の鍵もかかっているし、このままではユリエ達に話を
することが出来ない。もしここで、ユリエを起こすような声で話しかけたら、
屋敷の者達まで気がついてしまう。
仕方がない、部屋に戻ろう。
そう決意すると、ユキヤは再び自室へと戻った。そしてそのままベットへと
横になる。まだ起きていようかとも思ったが、眠気には逆らえなかった。
目を閉じてから、どれくらいの時間が経っただろうか。
ベシャ バキ パキ…
嫌な音がして、目が覚めた。一体どこから音が出ているのだろうと目を擦る
が、位部屋の中の事だから闇が蠢いている様にしか見えない。
そのうち、身体に何やら遺物がまとわりついている事に気がついた。触手の
様なものが、ユキヤの腕を、足を、首をしめつける。
そしてユキヤは、ソウイチが言っていた事を思い出した。
行ってきた館、縁の者が帰ってきた夜必ずいなくなる。ソウイチはそう言っ
ていたではないか。ならば今夜は、自分の番ではないか。
身代わり人形を…と思ったがもう遅い。触手はユキヤにまとわりついて、ど
んなに引っ張っても離れない。
そのうち、息が苦しくなっていた。もう駄目なのか、そう思うと悔しくて涙
が出た。何が、強くなりたいだ。こんな血の巡りの悪い頭で、よくそんな事が
思えたものだ。
ああ、せめてユリエ達に危険を知らせなければ。
口の中に入ってきた触手をかみ切り、ユキヤは叫んだ。だが叫びが形になる
前に、館がユキヤを取り込んでしまう。
後には、部屋の隅にユキヤの身代わり人形が残されただけだった。
ソウイチは便利ですね。ソウイチは。他の人格は、ちょっと…。
館に喰われてゲームオーバーはかなりショックですよ。予想外の所でやら
れたぁ!!という感じです。半泣きになりながら、時計館からやり直しした
さ…。
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