邪悪な聖女
「マヤを預かってくれ。」
ソウイチに頼まれ、ユキヤは訝しく思いながらもそれを承諾した。人形一体
預かるのに、躊躇する必要などなかったからである。
だが、ソウイチがマヤを自分に預けた理由は何なのだろうかと不思議に思う。
マヤに、ソウイチの部屋にいて欲しくなかったのか。あるいは、マヤにユキヤ
の傍に居て欲しかったのか。恐らくは前者であろう。だが、その根本にある理
由に心当たりはない。
ユキヤはマヤを抱えたまま、暫く食堂に突っ立っていた。そんなユキヤの髪
をマヤが引っ張る。
「ユキヤ、もう寝るの。」
確かにこのまま食堂に立っていても仕方がない。ユキヤは自室に戻ることに
し、ユリエに声をかけた。
「ユリエさんはどうします?」
まだ暫く食堂にいるのか、あるいは部屋に戻るのか。
ユキヤの問いに、ユリエはクスクスと笑いながら口を開いた。
「良かったですね、ユキヤさん。そんな可愛いお人形さんと一晩一緒なんて。」
いえ、幾ら可愛くても人形ですからとは声にならない心の叫びだ。だがユリ
エは、ユキヤの心中を察した様子はない。
「変な気起こしちゃ駄目ですよ?」
ユキヤの鼻を人差し指でちょんとつつくと、笑いながらユリエは去っていった。
変な気って、どんな気なのか。この場合それは愚問である。
「ユリエさん、僕を何だと思ってるんでしょう…。」
この自他共に認める美少年である自分が、人形に手を出す変態さんだとでも
思っているのだろうか。ユキヤはそんな素振りを見せた記憶はないし、事実人
形に手を出す趣味もない。
「どう思う、マヤ?」
腕の中の人形に問いかけると、彼女は首を横に振った。
「わかんないの。」
そりゃ、分からないだろう。ユキヤにだって、マヤに分かるとは思ってない。
邪悪なものを察知する能力を持つマヤだが、人間の邪悪性までは察知出来ない
のだろう。
「取り敢えず、部屋戻ろう。」
どっと疲れたと言ってユキヤが扉に手をかけた。もう立っている気力すらな
い。そんなユキヤに、マヤが追い打ちをかける。
「ユキヤ、変な気起こすと何するの。」
そんなの知りません。
ユリエのセリフに驚愕した人間は多いはず。お父さんの影響ですか?ユリエ
さんと思わず絶叫してしまいました。そして涙する。…ミズキ君、この先絶対
苦労するよ…。
え?ユリエさんのこんなセリフ聞いてないって?聞いてない方は、ソウイチ
さんからマヤを預かった直後にユリエさんに話しかけてみましょう。…泣けま
すから。
|