[青春時代]



  初めて見たとき、目が大きなヤツだと思った。あまりに大きすぎる目
はどこか現実離れしていて、見ていると落ち着かない気持ちになった。
それでも見ずにはいられない、そんな引力がヤツにはあった。

 頭が良くて、目つきが悪くて。でも、笑うと子どもみたいに可愛く
て。こんなヤツには二度と会えない。そう思うと、ますますヤツにのめ
りこんだ。

 一緒にたくさん話をした。学校のこと、日本のこと、世界のこと。だ
けど気づかなかったんだ。将来のことを、一度も話さなかったというこ
とに。

「なんで、高校行かないんだよ」

 ヤツが高校へ進学しないと知ったのは、具体的な進路指導が始まった
夏のことだった。担任が「あれだけ頭がいいのに高校へ進学しないのは
勿体無い」とぼやかなかったら、そのことを知るのはもっと後になって
いたかもしれない。

 友人と思っていたから、大切だと思っていたから、大切な進学につい
て自分に一言も相談なく決められたことに傷つけられた。ヤツにとって
自分は、なんの意味もない存在なのだろうかという不安が押し寄せる。

「行く必要がないからです。中学校は一応義務教育なので通いました
が、高校は義務ではないでしょう。」

 確かに、義務ではない。けれど特に事情がなければ、高校へと進むの
が普通になっている。家は裕福だし、頭もいい。それなのに高校へ進ま
ないとは、一体どんな事情があるというのだろうか。

「…俺は、お前と一緒に高校へ行きたかった。」

「そうですか。けれど私には、高校へ通う理由がない。」

 冷たい拒絶の言葉。ヤツの目には、自分の姿はうつらない。

「それではこれで失礼します。」

 カバンも持たずに教室を出て行こうとするヤツの襟首を掴み、そのま
ま自分の方へと引き寄せる。驚いたように大きな目を更に大きく見開く
ヤツの目に、舌を這わせた。

 この目が好きだ。この目に囚われて、ずっと傍にいたいと願ってしま
った。ヤツはこちらのことなど、微塵も考えていなかったというのに。

 ヤツの大きな目を舐める。少しだけ、塩の味がした気がした。





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