[ささやかな抵抗]


 
 最近、学校にサングラスをしてくる生徒が増えた。校則で禁止されてはいるが、教師達が
何も口出しできないというのが現状だ。キラに殺されるかもしれないという不安を、サング
ラスが救ってくれるなら安いものだ。

 それに、サングラスならまだいい。生徒の中には、お祭りで売っているようなお面や、ゴ
ムマスクをつけてくるものまでいる。それだけキラに対する恐怖が強いのだ。

 はじめは教師達も、生徒の不自然な姿を正そうとした。悪いことをやっていないならば、
キラに殺されることはないから大丈夫だと。それを言うと大抵の生徒は決まり悪げに視線を
そらすのだ。

 けれど一人、じっと教師の目を見つめてくる少女がいた。私は悪いことは何もしていない
ときっぱりと言い切るのに、その顔は目を覗いて白い布で覆われていた。

「悪いことをしていない人も殺されます」

 震えながら、それでも毅然と彼女は言い切った。

「アナウンサーの人が、悪いことをしましたか?FBIの人が悪いことをしましたか?キラは、
自分を批判する者、自分を捕まえようとするものを許さない。」

「だからって、何も君が顔を隠す必要は無いだろう?キラは一般人に手出しはしないみたい
じゃないか。」

 担任の言葉に、彼女は目を見開いた。そして躊躇うように視線をさまよわせる。それでも
彼女は再び担任に視線を戻すと、ゆっくりと口を開いた。

「どういった人が、一般人なんですか?」

「は?」

「お兄ちゃんは、何もしてないのに殺されました。この間のテレビ、先生も見たでしょう?
テレビ局の前で刑事さんが殺されたの。」

「あ、あぁ。」

「私にとって、お兄ちゃんは一般人でした。確かに刑事だったかもしれないけど、それより
も私にとってはおにいちゃんでした。キラのテープを止めようとして、そして殺された。」

「…」

「私は、キラを批判します。そしていずれはキラを捕まえたい。だから、その前にキラに殺
されるわけにはいかないんです。」

 彼女の真っ直ぐな視線に、担任はたじろぐ。ここまで思いつめている彼女に、何を言えば
いいのだろうか。校則だといって無理やり布をはがすことは容易い。だがもしそれで彼女が
殺されてしまったら?

「…わかった。もう、行きなさい。但し顔を隠すのに、あまり奇抜な布は使わないこと。で
きれば無地の物を着用しなさい。」

「ありがとうございます」

 彼女が職員室を出て行くと、担任は深いため息をついて椅子にもたれかかった。


 この次の日より、顔を隠すことは校則によって認められた。ただしあまりに派手なものは
没収対象となる。

 身分証明書の写真が問題となるのは、もう少し先の話だ。





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