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響きの良いテナーの声音。 声を聞くだけでどきん、と心臓が跳ねる。
そどころか頭に思い浮かべるそれだけで例えようのない気持ちになった。 浮き立つような、甘く、それでいて締め付けられるような。
恋をしていた。今にして思えば。
「彼」に 今年の春に出会った。
そして幾つもの死線をくぐり抜けてきた。
暖かい日の光、学園の校舎で。
闇の中、異形のものに囲まれ。
底の見えない彼の不思議な色の瞳。まっすぐに見つめる、その強さ。
惹かれたのは優しさ、強さ・・・いや総て。
1999年。
運命、因果律・・・人知を越えた絆により「彼」そして仲間は東京で出会った。
運命の中心に存在する「彼」。皆が彼に惹かれた。
否、引かれるのは必然であった 。
彼は「護り手」。この地の、人の、命の、未来の。
やがて 未だ18才のその身体にそれらは託された。
だが彼はそれに押しつぶされることはなかった。彼の本質が選ばれた存在であったからなのか、 それともその立場から作り上げられたものなのかは、今持って解らない。
そして、初めから最後まで、彼は何も無くすつもりはないと言い、やり遂げた。
人を超えた力を持つことを定められ、 そしてそれでも「人」であろうとした彼。
誇らしさと、それにどこか寂しさと、憐憫。
上野での最後の戦。
彼は彼であり、しかし胎内に彼でない存在を宿していた。
神が本質なのか人が本質であるのか。2つの存在がそこで相対する。
カオスに宿ったあれは、本当に黄龍であったのか?
その問いは今も謎のままだ。同時にそれは彼にも当てはまる疑問でもあったが。
彼「等」の 本質をその「中のなにか」に感じることもあった。
双方死力を尽くした戦いだった。相手の手数が多い分、このままではジリ貧になる。
仲間には負傷者もいる。焦りが広がっていった。
その時彼が言った。自分が何とか出来るかもしれない、と。
有無を言わせない提案だった。
彼なら何とか出来るのではないかという希望を元に、皆はそれに従った。吹き上がる瘴気の中彼は仲間に背を向け、それに立ち向かう。
華奢というわけではないが、細い背。歩き出して、一度だけ振り向いた。
穏やかに微笑む彼が居た。ともすれば場違いなほどに。
険しい眉根の皺が消える。
瞳が優しく眇められる。
「---------------。」
彼の唇が小さく微笑みながら動いた。
何事かを小さく囁いたようだった。その言葉は吹き荒ぶ瘴気にかき消えた。
口に出したそれだけで、彼は満足したのかもしれない。何を言ったのかと聞き返したが彼は笑うと、彼は巨大な存在へと歩き出した。 溢れる「気」が視覚で確認できるほどに強まる。黄金よりも尚眩いの輝きが彼の内側から溢れ出す。
彼の身体に宿る、人でない存在。 姿形は未だ人であるけれど、中身の全く違う「存在」が降りる。
汚れない、神々しく、気高く、美しい・・・黄龍。
命を賭した戦いの最中であるのに奇妙に満たされたような気持ちになり、その光を浴びる。 痛いほどに視界をその黄金が焼き尽くした。
自分の存在の意味を知りだれより「人」で有りたかった彼。
運命はだが、彼を人であることを許さなかった。
そして、「緋勇龍麻」という存在は消滅する。
1999年冬。
東京はまるで何事もなかったかのように春を迎えた。
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イマイチバッドエンドな(笑)現在の魔人の主人公像ってこんな感じです。一応京主で(笑)誰でも良いような文章になってしまいましたが(苦)。
それにしても旧サイトのあった文章が消えたのが痛すぎですね…がんばって書かねば。