traces 01
その屋形にはもう鬼しか住んではいなかった。
人とも動物とも違う怖気を伴う断末魔の叫びが響いた。
目の前にある、それは有ってはならぬ存在。
「九角」
龍麻は足元に転がったそれを見下ろした。
どういう作用なのかは解らない。だが化物と化した姿形は僅かながら、人の姿へと戻りつつあった。
せめて最期だけは人の姿で果てさせようというのは、それはなんの意志の皮肉か、それとも同情か。
醜くひきつれた肌、若い男の面が浮かんだ。九角天童、と呼ばれた男だ。
鬼の姿であったときの獣の瞳はもうそこにはない。死を前にしたヒトの目がそこにはあった。
床に横たわる半人のもと、龍麻はそこへ膝をついた。
戦った仲間は傷の手当てを外でしている。一人軽傷だった龍麻がその輪から抜け出し、此処へ来た。
何故かは自信にも解っては居なかった。解らない。けれど、ここへ来なければならない気がした。
上から天童の顔をのぞき込んだ。死の影が濃い。だが。気だけが逸る。喉元にまで言葉が出かかっているのに、何を言いたいのかが…思いだせない。
何かを、伝えたかった、はず、なのに。
沈黙を破ったのはかすれた天童の声だった。
「なぜ…ここに、いる、…否…俺は…?」
小さな混乱をしているようだ。彼自身もそれを意外に感じている。
咳き込むと鬼とヒトの混じった色の血液が口元から溢れた。
「九、角」
何故だろう。さっきまで同じ場所で、命の奪い合いをしていたはずなのに。
龍麻は九角の膝の上に載せるように、上半身を支える。呼吸を楽にするかのように。
そんな自分自身の変化にとまどっている。龍麻も、そして九角も。
互いにそれを感じたのかも知れない。非道くもどかしい。
目の前で死にゆく男に。
自分を置いて生きていく男に。
伝えたかった、はず、なのに。
(続きますー)
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捏造でーす…余りに昔のことなので剣風帖の九角のラストのシチュエーションが思い出せず(苦)こ、こんなんでした…よね?
っていうか、龍斗>龍麻 のように 天戒>天童 っていう図式でいいんでしょうか(汗)柳生さんが介入して別人って事はないですよね?基本的には転生した存在でオッケーです…よね?(超心配)