コイビトハアクマ。

「・・・」

緋勇龍麻は、その時黙った。
週も半ばのある日、夜も更けた頃、龍麻の携帯が鳴った。
液晶ディスプレイには「蓬莱寺京一」の表示。
一応「彼氏」と「認めてあげて」いる、その相手からの電話は龍麻の鼓動を高鳴らせた。
「京一?」
好きな相手からの電話が嬉しくないはずもなく、通話ボタンを押す。
そして当の相手の声は、心なしか嬉しそうな響きを孕んでいた。

要は「今からお前の家に行っていいか」という内容の電話だった。
いつもは電話などせずにいきなり来るくせに。今日に限ってどういう風の吹き回しだろう。
(それに、来ると・・・その・・・大抵・・・・・・やってるし・・・)
ふと頭を過ぎって龍麻は一人で赤面する。

嫌いというわけではないのだ。背中を預けられる、互いにきっと唯一の人間だし、お互い惹かれ合っている事も確か。
告白して、されて、罪悪感と共に驚いたけど、同時に正直、嬉しかった。
付き合うって行ってもそれから劇的に人間関係が変わる訳じゃない。いつも通りの日常が繰り返されるだけ。
だた互いを思う心に、何気ない仕草に確かな理由が付くだけ。
お互い周囲をちょっと気にしながら時たま手を繋いだり、もう少し少ない回数抱き合ったり・・・キスは片手で数えるほど。

・・・だと思っていた 初めは。
男同士が付き合うってこういうものか、と思っていたのはどうやら龍麻だけのようで。

いっぺん押し倒されたら、後は・・・早かった。

(平日は勘弁しろと言っているのに・・・)
まさか「それ」だけのために来たとでも言うのだろうか。
家に来れば、来た回数は最低やっていると思う。まぁ流される自分も自分だなんていうツッコミを頭の片隅に追いやって。

間もなくインターホンが鳴る。
どうやら京一はマンションのすぐ近くから電話をしていたようだ。
「はい」
「あ、ひーちゃん オレ!」
「今 玄関開けるな」
早まる鼓動を意識しながら龍麻は玄関の扉を開ける。

扉の向こうには京一が立っている。・・・妙にニヤニヤしながら。
そして不自然なまでにニットの帽子を深くかぶって。

「で、なんだよ」
とりあえず居間に上げる。
マンションは元々叔父夫婦と共に住むことを考えて買ったもので、ワンルームではない。
比較的経済的に余裕のある家庭だったから間取りもかなり広く取ってある。
京一は慣れた動作で床に座る、そのまえに缶コーヒーを一本ごん、と置く。
あー・・・手抜き などと京一が文句を言うところ、先を促した。
(まさかやるためだけに来たんじゃなかろうな)

「そうそう、見て欲しいモンがあんだよ」
京一は帽子を外そうとしない。ます不自然なところから攻めた。
「なんだ、頭でも丸めたか?」
きっと外れ、帽子から京一の自称地毛の赤茶の髪の毛がはみ出ている。
「ブッブー」
子供のような言い方で楽しそうに京一が言う。他に京一に変わった所は見受けられない。
(木刀が新しくなったのか?)
考え込むっ龍麻にしかし、京一はなんと、おもむろに・・・服を脱ぎ始めた。

「きょ、京一?!」
そんな突然!と慌てる龍麻を前に京一は上衣を脱ぐ。
「ひーちゃん、みてみて」
といいつつ京一は龍麻の手を取り、自分の躰の背中側に回させる。
「?」
そして促された先にあったその何か。
背中には本来無い感触。
ちょうどコンピュータのコードを一回り太くしたようなみたいな太さで、長い、何か。しかも生暖かいし、びょんびょん動く。
・・・本来そんな器官は本来人間にはない。
「・・・なに、コレ・・・?」
ちょうど龍麻の体は京一に抱き寄せられるような格好で。
とにかく京一の背中にある生き物系の物体Xを掴んでいる。
「へっへー・・・」
京一が一層得意気に笑った。そして今まで不自然にかぶり続けていた帽子を一気に取る。
初めはなんだか気付かなかった。が。
「なに・・・??」
帽子は京一の耳を隠すためにあった。
本来あるべき形と違う形。・・・まるで絵本の妖精みたいに先が尖って、長い。
次いで京一が笑う。歯を見せるとその歯・・・犬歯が以上に大きい。
「おまえ・・・それ・・・」
龍麻は京一の背中のコード状の物体を恐る恐る引き寄せる。
手にはつやつやしている、まるで爬虫類の表面みたいな暗色の・・・・・・・・・・・・・・・・・

「オレ、悪魔になっちゃったv」

かかか、と笑って京一は龍麻を見る。思えば光彩の形もおかしい。
「裏密にさー 一服盛られちゃってサー」
「え・・・?」
「だからぁ、裏密に一服盛られちゃって、こんなんなっちゃったんだよ でもおもしろいからさ
ついついひーちゃんに見て欲しいな、と」

どうやら変わったのは京一の外見だけのようだ。龍麻は少し平静を取り戻したようで、一つ溜息をついた。
裏密にと言う時点でそこに悪意はないのだ。こんな事に慣れてしまう自分も自分だが、ともあれ深刻な事態ではなさそうだ。
「・・・なんだよ・・驚かすなよ・・・」
てっきり旧校舎でやられたのかと思ってしまった。
「ま、効果は明日の朝までらしいからよ でも家にいて見られてもマズイじゃん?」

「・・・なるほどね」
その為に京一は家に来たのか、と龍麻は納得した。
龍麻はこう言うことがある意味日常的に見慣れてしまっているうえに、一人暮らし。
「でもなーなんつってもオレ逢いたかったしー!」
京一が龍麻を抱き寄せる。その京一の素肌の感触に龍麻は硬直する。
「最近・・・避けてない?オレがここに来るの」
耳元でおかしそうに京一が囁く。
龍麻の外耳に言葉は吐息と共に囁かれ、思わずひくり、と龍麻の体が反応してしまう。
「だっ だってそれは! お前来るたびに」
その先を言おうとして、龍麻が更に赤面する。
「だってぇ、 オレら恋人どうしじゃーん?」
龍麻の頬を京一の爪が掠める・・・それは黒い艶やかで、そして長い。
「・・・!」
「いったろ、悪魔だってー」
そして龍麻の顎を支え、軽く唇を重ねる。
「オレ 龍麻のこと好きだしー、愛してるからさーぁ、」
「きょう、いち・・・! ちょっと!」
京一の手が龍麻のシャツのボタンに掛かる。
「毎日でも逢いたいしー やりたいわけv」
「ん・・・・・・っ!」
いつもよりもかなり強引に、そして深く口腔を探られる。

「・・・!」
まずい。
龍麻は瞬間に悟った。
下手な方だとは思っていないが、今のは・・・上手すぎる。
お互いに追い上げる余裕もない。
知らないうちに京一の手が龍麻の服を剥がしに掛かる。
思わずその腕を放そうとするが強引にねじ伏せられた。
「や・・・」
「やじゃないだろ」
「だって・・・ちょ、っと」
たくし上げられたシャツの中に京一の手が滑り込む。
その手が当たり前のように龍麻の体に火を付けて行く。
「ひーちゃん、俺のこと、嫌い?」
光彩が縦長な瞳で見つめられる。これが確信犯だと言うことは百も承知なのに。
答えなんて、もう。
「なんでそんなこと・・・聞くんだよ・・・」
龍麻からは掠れた声しか出ない。京一が少し強くそこを摘む度に微かに体が戦慄く。
答えなんて。
「もう、俺のこと、イヤ?」
耳元で囁かれる。
「ずるいよ、お前・・・俺が・・・」

目一杯に追いつめられる。
京一は答えを知っていてわざと聞いている事も、そして龍麻の答えうる答えがたった一つだと言うことも。
その上で京一は聞いている。ただ龍麻を追い立て、追いつめるために。
普段からその手のからかいは良くやってはいたが、ここまで執拗に追いつめるような質問はしたことがなかった。
これは本来の京一のものなのか、それともその「薬」とやらの影響なのか。
どちらにせよこれではまるで・・・
くくっ、と喉の奥を鳴らして京一が笑う。普段の声を上げる笑い方とは全く違う笑い方。
いつもの気性がが明るく、そんなことを微塵も感じさせないから、今のこういう笑い方や一つ一つの仕草が、恐怖すら感じさせる。
これはまるで・・・
本能が近づいてはならないと警告する。
けれど。
けれど・・・
「・・・そォだよなぁ?!」

急に京一が笑いながら大きな声を上げた。
ははは、と字に書いたような。
そして龍麻の腰をぐいと引き寄せる。

京一のその光彩がぎゅんと細くなる。
唇の橋がつり上がり、大きな犬歯が剥かれる。
楽しそうに、悪魔は笑い声をあげながら・・・

「お前が俺のこと、嫌いなわけ、ねぇもんなァ?!」

「・・・ッ!」
またニィ、と京一の笑いが深くなった。いつもの彼の笑顔ではない。
まるでそれは獲物を捕まえていたぶる前の獣の表情だ。

「黙ってないで何とか言えよ 龍麻ァ?」
延びた爪、指で顎をくいと持ち上げられる。
「・・・・!」
大きく首を振ってそれから逃れる。
けれど決して京一自身の束縛から逃げることをしない龍麻に京一は声を上げて笑う。
タガが外れたように。

「・・・好きなんだよなァ?! なぁ、龍麻ァ? お前俺に惚れてるもんなァ?!
・・・逃げるはずなんて、ねーよなぁ?!!」


「だって・・・逃げたくない・・・好きなんだもんな!、お前はよ!」

 
「やめろ・・・っきょ・・・ちッ」
「真実だろ?!」
「違う・・・!俺は」
「教えてやろうか お前は俺のことが好きなんだ、俺無しじゃ駄目なんだよ」
「きょ・・・」

「俺が欲しいだろ? 俺にキスされたいって思ってる、俺に抱きしめられたいって。
俺に触って欲しいって」
「京一!やめてくれ!」

「この年のオトコなら「ハケグチ」くれーあんだろーよ、・・・思ってんだろ?俺に抱いて欲しいって
オレのカラダが欲しいんだろ? ・・・なァ・・・一人で居るときとかってやっぱオレを「使って」んの?」
「やめてくれっ!」

「嘘つくなよ お前ヤってる時すげーイイって顔してるクセに」
「や・・・・だ・・・!」

「お前はオレに抱かれたいんだよ・・・そして」
「や・・・・!」

「いつだって」
「いやだ!京一!」

「オレにカラダ犯して欲しーんだろ」

耳を塞ぐ。
しかし京一の両手がそれを許さずに、床に縫いつけた。
「こうされたいんだろ?」
「ちが・・・」
「嘘つくなよ だって・・・」
捲り上げられたシャツから見える乳首を京一が舐め上げる。

「・・・ァ・・・  ・・・ンっ」
龍麻がひくんと体を撓らせ、小さな声を上げる。その声は否定ではなく明らかに愉悦の色を含んでいた。
「嘘吐きだなァ? そんな声出してさ 感じてるじゃん。」
「・・・!」
「気持ちイイって、声出してみろよ」
微妙な感覚で京一の指が龍麻の肌を滑り、しつこく口で龍麻の赤い其処を嬲る。
「・・・んッ・・・は・・・ぅ・・・」
「イイカラダしてんよ、お前」
京一が唾液に光る其処に軽く歯をたてる。
「あ・・・ンっ」
「こうしてさ」
「きょ・・・」
「こうして欲しいんだよなァ・・・?」
京一の手が龍麻の下肢に伸びる。
「きょう・・・ちぃ・・・」
龍麻の唇から濡れた吐息が漏れる。否定の言葉でもそれは意味を為しては居ない。
京一の顔が龍麻の其処へ埋まる。
「あ・・・ッ あっ・・あっ・・・っ・・・ん・・・」
含まれ、舌で舐られる感覚に龍麻は耐えきれずに声を上げ出す。
普段されたことなどあまりないその行為が龍麻の羞恥心を煽りまた、京一の行為をエスカレートさせてゆく。
「ホラ・・素直になればいいんだよ、初めからさ・・・」
「いち・・・っ・・・ ・・・るっ!」
やがて限界が来たのか、大きく龍麻の体が体が反り返る。
「なんだ?龍麻・・・」
京一がそこから顔を上げる。相変わらずの笑みを浮かべながら。
「も・・・だ め・・・・ ・・・、くっ」
悲鳴ともつかない嬌声で龍麻は訴える。

上気した頬に京一は唇を押し当てて、笑みを深くした。口端を持ち上げ崩れる容貌はまさに悪魔そのもので。
そして龍麻の耳元、小声でささやく。

「愛してるぜ 龍麻」

いつもとは全く違うその行為、なのに。

猫が追いつめたネズミをそうするように嬲りながら、なぜ京一は愛をささやくのだろう。

答えなんてもうとっくに出ているのに。
それしか無いことも知っているのに。

ああ、なんて・・・

頭の底が痺れる。

なんて、お前は・・・

噛み締めたせいか余計に赤みを増し、湿った唇で龍麻が言葉を紡ぐ。
「なんで・・・?」

お前は俺を貶めて・・・そして愛してると言うのだろう。

それに京一はすぅ、と目を細める。同時に縦長の瞳孔がきゅっと細くなるのが判った。
京一は其処を聞いて欲しかったんだというような口振りで。

「それが、悪魔だろ?」

破裂するような高笑いを京一はした。
同時に京一から焼き付くような快感を与えられた龍麻は一際甲高い嬌声を上げ、床に崩れ落ちた。


「悪かったって言ってんじゃん・・・」
「うるせーよ このエロオヤジが」
「・・・ちょっと気持ちよさそうだったじゃん・・・でも・・・」
「別れる」
「ま・・・なんでそー結論を急ぐんだよ!」
「サイテー あんなことまでするとは思わなかった お前」
「だからァー! それはー!」
「変態」
龍麻は枕に顔を埋め、背中側にいる京一の脛を踵で思い切り蹴る。
「いで!あにすんだよ!」
「俺はもっと痛てーんだよ  この変態オヤジ」
「・・・」
京一がしばらく黙ったので龍麻はそのまま放っておくことにした・・・が

「ナニしてんだよ!」
京一が無言で龍麻の体に腕を回してきた。
「もいっかい」
「お前脳味噌耳から漏れてんじゃねーのか! 変態!」
「変態で喜んでるんじゃ、お前だって変態じゃんか」
「ば・・・っ! 」

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書き直すと主様がものすごい攻め攻めしい男前になりそうだな…。