狼煙(2002/11/24)
マリーナ・フラジャイル[女戦士]、エース・ランナウェイ[男盗賊]、セラフィナ・ノートン[女神官]、アーシア[女神官]、ウーモン・カンダール[男騎士]
隣街ハーパノースとの交戦が決まり、一同はみな自らの仕事に精を出した。マリーナはヴァンの指導と己の技量向上に励み、エースはハーパノースに潜んで
様子を伺い続けた。セラフィナは自室に籠もって魔術の勉強を重ね、アーシアは貧民街を巡って重病人を癒す事に心血を注いだ。
流浪の南方人小紹はあれ以来公の場には出て来ずに、貧民街の一角でひっそりと暮らしているようだった。
アーシアは貧民街を巡る中で、小紹に呼び止められた。小紹はアーシアが貴族の出自かどうかを訪ねたかったのだった。
思わぬ問い掛けに戸惑うアーシアに向かい、小紹は、彼女が取った行動が、今まで街の為に貢献してこなかった(或いは出来なかった)人々に、『癒し』という
恩を与えることによって、今まで街の復興の為に尽力してきた人々をより生き残らせるために戦場という死地へ赴かざるを得ない状況を強いたのだと思っている事を告げた。
そんな事をつゆほども考えていなかったアーシアは、自分の行動がそんなにも非情な動機に基づいているように見える事に衝撃を受けた。
衝撃の冷めやらぬ彼女に向かい小紹は、ヴァンの助けになって欲しいと頼み込んだ。これから赴く戦争や、政治の本質を知るにつれ、厳しい現実にヴァンが傷付いた時に
彼を救って欲しいと頼んだのである。
いずれ『クリムゾン・ヘルカイト』へ戻るつもりのアーシアは、ウーモンの元にいる限り、との条件を付けてその願いを聞き入れた。
ハーパノースでは、下流にある都市との交易へ出立する商船団の出航式典が執り行われていた。その翌日には、カランダへの軍が出立するのだと言う。
エースは翌日の出陣に注意を払っていたため、この出航式典の仰々しさに隠れて出立した、斥候部隊の存在に気付かなかった。
この斥候部隊は、本隊より先行してカランダの状況を探り、最も良い状況で戦に臨めるようにと放たれたものだった。彼らはカランダへ到着し、既にウーモンが兵を率いて帰還していることを
知ると、大慌てでハーパノースへと連絡を飛ばした。
出航式典の翌日には、騎士に率いられた部隊がカランダへ向けて出立した。エースはその状況を自分なりにまとめると、子分であるゴブリンのチビに命じて、その情報をカランダへ送りだした。
しかし、二日の後、ハーパノースより増援部隊が出立する。勿論、先の斥候部隊のもたらした情報によるものである。これを怪しんだエースはその後をつけて本隊との合流を見届けた。
増強された兵団を見て、エースは大急ぎでカランダへ向かった。
一方、カランダの領主であるウーモンの元には、アッパーホースより不吉な知らせが届いていた。
噴火の予兆か否か、鉱山で湯が沸き出したと言うのである。
ウーモンは不安に戦く伝令の騎士を宥め、ハーパノースとの一件が片づいたら即日戻る旨を告げて使者を帰らせた。
しかし、その夜には更に悪い知らせが届けられたのである。
その届けをもたらしたのは、アッパーホースに残っていたクリムゾン・ヘルカイトの魔導師ロアーであった。ロアーは、ウーモンの二人の娘と一人の息子が、山に現れたトロール退治へ
出掛けて怪我を負ったと伝えた。そして昼に騎士が届けてきた知らせにも関わる一連の状況がロアーの口から事細かに語られたのだった。
数日前からアッパーホースでは、異変が続いていた。
まず、山に住んでいる樵が一人物狂いになり、引き続いて山で獣が捕れなくなったとの訴えが寄せられた。そして、湯の噴出騒ぎである。
アッパーホースに住む者達は、みな一様にこれらは近々噴火がある予兆に違いないと考えていたが、ロアーの考えは違っていた。
幾ばくかの悪魔学を身に着けているロアーは、樵の発狂の症状が悪魔憑きの症例のひとつに近く、またその可能性が強い事を根拠に、これらの騒ぎが噴火ではなく、以前襲撃してきた悪魔の
影響もしくは何らかの罠であると推察していた。しかし、悪魔の詳しい知識などないアッパーホースに住む者達は、ロアーの言葉を素直に信じる事が出来なかったのだ。
街中に不安の広まる中、ウーモンの一人息子のリョーマは、領主の跡継ぎとしての義務感に駆られ、鉱夫達が崇める山の神に直接に訴え掛けることを決め、坑道へと赴いた。
この時、居合わせた者の言葉によれば、リョーマは神族の一人を呼び出す事に成功し、この街の庇護を求めたらしい。しかし、その神族はリョーマの訴えを退け、立ち去ったのだと言う。
その翌日、山で獲物が捕れなくなったトロールが街のそばに出没し、神族を説得し損なったリョーマと二人の姉は揃ってこのトロール退治へと勝手に出掛けてしまったのだ。
子供達の不在に気付いたロアーと報せを受けた有志らが駆け付けた時には、三人ともに手傷を負い、危ないところだったのだと言う。
からくも誰一人として損なうことなくトロールを仕留める事はできたが、領主の不在中にその家族に怪我をさせた不手際を詫びるため、ロアーは取り急ぎ駆け付けたのだった。
ウーモンは、アッパーホースを襲っている異変が、悪魔の仕業か自然の猛威なのか、はっきりとした事が判るまでは行動を控え警戒を怠らぬように指示を下し、悪魔の痕跡を見出せるか否か
試すように告げた。
ロアーはこの他にも、ヘルハンの様子を探りに行っていたウィンドが帰ってきている事を告げ、その内容を伝えようとしたが、ウーモンは目前のハーパノースとの戦が先であることを理由に、
ロアーを街へ帰らせた。
ヴァンを鍛えているマリーナの元には、更なる弟子が押し掛けてきていた。ヴァンの友人二人が、自分も戦士になりたいと頼み込んできたのである。
マリーナは戦士になるのは簡単な事ではないと釘を刺した後に、二人を受け入れたのだった。
また、小紹の言葉に戸惑いを感じながらも、ひたすらに救いの手を差し伸べ続けていたアーシアの元にも、共に働きたいと願い出た少女が訪れていた。アーシアは少女を歓迎し、
共に働き続けるのであった。
カランダへ到着したエースは、ハーパノース軍が近付いてきている事、そしてその規模をウーモンに報告したが、その内容もまたウーモンにとっては不足していた。
およそあと三日でハーパノース軍が到着する事を知ったウーモンは、野戦にて決着を着けることを述べ、街から一日の地点に兵を展開して待ち受ける事を決めた。
迫るハーパノース軍を迎え撃つために、夜を徹して柵と壕が張り巡らされる。そして、ウーモンは全ての歩兵をマリーナに預け、任せたのであった。
そして、いよいよ両軍が接触し、戦端が開かれた。
元よりこの地には、ウーモンが編み出したような騎兵戦術は存在していなかった。騎乗して戦うのは騎士だけであり、そして騎士はあくまでも将であって、部隊を構成する兵としては考えられていなかった。
その常識を、ウーモン・カンダールはこの瞬間に覆したのである。
ウーモン率いる騎兵の突撃に、ハーパノース軍は文字通りに引き裂かれた。混乱するハーパノース軍は、空しくも騎兵の後を追おうとするが、歩兵が騎兵に追い付ける筈もない。
騎兵の一団を無視して歩兵と歩兵の戦闘へ持ち込もうとするハーパノースの将であったが、ウーモンはその将を見逃すつもりは毛頭なかった。
騎兵の突撃で、将の率いる部隊は切れ切れにされ、命からがら敵将は単騎で逃走を図って姿を眩ました。
総大将を失い、指揮する者の居なくなったハーパノース軍は、当初の命令通りにカランダの歩兵隊へ向かって行ったが、その士気は極めて低いものだった。
そんな中、カランダの街近くでは、ハーパノース軍の特殊工作部隊が、作戦の失敗を知って引き上げに入るところであった。
彼らは、カランダが籠城するものと想定し、密かに内部に潜入し、内側から都市の門を開放する任務を追っていたのである。彼らのこの作戦は、ウーモンが野戦を選んだ時に
既に無用のものとなっていたのだ。
部隊の指揮官はハーパノースへ引き上げる指示を下したが、この中の二名が異論を唱えていた。
一か八か、カランダの指揮官であるウーモンを襲って首級を上げてしまえば、ハーパノースの勝利であると、彼らは主張した。言い出したら退くことのない二人の性格を
知っている指揮官は、その二人が部隊を外れて行動する許可を与え、一足先にハーパノースへと引き上げていった。
許可を得た二人は、早速行動に踏み切った。
転移の魔術によって、戦場のど真ん中に現れた騎士が、突出していたウーモンただ一人を狙って襲い掛かったのである。しかもその走りは野生馬にも匹敵するほどのスピードを誇っている。
その顔は戦化粧で青く塗られ、頬には黄色い嵐のルーンが浮かんでいた。瞳には狂気にも近い異様な光を宿し、甲冑を着ているとも思えないほどの軽やかさで宙を舞った。
ウーモンはこの狂気の騎士の一撃に耐え、入れ替わるようにハルバードの一閃を見舞う。しかしその一撃は、何処からとも無く飛来した3本のダガーによって阻まれた。まるで生き物のように
宙を舞うそのダガーは、ウーモンの機先を制してその動きを止め、騎士の命を救ったのである。
ウーモンはひとまず自らが率いている騎兵の元へと戻り、数でもってこの騎士を押しつつもうと考えたが、その騎士はウーモンの後を追わずに歩兵の戦いの混乱の中へと退いて行った。
先程ウーモンを阻んだ不思議なダガーもまた、騎士の持ち物であったらしく、騎士共々姿を消した。
ウーモンの前から退散した騎士は戦場を掛け、歩兵を預けられているマリーナの前へ姿を現した。
騎士は遠く離れた間合いから、別の騎士と斬り合っているマリーナに向かって剣を振り下ろした。すると、その男の周辺で恐るべき風が渦を巻き、真空の刃となってマリーナへ襲い掛かったのである。
その風の刃はマリーナだけではなく、ハーパノースの騎士にも襲い掛かり、彼の騎馬を斬り殺し、マリーナに深手を負わせた。
狂気の騎士の攻撃はそれだけに留まらなかった。続いて同じ戦場にいたセラフィナにも同じように斬り掛かったのである。
セラフィナは、その騎士の頬に浮かぶ嵐のルーンから、風の主神たるスークの技であると判断し、風に勝る炎の技を持ってその風の刃を退けた。
技を弾かれた騎士は、そのまま疾風の如き素早さで戦場を駆け抜け、姿を消した。
その頃になると、戦闘はやや静まり始めていた。ウーモンはハーパノース軍に対してカランダの圧倒的優位を宣言して投降を呼び掛ける。
既に浮き足立っていたハーパノース軍はこの一声で瓦解し、一斉に敗走し始めた。また、先程の騎士の乱入や、ウーモンの采配ぶり、騎兵戦術という新しい概念などに
打ちのめされていた幾任かの騎士は呼び掛けに応えてカランダへ投降したのであった。
to be continue
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