贄(2003/02/02)
マリーナ・フラジャイル[女戦士]、エース・ランナウェイ[男盗賊]、アービン・ファロット[男魔術師]、セラフィナ・ノートン[女神官]、ウーモン・カンダール[男騎士]
ハーパノースとの戦闘に勝利したウーモンは、アッパーホースで起きた異変を収めるべく、早々に帰路に着いた。しかし、帰り着いてみると、街は一応の落ち着きとを取り戻している。
息子であるリョーマが、再び火山の神ロロディルを呼び出し、その庇護を得る事に成功したと言うのである。息子に問い質してみると、その通りだと応え、また居合わせた鉱夫らの証言もそれを裏付けた。
当初、火山神ロロディルは、リョーマに『護るに値する街であることを証明せよ』と告げて去ったのだが、トロール退治の一件から戻ったリョーマが再び訴え掛けた時にはその願いを聞き届け、
『今後、リョーマ・カンダールがその信念を心に留め、この街に留まる限り、この街が噴火の被害に遭うことはない』と確約して去ったと言う。
また、森で起きていた、獲物の減少や樵の発狂などの原因は、ロアーが危険を冒して森を巡り、以前にアーシアが埋めていた悪魔の死骸を発見してこれを取り除くことで排除した。その際に
著しく体調を崩し、彼は病に伏せることとなったが、アッパーホースの異変はこうして食い止められたのだった。
ウーモンは、以前ウィンドが持ち帰り、先延ばしになっていたヘルハンの情報を聞く。それによると、ヘルハンからは兵が退却を始めており、代わりにアンデッドが衛兵代わりにうろつき始めていると言う。
しかも、城塞の修繕も行う様子がなく、侵入するつもりなら幾らでも入る事が可能だとウィンドは見ていた。ラヴがこの城塞から連れ出されたような形跡はなく、未だ幽閉されているのは確かだった。
しかし、近隣の住人の話の中に気になる話があったとウィンドは告げた。
今月の末にはヘルハンに近付くな、と言うのである。
ヘルハンには《魔王》ザラダンの配下である死霊術師が住んでいて、死霊術の研究をしていると言われている。そして、今月末は神話の上で《死》の神クルシュが《時》を殺してこの世界に『死』の運命を
ばらまいた日とされているのである。死霊術の儀式には最も最適な日であり、実際この日の前後にはヘルハン近くで行方不明になる者が多くなるのだと言う。
ウーモンは同盟者である『クリムゾン・ヘルカイト』の為に、ヘルハンへ強襲を掛けることを決めた。
マリーナやエースを始めとする、『クリムゾン・ヘルカイト』に関わりのあった者達もその作戦に加わり、一行は慌ただしくアッパーホースの街を出立した。
曰くのある今月の末日までにヘルハンへ到着するには、強行軍で進む以外ない。しかし、カランダの近郊へさしかかったとき、カランダからの使者と行き会う事になった。
カランダからの使者が携えていたのは、現在カランダの街に先日交戦したハーパノースからの使節団が来ている、と言う知らせであった。
ウーモンは残りをヘルハンへ先行させ一人カランダへ向かった。
カランダを訪れていたのは、ハーパノースの領主ジリガン・キュルキワースの次女で同領地の正騎士であるエリーゼ・キュルキワースを代表とした使節団で、先日の出兵は、カランダに不法に逗留している
賊を討伐するためであったことと、交戦が誤解に端を発していたこと、そしてその非礼を詫びる書状を携えて来ていた。
また、エリーゼは人質としてカランダに居残る旨を告げたが、ウーモンはそれには取り合わずにハーパノースに帰る許可を与え、また逗留するも自由との返答を返した。
エリーゼはハーパノースの誠意を見せる為に一週間ほど逗留させてもらう事を告げ、補佐として同行している騎士と魔導師をウーモンに紹介した。
ウーモンにはその騎士の方を見知っていた。ヴォルフィン・アイリスと言う名のその騎士は、間違いなく先日の戦闘の最中に突如として乱入してきた青い戦化粧の騎士であった。
漠然と不安めいたものを感じるウーモンだったが、彼はその会見の後に、先行させた隊を追ってヘルハンへ向かうのだった。
ヘルハンへ到着したのは、期限である末日の前日だった。
ウィンドがもたらした情報通り、兵の気配はなかった。人が住んでいるらしい尖塔の扉は、二体のスケルトンが見張っていたが、誰かが近付くまで反応することもなかった。
一行は尖塔へ押し入り、内部を探索した。
エースを始めとする元『クリムゾン・ヘルカイト』の4人は尖塔の上を、ウーモン率いるアッパーホースの騎士たちは尖塔から城塞内へ突入し、それぞれ探索を開始する。
尖塔は、噂通りここに住んでいる死霊術師の住処であるようで、魔術の研究資料や文献が見付かった。そして、最上階まであとひとつと言うところで、四人は異形の鎧武者と遭遇する。
人が着るには不格好な甲冑姿のその武者はかなりの手練れであるようで、やすやすと大剣を振るって襲い掛かってきたが、アービンとセラフィナの魔法の援護によって
辛うじてこれを倒す事に成功する。首を叩き落とされて倒れ伏した鎧武者の中からは不気味な粘液のようなものが溢れ出て、これが化け物の類であったことが明らかになった。
そしていよいよ最上階へ足を踏み入れた四人は、そこでラヴの変わり果てた姿を発見する。無惨に腹を裂かれ息絶えたその姿に一行はショックを受けながらも、その部屋の探索を
開始した。
その部屋には何も遺されてはいなかったが、幾つか奇妙な点が見出された。壁の一面を覆う妖しげなタペストリーから、何かの気配を感じるのである。そして、魔術を使って
物事を探ろうとしたセラフィナの魔法は何故か消散し、タペストリーを調べようとしたアービンの魔法はそのタペストリーが普通の物品であるとの結果を出したのである。しかし、
再びアービンが別の術を用いて部屋を探ろうとすると、タペストリー並びにラヴの遺体に通常は有り得ない反応が認められたのだ。
即ち、“そこには何もない”、と。
“何も異常なものはない”という意味ではなく、この反応は“そこに何の存在もない”と言う事を示していた。魔術による検索では、ラヴの遺体もタペストリーも、ここには存在していないのである。
一方、城塞内を探索していたウーモンらは、地下牢の一番奥に、塗り込められた通路を発見する。
壁を崩してみると、曲がりくねった細い通路が奥へ続いており、行き止まりには何かの呪符で厳重に封印された小さな鉄扉があった。
尖塔の最上階で発見したものを伝える為に下りてきたセラフィナは、この都市に住み着いた死霊術師や、《死》の記念日たる明日のことを考えて、何か該当する伝承や事件が
あったかどうかを思い起こしてみたが、思い当たる節はなかった。
ウーモンは魔術師であるアービンを呼び寄せて、この札が何かを尋ねたが、アービンにもこれが何であるか見当がつかなかった。
やむなく、彼らは札に書かれた紋様を描き写して持って帰ることにした。
その後、一行は手を尽くして何か手がかりになるものは無いかと調べ回ったが、今までに判った以上の事は得られず、魔術書などの文献とラヴの遺体と共に帰路についたのだった。
アッパーホースに戻ってみると、今度は街に来訪者が訪れていた。
火山神ロロディルと契約したリョーマの元に、ロロディルの司祭が来たと言うのである。ロロディルの司祭はリョーマに神学の知識を授けるために来たと言い、実際にリョーマはこの司祭の
教えを学んでいた。
この老司祭ニルダム・ソレンナージャは、リョーマに知識を伝える事を己の使命と信じ切っており、アービンはその態度に何か危ういものを感じ取った。
事実、カランダの復興度合いを見るためにカランダへ行っていたウーモンが暫く経ってアッパーホースへ帰った時も、ニルダムは教義を学ぶ事が第一であり、領主の跡継ぎとして学ばねばならない事柄は
取るに足らぬものと考えている節が見受けられたのだった。
エースはラヴの遺体をロアーの元へ運び込み、事情を説明した。ロアーもまたラヴの死に大きなショックを受ける。
ロアーは、アービンの調べた、“存在しない”という事柄について、それが異世界の悪魔に共通の事由であると応えた。
その時、二人しかいない筈の部屋に、見知らぬ美女が居ることに彼らは気付いた。美女はラヴの死を悼み、彼女が特別な人間であること、そしてそれ故に悲惨な結末を迎えた事を二人に告げた。
一方、その場に居合わせなかったマリーナやアービン、セラフィナは、何か胸騒ぎのようなものを感じてロアーの部屋へ駆け付け、その場に遭遇する。
折しも、二人目の見知らぬ女性が現れたところで、金色に輝く甲冑を纏ったその姿は、最初の美女とよく似た顔立ちをしていた。
神官であるセラフィナは、その二人の姿を見て、それぞれが《美と愛》の女神アスレル、《正義と真実》の女神リーブラであることを即座に悟って驚愕した。神が実際に現れることなど
まず有り得ぬことであったからだ。
女神の話によると、ラヴはアスレルの映し身となるべく定められた子であったらしい。しかし、それ故に狙われて無惨に殺される羽目になったのだと言う。
リーブラは、アスレルの子であるラヴの死に憤り、その場の四人に向かって、ラヴを殺した者へ裁きを下す役目を負うか否かを尋ねた。これに応えたのは、エースとセラフィナであった。
リーブラは加護を与えるに値する実力を身に着けるよう告げ、そうなった時に自分を呼ぶようにと言った。
アスレルは、ラヴと最も親しかったエースに己の加護を与え、復讐の神であるフォーガの加護を求めるか否かを尋ねたが、エースはラヴは『復讐』は望んでいないと思うと
応えてこれを断った。
アスレル、リーブラらの長姉である《幸運と運命》の女神シンドラもまたこの場に現れ、ラヴの死んだ魂が、輪廻の輪や善神の天界、悪神の地界、それら全ての枠を越えて
この世界から完全に外れて失われてしまったことを告げた。神々でさえも、ラヴの魂が何処へいったか見出す事ができないのだ、と。
そして、風の三姉妹とも言われる三女神は去った。
三女神が去った後、不意にその部屋の隅にヘルハンで感じた不気味な気配を感じ、その場の全員が振り返ると、そこには不自然な影がわだかまり、赤く光る目が覗いていたのである。
そして影はまるで耳で聞き取れるかのような思念を発して消え失せた。エースとマリーナはその強烈な思念の陰に、女神達の嘆きを喜ぶ何者かの意志を感じ取ったのだった。
それから1週間ほどした頃、アッパーホースに一通の手紙が届けられた。新しい武具の開発に取り組んでいたウーモンが、早速その手紙を開いてみると、
街道を一月ほど南西へ行ったところにあるウォーラという街の領主からの、鉄鉱石を買いたいとの申し入れであった。
そして、ウーモンはその書簡の署名に見知った名前を発見する。
そこには、彼らと別れ、西へと旅だって行った『クリムゾン・ヘルカイト』のシモンの名が綴られていたのである。
to be continue
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