賽は投げられ……(2003/04/06)
マリーナ・フラジャイル[女戦士]、アービン・ファロット[男魔術師]、セラフィナ・ノートン[女神官]、アーシア[女神官]、ウーモン・カンダール[男騎士]、ファルカス[男騎士]、ディーン・エッジ[男騎士]、ダーム[男間者]、セリーナ・クレセント[女魔導師]
マリーナらがラヴの救出へ向かっていた間、カランダに留まっていたアーシアは、その間に街を訪れていた隣国ハーパノースの使節団に頼み込み、ハーパノースを訪問したい旨を告げた。
常日頃から、別の土地を訪れ、見聞を広めたいを考えていたアーシアにとって、隣国ハーパノースを訪れる絶好の機会に思えたからである。
しかし、使節団の代表であるエリーゼは、アーシアが人質としてハーパノースへ赴くことになると思い、戸惑った。だが、彼女に同行している魔導師ケリスは、使節団は急いで帰らねば成らないことを告げ、
それについて来られるのであれば、ついてくる事を許すと応えた。そして騎士ヴォルフィンは、もしもアーシアが彼らの一団から脱落し、日を遅らせてハーパノースへ入ろうとするならば、
カランダの間諜と見なして斬り捨てる、と彼女を脅した。
アーシアは、その条件を承諾し、彼らと共にハーパノースへ向かう事となった。
ハーパノースの領主ジリガンは、この思わぬ賓客に内心胸をなで下ろしていた。
彼は西から迫っているポートブラックサンドの軍勢に気付いており、彼らがいずれハーパノースを攻め落とすつもりであることを知っていたのである。
それゆえに彼は、後背の守りとして、カランダの街を欲したのであり、その為に兵を送ったのだ。
しかし、思わぬ敗北を喫し、彼は背後の憂いを断つために、信頼している次女のエリーゼを人質として送ったのだが、そのエリーゼが無事に戻り、
その上、カランダの民の信頼の篤い《聖女》が転がり込んできたのである。万一、カランダのウーモンがポートブラックサンドと通じて(あるいは、混乱に乗じて)、ハーパノースへ兵を進めようとしても、
その時には《聖女》の命を楯にする事ができる。ジリガンは、そう考えた。
そして、彼がこう考えるであろう事は、エリーゼもヴォルフィンもケリスの承知の上だった。
こうして、アーシアは、丁重なもてなしを受けながらも、戦時中であることを理由に屋敷に押し込められ、軟禁されたのだった。
一方、《風の三姉妹》たる女神らに邂逅したセラフィナは、神が実際に存在し、力を持っている事を知り、自身の信仰の在り方を考え直す。
そして彼女は独り、神と信仰を求めてアッパーホースから旅立って行った。
アービンは、師であるロアーと、ラヴの遺体と共に、シモンらが居を定めたウォーラへと引き上げた。
修行の旅へ出る事を決めたエースは、ウィンドと共にウォーラへ向かったが、山野を事もなく駆けるウィンドに追い付けなかったのか、ウォーラへは現れなかった。彼が何処へ消えたかは、神のみぞ知る。
そして、ウーモン・カンダールの元へ残ったのは、マリーナ・フラジャイル一人となった。
残ったマリーナに、ウーモンは新兵60人を預け、鍛えるように命じたのだった。
その頃、ウォーラでは、戦の準備が進められていた。
糧食も資材も足りない状況であったが、『ウォーラ』と言う一勢力として、力の程を世に示さなければ、いつまでもポートブラックサンドに対する負い目だけを背負って行かねばならない。
強大なポートブラックサンドの目こぼしを得たような現状を打破する為には、それ以外の道は無いと判断しての決起である。
その一方で、すんなりと彼らの言い分を受け入れたブラックサンドの魔王ハニュールの言動に微かな疑念を抱いていたシモンは、故国カルバーンの現状を知るため、グランパを旅立たせていた。
この件に関し、帰着したばかりのウィンドは、間者である彼を差し置いて一介の盗賊のグランパに任を預けた事に憤りを隠せなかったが、やむを得ない事情である事は承知していた為、
それ以上の追求は無かった。
帰り着いたアービンとロアーを待っていたのは、男達が総じて戦へ出ている間、節約に節約を重ねて街を切り盛りすると言う仕事だった。また、今後のウォーラを統治するための法と、
官吏を育てる事も任せられた。
身体を壊したロアーに代わり、アービンは多くの雑務をこなして街を奔走した。粉骨砕身で働くその姿に、ウォーラの民の信頼は徐々に高まっていった。
進軍を続けるポートブラックサンドの軍勢は、いよいよハーパノースの街へ迫り、領主ジリガンは最も重用している特殊部隊の《闇刃》を繰り出し、ポートブラックサンド軍の後背を脅かしたり、
糧道を断つなどの妨害工作へ出た。これによって、ブラックサンド軍の足並みは乱れ始めた。
この工作を察知したウォーラのシモンは、『クリムゾン・ヘルカイト』の猟兵隊を中心とした精鋭部隊を率い、《闇刃》の主力部隊へ奇襲を掛けた。
ブラックサンド軍の動向は全て掴んでいた《闇刃》であったが、全く眼中に無かったウォーラ軍の参戦に不意を突かれ、この一戦によって長であるヴァイオレットを失う事になる。長を失い、統率の乱れた
《闇刃》をひとまずまとめた副将のローズマリーは、己に忠誠を誓う腹心らを連れ、シモンの元へ下る決意をする。
ブラックサンド軍への妨害工作が困難となった今、ハーパノースには万にひとつの勝ち目も無いと見たのである。
思わぬ寝返りに、シモンはローズマリーをそのまま引き入れ、即座にひとつの作戦を立てる。
ローズマリーをハーパノースへ返し、自分たちがハーパノースを奇襲する際の手引きをさせようと言うのである。
ローズマリーは寝返ったばかりの自分に役目を負わせようとするシモンに半ば呆れたが、シモンは気にも留めなかった。彼は、どのように足掻いてもブラックサンド軍の大兵力の前に
ハーパノースが勝利する事が有り得ない事を指摘し、ハーパノースに義理立てして共に滅ぶか、自分たちの指図通りにして生き残るか、彼女に選択を迫ったのだった。
ロースマリーは選択を下し、ハーパノースへ帰還する。そして、ウォーラ軍と通じて、ある夜に彼らの突入を促した。
ハーパノース内へ雪崩れ込んだウォーラ軍は、領主ジリガンの首級を得んとローズマリーの手引きで領主の居城へと突き進んだ。
ウォーラ軍の手際の良さに、ローズマリーの裏切りを悟った騎士ヴォルフィンは、魔導師ケリスと共に、ウォーラ軍を迎え撃つ為に戦場へ出る。彼ら二人は、《闇刃》の一員として、
ローズマリーの裏切りを贖おうとしたのである。
シモンに率いられて突き進むウォーラ軍の前に現れた騎士ヴォルフィンは、将であるシモンの命を狙って襲い掛かったが、常にシモンに付き従っていたゴブリンの戦士スロウが
これを食い留める。スロウの善戦に怒りを募らせ、我を失ったヴォルフィンは、スロウの思惑通りに足止めを喰らい、ウォーラ軍本隊の進攻を許してしまう。
残る魔導師ケリスが、やむなく魔法による攻撃を試みたが、騎士として魔術の心得のあるシモンは辛くもこれを防ぎきり、逆にケリスの右腕を断ち切って重傷を負わせ、退けた。
この騒ぎに乗じて、ハーパノースで軟禁されていたアーシアは見張りの目を盗んで逃げ出そうとしたが、付き人のハナは、戦いが終わらない内は危険だと言って彼女を押し止めた。
アーシアは、密かに接触した『クリムゾン・ヘルカイト』のメンバーから脱出を促されていたのだが、戦争が終わった後に訪れる悲劇を、身を持ってハナに教える為に居残る事を決めた。
しかし、その必要はなかった。
ウォーラ軍によってジリガンは倒され、残った者が一人でも多く生き延びられるようにと奔走を始めたエリーゼが、二人を逃がしに来たのである。
アーシアはこの先エリーゼを待ち受けている運命を思って、後ろ髪を引かれるような思いをしながら、戦禍に見舞われた夜のハーパノースを脱出したのであった。
程なくして、クリムゾンの報せを受けて進軍を開始したブラックサンド軍によってハーパノースは制圧され、領主であったキュルキワース家に連なる者は全て処刑された。
アーシアの予見通り、エリーゼ・キュルキワースもその生涯を終え、ハーパノースはポートブラックサンドのものとなったのである。
このハーパノース陥落の報は、思わぬ人物からカランダへともたらされた。
以前、ハーパノースの正式の使節団の一員としてカランダへ滞在していた騎士ヴォルフィンが魔導師ケリスを伴って門前へ現れ、保護を求めてきたのである。
満身創痍の二人に、ヴァンはひとまず彼らを迎え入れる。マリーナは意識不明の重体であるケリスに医師を手配し、警戒の為、兵を町中に配置する。ヴァンは判断を仰ぐ為に
アッパーホースへ急使を飛ばし、ウーモンの返事を待った。
しかしこの夜、見張りの目を掠めてヴォルフィンの姿が消える。自らの失態を償う為、マリーナは自ら捜索に出る。ヴォルフィンがハーパノースへ戻ったと見当をつけた彼女は、
馬を駆ってハーパノースの街へ向かったが、ヴォルフィンの姿を捉える事は出来なかった。彼女は、ハーパノースの街に見慣れぬ黒い旗が掲げられているのを確認し、カランダへ帰還した。
この報せを受けたウーモンは、明確な指示も与えずに使者を追い返し、ヴァンを試す。
そして、カランダへ向かうために手勢を揃えるよう命令を下した。
その時、ウーモンの書斎に単身忍び込んできた男がいた。それは、カランダから姿を消したヴォルフィンであった。彼は、自分たちの処遇を探るため、単身でアッパーホースへ潜入していたのである。
彼は、ウーモンが自分たちの不利になるような裁決を下さなかったため、姿を現したのだった。
ヴォルフィンは、彼ら二人には独自の目的があることと、ウーモンの目的を妨げるようなことはないことを告げ、ケリスの治療が済んだら早々に立ち去らせて貰いたい旨を告げた。
それを承知したウーモンに、ヴォルフィンは奇妙な助言を与えた。
“ウーモンの息子は殺されるだろう”と。
そして、彼はウーモンに対して、それを避けたいか否かを問い質した。当然、応と答え、訳を尋ねようとしたウーモンに、ヴォルフィンは理由を告げずに書斎を去る。
やがて、息子リョーマと、その師ニルダムが日々の殆どを過ごしている坑道近くの祠の方で、騒動が持ち上がった。
ウーモンが駆け付けてみると、ヴォルフィンがニルダムに襲い掛かろうとしており、ニルダムは大量の大地の精霊を呼び起こしてリョーマと自らの身を護ろうとしている所であった。
ウーモンは真偽を問い質す為にニルダムを叩き伏せ、数多くの精霊たちを無理矢理に地へと還す。
ニルダムは自らの正当性をウーモンに訴えたが、彼らに預けた祠が華美に飾られていることや、ニルダムの振る舞いに承知しかねる部分が大いにあった為、ウーモンは争乱を引き起こした罰として
その命を持って罪を贖わせた。
父の言動を理解できないリョーマに、ウーモンは父親ではなく領主として、祠を改めて預け、アッパーホースの神官として自由に采配を振るうように命じたのだった。
ヴォルフィンを伴ってカランダへ到着したウーモンは、ハーパノースがブラックサンド軍に敗れた事を改めて確認し、戦乱の兆候を見逃していた己の迂闊さに密かに歯がみする。
ウーモンはヴォルフィンとケリスの二人に、配下に加わらないかと誘いをかけたが、二人はこれを断る。そこで、ウーモンは二人の保護の見返りとして、彼らの協力を求める。
ケリスはそれを承諾して、巷に数多く存在する傭兵団や私兵団へのつなぎの付け方を伝授し、そして二人はこの街を去っていった。
一方、ポートブラックサンドの騎士であるファルカスとディーン、そして彼ら二人の師にあたるフレアの元に、新たな指令が下されていた。
かつてウォーラで出会った『クリムゾン・ヘルカイト』の首魁シモンが携えていた神剣『レイヴァーティン』により、その存在が明らかとされた赤き神龍を探し出せ、と言うものである。
彼ら三人を援護するため、『無名の闇』の導師であるセリーナにも同じ任務が下される。しかし、彼女には三人には明かされない更に重要な任務も託されていた。
《災厄の子》と呼ばれるファルカスとディーンの監視役である。万一、彼らがポートブラックサンドに対して《災厄》をもたらす予兆があったなら、彼ら二人を抹殺するように、との命令であった。
また、ポートブラックサンド軍の全軍指揮官である《黒龍の騎正》シャーは、ファルカスとディーンを呼び寄せて、自分らが《虚無》という力を持っていることを教えた。
《虚無》とは、この世界に生じた四つの力(地水火風)とひとつの生命(気)に次いで、ごく最近に現れた6番目の力で、最も新しいが故に、既存の神々には見定める事が出来ないのだと言う。
ごく選ばれた者のみがその力を振るう事ができ、その選ばれた者がシャーやファルカス、ディーンなのだと。
そして、シャーは二人に《虚無》の力の使い方を伝授した。
その後、彼らは、探索の為の資金を与えられ、全てを己らの裁量で行うように命じられた。ファルカスとディーンは、以前苦楽を共にした仲間であるダームを雇い入れ、必要な品々を買い揃えた後、
ポートブラックサンドを後に、一路ウォーラへと向かった。
ウォーラは復興しつつあった。
アッパーホースのウーモンが以前より喧伝していた商業援助の政策を受け、アービンが独自の判断で持ち掛けた貿易への資金援助の打診が功を奏し、船を手に入れられた事と、
それに伴う職の提供が、人々をウォーラへ集めていた。
沢山の人がウォーラへ集まっており、人々には活気があった。ダームは街に溶け込んでいる同業者を捜し出し、最近の状況を訪ねた。
それによると、ここには元々盗賊組合があったようなのだが、シモンらが引き起こした内乱の際に潰されてしまい、現在の影の社会では誰も明確な権力を握ってはいないらしかった。
ダームを除く一行は、ブラックサンドの一員として領主シモンを訪ねた。
彼らが用向きを伝えると、シモンはその目的を推測して苦笑する。召喚師として名声の高いブラックサンドの魔王ハニュールが、神龍と聞いて黙って居られなくなったのだろうと、シモンは見当をつけていた。
そして、シモンは彼らの助けにはなれないことを告げた。
《赤神龍》クリムゾン・ヘルカイトは、故国カルバーン王国滅亡から一度たりとも姿を見せておらず、また、神龍に呼び掛けられるのは代々のカルバーン王と、神殿の最高位の巫女だけだと言うのである。
そして、王も巫女も滅亡の際に亡くなった今、《赤神龍》へ呼び掛けられる者は居ないのだと言う。
尤も、神剣『レイヴァーティン』が現存し、生きている以上、その創造主たる《赤神龍》が生きている事は確かだったが、恐らく神界へ帰ってしまったのだろうと、シモンは私見を交えて述べた。
セリーナはシモンに頼んで『レイヴァーティン』を借り受け、その創造主が何処の方向に居るかを魔術で探った。
このセリーナの探知の魔術は東を指し、彼らは手がかりを求めて、既に滅んだカルバーンの地へ向かう事を決めた。
ちょうどこの頃、ハーパノースを脱出したアーシアがウォーラに辿り着いていた。
アーシアは街で働くアービンを認めて声を掛け、未だ『クリムゾン・ヘルカイト』に戻る気は無い事が、暫くウォーラに留まる事を告げた。
アービンは、アーシアの名声によってより一層、民が集まる事を期待して滞在を許可する。
しかし、アーシアに付き従う少女ハナは、懸命にカランダへ戻る事を説得した。より多くの人々に接し、より多くの救済をもたらしたいとの思いが先走るアーシアに対し、
ハナは故郷カランダの状況が気になって仕方がなかったのである。そして、人々を癒し、助けて回るアーシアが、自ら危険な旅へ赴き、戦乱に身を投じようとすることが納得できなったのである。
ハナはアーシアに、街々を救うならば、ひとつを全て助けてから次へ移るべきで、街を転々としていては全てが中途半端で終わってしまうと訴えた。ハナには学はなかったが、
家の掃除を掃除する時には、ひとつの部屋を終わらせてから次の部屋に移るものだとの喩えを出して、拙い言葉でアーシアを説得する。
ハナの真剣な言葉に、アーシアは己の行動を見返して深く考え込み、彼女なりの決断を下す。
こうして、それぞれの賽は投げられた。
そして、《魔王》の賽もまた――
to be continue
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