虚無(2003/06/08)
マリーナ・フラジャイル[女戦士]、アービン・ファロット[男魔術師]、セラフィナ・ノートン[女神官]、ウーモン・カンダール[男騎士]


 マリーナの居るカランダには、来客が相次いだ。
 一人は、一月ほど前にカランダを立ち去った騎士ヴォルフィンを捜しているらしい、嵐神スークの聖職者サフローラ・ゲイズ。
 彼女は、嵐神スークの神託を受け、神剣『ストームブリンガー』をスークの加護を持つ戦士に引き渡すと言う使命を帯びて旅をしている事を明かし、加護持つ戦士の噂をマリーナに尋ねた。 マリーナは、ヴォルフィンの事をサフローラに教え、サフローラはその後を追って更なる旅路へとついた。
 一人は、驚くべき事に、人間ではなかった。
 マリーナは、隣国ハーパノースがポートブラックサンドに敗れてから、定期的にその偵察を繰り返していたのだが、ある時、その帰り道において、ユーマ・トレイラと再会した。
 ユーマ・トレイラは、かつてウーモンの元に警告を与えに来た不可思議な女性であり、その素性は誰一人として知らなかった。ユーマは、《アスレルの子》の死が天の王宮に波紋を投げかけ、 神々が《虚無》の存在に気が付いた事をマリーナに告げた。そして、マリーナが、故郷であるスタンディングストーンを滅ぼされた復讐の為に、ザラダンと戦う決意を固めている事を聞き、 この後に訪れる戦いは、俗世の戦いではなく、《虚無》を放逐するための神々の戦いであることを指摘した。即ち、神々の大義の前に、個の復讐などに意味はない、と。そして、このまま マリーナが先へ進めば、否応なくその戦いに身を投じる事になる、と。
 マリーナは、神々がそれを求めているのであれば、その道具となりながらも己の目的を果たす事に異議はない、と応えた。
 その時、彼らの目の前に、一人の男が現れた。白い髪に白い肌、白い翼を持った、明らかに人間ではないその男が《虚無》であるとユーマは見抜き、彼女は問答無用で呪文を放つ。 ユーマの呪文によって傷付いた男は、みるみるうちにその姿を黒い翼と凶悪な双眸へと変じさせ凄まじい悪意と害意とを放ち始めた。ユーマとその見知らぬ白い男の敵意が、互いに 高まり合うのを見たマリーナは、二人の合間に入ってその場を収める。
 不意にその時、更に見知らぬ第三者がそこへ現れた。それは、《中立神》ロガーンの化身であった。ユーマは恐縮してかしこまり、彼女が《中立神》に仕える巫女であることが発覚する。 ロガーンは、白い男の風貌を元に戻すと、《虚無》がこの世界を訪れた訳を尋ねた。白い翼を持つ男は、彼らの住まう異世界から、こちら側の世界に紛れ込んでしまった仲間を捜すために 来たと答えた。ロガーンはその男を天の王宮へ連れて行こうとしたが、男はこの大地の上にいる筈の仲間を捜すために地上に留まることを選んだ。
 マリーナは男の目立ち過ぎる風貌をなんとかするために、一旦カランダへと連れ帰り、衣服を整えさせた。男は礼として、握り拳よりも大きなサファイアの原石を置いて去っていった。
 カランダを訪れた最後の客は、老いた騎士で、難民の一団を引き連れて来ていた。彼らは、南にあるフォースツリー村の村人で、フォースツリーの隣のスタンディングストーンがザラダンの 軍勢によって要塞化された為、戦禍を避けるべく村を捨てて逃げてきたのだと言う。老騎士は、名をギャラントと言い、マリーナはその名がウーモン・カンダールの師と同じである事に 驚いて、この事をウーモンへ知らせた。
 ウーモンは早速ギャラントをアッパーホースへ招き、十数年ぶりの再会を果たす。

 一方、セラフィナは、レオンラルデと共に学術都市ソノヴァへ辿り着く。
 ソノヴァで二人は、レオンラルデの知り合いである神官イーゴーと出会った。イーゴーは旅神フールクラの教えに従う神官であり、かつフールクラの加護を持つ神知者である。 そして、幼いレオンラルデを育てた養父でもあった。
 イーゴーはレオンラルデの使命を聞いて、『風の峰』が大陸中央を南北に走る中央山脈の南部にあると推測する。しかし、ソノヴァの南に広がるアッカ湿原を越えた向こう、大陸中央部では 戦争が始まっているとの噂があると言う。目的の『風の峰』へ辿り着くには、相当の苦難が待ち受けているようだった。
 セラフィナは時を改め、イーゴーに教えを乞う。神との契約を果たした者、即ち《神知者》とは何であるのか、そして《虚無》とは何であるのか。
 イーゴーは《虚無》を知っており、リーブラの神託に従って《虚無》を裁く事を誓っているセラフィナを窘めた。《虚無》である事自体が罪悪ではない、と。《アスレルの子》が失われた事に対する 復讐に囚われて《虚無》全てを滅ぼそうとする事は、親しい友人を殺した犯罪者が暮らしている街の民を全て問答無用で斬り殺す事に等しい、と。人を斬り殺す剣に善悪はなく、 その剣を使う者がどのようにして使ったか、が重要なのだ、と。
 イーゴーはあまり《虚無》についてを語ろうとはしなかった。セラフィナは更なる追求をしようとしたが、レオンラルデの眼差しは、それがイーゴーにとって余り触れられたくない傷である事を 告げていた。

 アッパーホースとウォーラの間で続けられていた鉄鉱石の交易に、障害が起きたのは数ヶ月後であった。
 二つの街を結ぶ街道に賊が出て、隊商が全滅したと言うのである。
 知らせを受けたウーモンは、マリーナと騎兵を引き連れて賊の捜索へ出る。ウォーラの街からはアービンが出て、彼らに協力した。
 しかし、賊の痕跡を見出す事は出来なかった。賊が駐留していたらしい跡は発見できたものの、それは既に古いもので追跡は叶わなかった。
 引き上げの手際のあまりの良さに、引っかかりを覚えた者もいたが、彼らはひとまずそれぞれの街へと引き上げて行った。
 ウーモン・カンダールは一計を案じ、大々的に喧伝をしてから偽の隊商を出立させた。勿論、商隊は全て兵であり、その中にウーモン自身とマリーナ、アービンも潜んでいる。
 ところが、不思議な事に、この隊商は何ら妨害を受けることもなく、ウォーラへ到着してしまったのだった。アービンの指示によって近隣の賊たちの同行を探っていたウィンドによれば、 偽隊商の話は既に広まっており、そんなものに手を出す賊が居る訳はなかった。
 アッパーホースへとって返したウーモンは、更に策を練る。街に賊の手下が紛れ込んでいる事はほぼ間違いはなかった。そうでなければ、偽隊商の情報がそんなにも早く発覚する 筈もない。
 ウーモンは、間者が紛れ込んでいる事を町中に触れ回らせ、一計を以てその間者を捕らえることに成功する。ウーモンはその間者を使って再び偽の情報を流し、隊商を装って 討伐へと出立した。
 今度の情報に、賊はまんまと引っかかった。討伐隊は隊商の変装をかなぐり捨てて、これに応戦する。賊は瞬く間にその数を減らしていった。
 ウーモンは、その賊の首領であるらしい女とまみえるが、その女が見知った顔である事に驚いた。
 二丁の戦斧を振るうその女は、かつてクリムゾン・ヘルカイトに居た七本刀の一人、ヘルブリンガーだったのである。
 ヘルブリンガーの技量はウーモンには及ばず、敗北した彼女をウーモンは揶揄するが、彼女は聞く耳を持たなかった。頑迷なヘルブリンガーに呆れ果てたウーモンは そのまま彼女を追放するに止め、賊の一団を捕らえてアッパーホースへ帰還する。
 かくして、再び交易は再開され、日常は取り戻されたのだった。

to be continue

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