旭日と落日
それは、余りに恐ろしい光景だった。
神への祈りの文句とともに、沢山の火球が一斉に目の前の軍勢へと降り注ぎ、薙ぎ倒す。肉の焼ける異臭が立ちこめる中、彼は混乱に陥る敵軍の中へと躍り込んだ。
統制の取れていない軍勢など恐れるに足らず、まるで嵐に薙ぎ倒される麦穂のように敵はばたばたと倒れていく。彼は巧みに騎獣を操って闇雲に襲い掛かる敵兵を避け、一際目立つ
飾り兜をつけた敵将へと鋭く肉薄していった。
彼の接近に気づいた側近らが、一斉に彼を阻むために前へと出たが、彼は無造作な槍の一振りを以て次々とその男達を血祭りに上げていった。
再び上空を、真っ赤に燃える火の玉が幾筋も過ぎり、今度は敵の軍勢ではなくその軍勢が守ろうとしている都市へと降り注いだ。今まで、彼らが幾度と無く攻め寄せながら、
ついぞ落とすことの叶わなかった白亜の都市の内側から、幾筋もの黒い煙が上がる。
その都市が如何に強固なものか、よく分かっている彼は、複雑な思いでそれを眺め、小さく溜息をついた。
打ち寄せる波に晒されながら頑として揺るぐ事のない岩壁にも似た、その白亜の都市は今まさに滅びの淵にあった。
容赦なく降り注ぐ強烈な日差しから人々を守るため白く塗られた家々からは火の手が上がり、逃げ惑う人々の泣き叫ぶ声が聞こえる。
もはや攻め寄せる敵軍を食い止めるだけの手勢はなく、あちこちから侵入した敵の兵団が都市中で殺戮を繰り広げている。彼らは、抵抗しようとする兵士だけでなく、
もはや戦う意欲もなくなった傷付いた兵や、逃げ惑う女子供までも、容赦なく殺して回っている。
都市を脱出しようとする民衆の群れを眺めながら、彼は苦い思いで溜息をついた。
傭兵として各地を転戦してきた彼にとって、敗戦を体験するのは初めての事ではないが、良い気持ちがする訳ではないし、慣れると言う事もない。
都が落ちた今、最早これ以上の働きに、何らかの報賞が出るわけでもなかったが、彼は残り少ない手下の兵を動かしながら、都市の南門に面した一区画を辛うじて持ちこたえさせていた。
尤も、その強固な門は今は開け放たれ、逃げようとする人々が一斉に流れ出している。彼が守ろうとしているのは、脱出口であって、その防備は全く当てにできない。
元々、外からの侵略者を阻むための造りをしているこの都市の、中央部の方から押し寄せてくる敵兵を食い止められるのは、あと僅かな時間だけだった。
大規模な魔術を用いての戦争など、まず誰もが考えることの無かった事だった。元来、魔術とは表舞台に上ることのない、秘められた技であるのだ。
その暗黙の了解が破られた今、これまでの常識は灰燼に帰したと言えよう。
勝者の騎士と、敗者の傭兵は、それぞれ全く違う場所、全く違う時間に、新しい時代の到来を確かに感じ取った。
外伝前話<<
戻る
>>外伝次話