クルシュの子(2003/11/03)
ファルカス[男騎士]、ディーン・エッジ[男騎士]、ダーム[男間者]、セリーナ・クレセント[女魔導師]
救出部隊を組織し、フォレン・アナーヴァへ急行したセリーナは、まず間者を放って街の様子を探らせた。そしてその間は救出に必要な呪具をつくる事に専念する。
日没と共に帰還してきた間者によると、フォレン・アナーヴァで最大の勢力を誇る《死神》クルシュの神殿が何やら慌ただしい動きを見せていると言う。
セリーナは、ディーンとダームが囚われているのはそこだと見当をつける。
その時、救出部隊が本拠地としているキャンプに何者かが訪れた。
色白で痩身のその男は、夜の闇の中を明かりも武器も持たず、身を隠すことすらせずに、たった一人で現れた。
その男は、クルシュ神殿に何かを仕掛けるつもりなら協力しよう、と申し出る。セリーナは警戒を強めるが、救出の際に混乱を引き起こして貰えれば好都合だと考えて
それを了承する。
尤も、その男にはどうにも信用できない雰囲気があることは否めなかったし、気狂いであるような雰囲気があったことも確かであったが。
一方、捕らえられているディーンとダームは、それぞれ別の独房に入れられ壁に繋がれていた。
《死神》クルシュの最高司祭であるゼパールは、それぞれを訪れる。
ディーンはゼパールの訪問を受けた時、この場にいない別の一人の存在を感じ取る。その気配は、彼らが去り、再び一人きりになったときにさえ、彼の側に残っていた。
やがて、彼の脳裏に声無き声が訪れる。
その声は、ディーンの過ちを責め、そして彼の束縛を解き放とうと申し出た。
ディーンはその声に聞き覚えがあるような気がしたが、一体誰のものかを思い出すことはできなかった。
手を取れ、と促す無言の声に応じ、ディーンは一縷の望みを賭けて、その手を取った。
セリーナは救出作戦の為、再び間者を放つ。
彼らが囚われているであろう神殿の正確な見取り図を取らせるためである。
そして、自身は自らの目で現地を確かめるべく、フォレン・アナーヴァに入ったのだった。
フォレン・アナーヴァのクルシュ神殿の周辺を確かめ、キャンプへ引き返そうとした時、彼女は自分を尾行する気配を察知する。
不視の使い魔を放って様子を見に行かせると、通りを一本隔ててがっしりとした体躯の男がセリーナの様子を伺いながら併行して来ている。セリーナは数多くある店の一つに
姿を隠し、自らの身代わりを使い魔に務めさせて囮として走らせる。
追跡者はその囮に引っ掛かり、超人的な身体能力を見せて家屋の上へ飛び上がると、囮の後を追って音もなく走り出した。
囮は商店街から離れるように走ったが、男のその脚力に敵うはずもなく、瞬く間に追い付かれてしまう。そして、追っ手はセリーナの使い魔に飛び掛かると、あっさりとその首を
へし折って息の根を止めた。
セリーナはその追っ手の害意を目の当たりにして戦慄したが、ぐずぐずすることなくキャンプへと引き上げた。
キャンプへ戻ったセリーナの元に、今度は間者の一人が駆け戻ってきた。
彼が言うには、先刻キャンプを訪れた男の仲間と名乗る老人が接触してきて、下水道からクルシュ神殿へ突入出来うる場所を教えようと申し出てきているとの事だった。
セリーナは暫し考え、それが罠である事も考えた上で、警戒しつつその申し出を受けるよう指示を下した。
独房の中で、自分に掛けられていた麻痺の魔術が解けたのを知ったダームは、脱出の為の準備に取りかかった。
セリーナの元には、この日最後の訪問者が訪れていた。
その訪問者は最初の男とは違い、剣を帯び、身を隠しながら、キャンプに近付いてきた。
その接近に気づいたセリーナが、協力を申し出てきた組織の者かと問い掛けると、その少年と言ってもいい程の若い男は微かな躊躇いの後にそれを肯定した。
少年は、セリーナに、彼らの協力を受け入れないで欲しい、と頼み込む。
彼の組織は、《創造主》を信仰する一団で、悪神信仰に対して抵抗しているのだと言う。しかし、その真意は、この街から悪神の組織を駆逐し、《創造主》を招来することにあると言う。
セリーナは、《創造主》即ち人間の創造主ロガーンは、完全な中立を唱えており、悪の神を駆逐するような事を認めるはずがないと指摘する。
しかし、少年は彼らの主が狙っているのは、それに間違いなく、神の招来によって他の人間を全て自分たちに隷属させることが目的なのだと繰り返した。
そして、彼はその目的に賛同できず、このフォレン・アナーヴァが今のままあって欲しいと願っているのだと言う。
しかし、セリーナはそれを受け入れる訳にはいかなかった。
少年は落胆し、帰っていった。
そしてその日の深夜、事は起きた。
ダームの独房に、二人の兵士が訪れ、彼を連れ出そうとした。
ダームは先刻からずっと縛めから抜け出そうと細工していた両腕を、一息に手枷から引き抜き、不意を突かれた兵士から小剣を奪い取るや二人の息の根を止める。
手早く衣服を奪って身に着けた彼は、ディーンを救出するために探索を開始した。
ところが、ディーンが居たと思しき独房の中には、誰も居なかった。しかも、手枷足枷にも扉にも鍵が掛かったままなのである。
ダームは、既にディーンが魔術かなにかによって救出されたものと考え、脱出に移った。
フォレン・アナーヴァの一角では、巨大な火柱が上がっていた。
それと同時に、何者かに煽動された暴徒の群れが街を襲う。
セリーナはこれを好機と見なし、部隊を三つにわけて作戦の実行に移る。部隊のひとつを率いて神殿へ急行しようとするセリーナは、その途上において、何者かが語りかけてこようとするのを感じ取った。
彼女がそれを受け入れると、脳裏に嗄れた老人の声が響き渡った。
声の主は、下水道からクルシュ神殿に侵入するが構わないか、と訪ね掛けてきた。協力を申し出たが故に、断りを入れたのだと言う。
セリーナは声と対話しながら、その触れてくる精神がまるで人間ではないような気がして、密かに感知魔法を放った。しかし、その風の魔術は“何もない”事だけを伝えてきた。
この感触は、紛れもなく《虚無》と類似していた。セリーナは念のために無属性の同じ魔術を放ってそれを確認する。すると、声の主はそれの魔術を回避し、嘲るような笑いを返してきたのだった。
セリーナは、声の主に、救出しようとしている二人を傷付けさえしなければ、何をしても良いと返事を出し、声はそれを了承した。
ダームは独房と同じ階に設えられている拷問部屋に立ち入っていた。
武器になりそうな物を彼がかき集め終えた時、部屋の一角の壁が微かに揺れた。咄嗟にダームが物陰に隠れた時、その壁はいきなり弾けるように粉々に崩れ落ちた。
その壁の向こう側から、醜く崩れた容貌の老人が足を踏み入れてくる。その老人は、惨たらしい拷問部屋の光景と、そのあちこちに残る血の染み、そして部屋に籠もる死臭を堪能するような表情を見せる。
ダームは密かに部屋を抜け出し、上階を目指すことにした。
神殿の護衛を使い魔で薙ぎ払い、内部への侵入を果たしたセリーナは、ここで初めてポートブラックサンドに待機したままのファルカスを呼び寄せた。
そして、救出に来たことをディーンとダームに伝えるべく、その精神に向かって語りかける魔術を解き放つ。
しかし、その魔術に反応したのはダーム一人だった。ディーンの精神は幾ら呼び掛けても応えず、まるで存在すらしないかのようだった。
セリーナが二人の生存を確かめる為に掛けていた、生命探知の魔術では二人ともこの場所に居る筈なのに、精神探査の魔術では一人しか反応がないのである。
セリーナ率いる部隊は、とにかくダームと合流し、恐らく儀式を行うであろうと思われている、神殿中央の霊廟へ向かうことにした。
霊廟の中は薄暗かったが、10名ほどの司祭が祭壇を中心に集っており、その中央では何者かが祭壇に乗せられた誰かを切り刻んでいる最中であった。
ポートブラックサンドの騎士に手を出した者が如何なる運命にあるのかを思い知らせるため、セリーナたちは祭壇へ近付き、そして信じられないものをそこに見出した。
祭壇の上に鎖で繋ぎ止められ、血塗れの生きる肉塊と化しているのは、クルシュ神殿の最高司祭ゼパールの姿であり、楽しげな表情で今もなおその身体と心とを痛めつけているのは、
クルシュ教団の法衣に身を包んだディーン・エッジの姿だったのである。
そのディーンが、ディーンの肉体に宿った"何か"であると悟ったファルカスは、その"何か"に向かってディーンを返すよう言い渡す。
しかし、"何か"はそれを拒絶した。そして、"ディーン・エッジ"はその"何か"がこの時の為にこの世に生じせしめた者であり、それゆえにその肉体は自分の物である、と言い放った。
長き時に渡り、あらゆる神々がこの世界に帰還するためにあらゆる手を試みてきたが、最初に成功したのは自分である、と。
その言葉は、ディーンの肉体に宿った"何か"が神であることを明らかにしていた。そして、その神が悪の勢力の第一人者である《死神》クルシュであることはもはや疑いようがなかった。
そう、ディーン・エッジは生まれながらにクルシュの加護を持つ人間だったのである。それゆえに、土の属性を持って生まれてきたのだった。
そして、今この時、創造主たるクルシュの元へ、己のあるべき姿へと戻ったと言うわけである。
ファルカスが尚も、ディーンの魂をどうしたのかと問い詰めると、クルシュは嘲笑った。その魂すらもクルシュの創造物である以上、"ディーン・エッジ"の肉体も精神も、全てがクルシュの
ものなのだ。
ファルカスは、ディーンを救うことは叶わずと見て、剣を抜き放つ。
クルシュは、"クルシュ神"の象徴武器である戦斧をいずこかから取り出し、迎え撃たんとした。
ディーンの得意武器が両手剣であることを知っているファルカスらは一時安堵したが、器であるディーンの技量を確かめたクルシュは斧を両手剣へと変じさせる。
その時、ダームの投げ放った石礫が狙い過たずクルシュの両手剣を叩き落す。
そしてその隙に斬り掛かったファルカスの長剣がクルシュの――そしてディーンの――首を斬り落とした。
セリーナは神殿に火を放ち、教団への制裁の仕上げと成した。
一行はディーンの遺骸を回収し、ポートブラックサンドへと帰還する。
彼らの気がかりは、赤神龍探索の任務であった。もっとも頼りとなるディーンを失った今、任務をやり遂げることが可能か否か、判断がつかなかったのである。
カルバーン王家の生き残りの手がかりを得たものの、それが本当に赤神龍を探し出すつてとなるのか、それは判らない。
ファルカスは魔王ハニュールに面会を申し込み、赤神龍探索行をどうするべきかを尋ねた。しかし、ハニュールは、その任務をまっとうする自信があれば続け、なければ止めるように言うだけだった。
その頃、セリーナの研究室では異様なことが起きていた。
持ち帰り、安置してあったはずのディーンの遺骸が、跡形もなく消えうせていたのである。必死の捜索にも関わらず、ついに遺骸を発見することはできなかった。
ファルカスはセリーナに会い、学術都市ソノヴァでディーンが調べていたはずの、中央山脈を越えるルートの捜索を続けてもらえるように頼み込む。
その結果いかんによっては、探索行を続けることが可能になるかもしれないと彼は考えていた。
セリーナはソノヴァへ赴き、図書館で文献を調べたが、道らしき道はやはり見つからず、強いて方法を挙げるならば中央山脈南部にいる山岳民族を頼ることぐらいしかないことを確認した。
ポートブラックサンドへ戻ったセリーナは、今度は『無名の闇』の導師の中に、山脈の向こう側を知っていて魔術によって到達することの出来る者がいないかどうかを師であるアルノウェランに尋ねたが、
その返事は、唯一向こう側で転移門を開ける場所は、魔王の山の麓付近であり、それには大きな危険が伴う、とのことだった。
市井に戻ったダームは、赤神龍探索を独りでも続けるつもりで、更なる情報を求めて所属組織《黒真珠》を使う。
中央山脈を越える間道が無いか知りたいと言うダームに、組織のメンバーは大陸の半分から南はほとんどが勢力圏外であって、交流も無いことを告げる。しかし、今ちょうど東の方から
来た客人をかくまっていると言う。ダームは藁にもすがる思いで、その人物に会わせて貰えるよう頼み込んだ。
その人物に対面したダームは、それが見知った男であることを知って驚いた。
それは、探索行の途上で出会った、《青き暴風》ヴォルフィンの連れの魔導師ケリスであった。
ケリスは、ダームの求める中央山脈越えのルートは知らなかったが、中央山脈山中の場所ならば知っていると応えた。その近辺には山岳民族が住んでいるので、彼らの案内を得て行けば
山を越えることができるだろう、と。しかし、その道は険しく、容易なものではないと彼は警告した。
そして、組織にかくまって貰っている恩を返す意味でも、そこまでの転移門を開いても構わないと彼は言った。ただし、ケリス自身はそこへは行かないし、開くゲートも一方通行だ、と。
ダームはファルカスに連絡を取り、赤神龍探索を続けるか否かを尋ねる。
ファルカスはセリーナを呼び、今まで得た情報を揃えて任務か可能か否かを検証する。
ダームが協力を取り付けたケリスの術があれば、山越えは不可能ではないと考えられた。やがて、彼は赤神龍探索の任務を続行することを決意する。
ダームがその旨をケリスに伝えに行くと、今度はヴォルフィンもが一緒にそこにいた。
ケリスからディーンがクルシュの器となってしまった事を聞いていたヴォルフィンは、意外にも同情を見せ、弔意を述べた。
彼の言うことは相変わらず意味がわかりにくいことばかりだったが、ダームにはヴォルフィンもまた何らかの神(彼の場合は明らかに嵐神スーク)の器として選ばれているのではないかと思えて仕方がなかった。
to be continue
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