パンガラの娘(2004/02/01)
ファルカス[男騎士]、ダーム[男間者]、セリーナ・クレセント[女魔導師]
一行は、再び赤竜探索へと旅立った。
ダームの頼みによって、中央山脈の南部へ通じるゲートを開いてくれることとなった魔導師は、郊外の森で待っていると言う。
ダームの案内でその場所へたどり着いたファルカスとセリーナは、そこに見知った魔導師ケリスの姿を見て少し驚いた。
ケリスは、一行を中央山脈西側の中腹へ送ると言った。そして、開くゲートが一方通行であることも言い添えた。
一行がそれを承諾したとき、ブラックサンドの街の方から何者かが近付いてきた。
セリーナには、その姿を見る前から、その人物が騎士ヴォルフィンであることが何故か判っていた。近付いてきたのは、その通り、馬に乗ったヴォルフィン・アイリスであった。
ヴォルフィンは、ファルカスに向かって、ディーン・エッジを殺したのが彼であるのかを尋ねた。
ファルカスがそれを認めると、彼は、クルシュが死と破壊の神であることを指摘し、殺害と言う方法でディーンを救うことは出来ないと告げた。
そして、今やクルシュの器となったディーンが、ボートブラックサンドのあらゆる悪神教の信者を引き連れて出ていった事を告げた。ディーン=クルシュは、己の野望を果たすために
自らの配下である魔界の四天王を召喚しようとしているのだと言う。
ファルカスは、ヴォルフィンの言葉に戸惑う。どちらにせよ、任務のある今は、ディーンを追う訳には行かなかった。
魔導師のケリスは、ヴォルフィンの勝手な振る舞いに怒り、軽率な行動を諫めたが、ヴォルフィンは聞く耳を持たなかった。彼は、ディーンを襲った悲劇を、己の身に迫るものとして
見ているようだった。
とりあえずケリスは言い合いを収め、一行を中央山脈へ送るためのゲートを開いた。
一行がそのゲートをくぐると、そこはボートブラックサンドから遠く離れた岩だらけの荒涼たる山脈であった。
そして、一行はそこに、ついてくるはずのないもう一人の姿を見つける。
一方通行のゲートをくぐり、ヴォルフィンが着いてきていたのである。彼は、この山脈に妙な風が吹いている、とだけ言い、そしてセリーナを呼んだ。彼はセリーナにだけ話したいことがあるようだった。
セリーナがヴォルフィンについて、一行を離れると、彼は唐突にセリーナに向かって今までの己の言動の無礼を詫びた。
彼が憎んでいるのは“ヤツ”であってセリーナではない、と。セリーナの存在にその気配を感じとり、ああいう態度を取ったのだ、と。
セリーナは、ヴォルフィンが《嵐神》スークの加護を受けた戦士であることを聞き、そしてその加護は彼が望んで得たものではないことを聞いた。
そして、遠くに見えるクレバスの奥が、風の神域へ通じていることを聞いた。
風の神域の中で、ヴォルフィンはスークと出会い、加護を授けられたのだと言う。そして、風の神域は、竜などの恐ろしい怪物が住まう場所だと彼は言った。神域の中で、彼は何度も死にかけたのだと。
ヴォルフィンはしばしば“竜”と言ったが、セリーナはそれが、突風や暴風であって、彼がそう思いこんでいるだけではないかと推察する。
ヴォルフォンは、セリーナが一体何者なのかを知りたがったが、それはセリーナにも判らないことだった。
ややあって、二人は件のクレバスの辺りに幾人かの人影を認めた。それは、ファルカスら(と、後を追ってきたケリス)の目にも見えていた。
彼らはどうやら、冒険家の一団のようであった。その一団はこちらの方へ向かってきていた。セリーナが遠見の呪文を放って見てみると、その一団は手練れの戦士や野伏らしい
男達で構成されており、その中心には《運命と幸運》を司るシンドラ神のシンボルを身に着けた聖職者らしい人物がいることが見てとれた。
ファルカスは、彼らがここから少し下りたところにある村を訪れるであろうことを推察し、現地の案内人を先に確保する為にダームと二人で村へ急いだ。
一足先に村へ着いたファルカスは、現地の案内人を頼み、宿を確保する。
しかし、案内人はすぐに見付かったものの、この界隈は山の荒神の領域が近いために天候の予測がまるでつかず、先の天気を知るためには近くの谷に住む仙人に伺いを立てねばならないのだと言う。
ファルカスはそれを承知し、返事が来るまでの3日間を滞在することに決めた。
ヴォルフィンと別れ、後から村へたどり着いたセリーナは、先程の冒険者の一団と顔を会わせようと村の通りにいた。
やがて訪れた冒険者達のリーダーは、シンドラ神の聖職者であるようだった。
その聖職者は、クランロガールの神殿に仕えるレオンラルデと名乗る。そう、かつてセラフィナが世話になったことのある司祭であるが、彼らはそれを知らなかった。
レオンラルデは、シンドラ神の神剣『運命の剣』の探索のため、この山脈を訪れたのだった。
ディーンの件もあり、聖職者に警戒心を抱くファルカスは、ダームと共に借りた一室に籠もり、己の《虚無》を悟られぬよう細心の注意を払うことにした。
幸いなことに、レオンラルデの興味は例のクレバスにあり、たまたま同じ村に滞在することになったもう一組の一行にはあまり興味を抱いている様子はなかった。
しかし、翌日の夜、レオンラルデはセリーナの元を訪れる。
クレバスの調査に赴いたレオンラルデは、そこに魔術によって封印を施された洞穴を発見したのだと言う。しかし、その魔術はレオンラルデの手に負えるものではなく、魔導師であるセリーナの
力を借りたいのだと言う。
セリーナは、ファルカスとダームの《虚無》が発覚するような危険を冒したくはなかった。しかし、断る理由はあまり無かった。
彼女は、先を急ぐ旅であることや、仙人の託宣次第では直ぐにも出立することを理由に、仙人の元へ出た使者の返答次第だとして返答を保留した。
レオンラルデは承諾し、引き上げていった。
セリーナは、クレバスに興味を覚え、魔術を使ってその場所を探ることにした。
一匹の使い魔を放ち、裂け目を見てみると、そのクレバスは強い風の力で満たされているのが見えた。これでは、“魔術によって封印された洞穴”を“魔力探査”によって探知するのは
不可能に等しかった。
セリーナは使い魔と同調し、そのクレバスに足を踏み入れる。
その時突然、風の魔力がセリーナに襲い掛かり、油断していた彼女は昏倒した。
気が付いた時、彼女は真っ白な霧に覆われた見知らぬ空間に独り佇んでいた。
セリーナの異変に気付いたダームは、彼女の意識を取り戻すべく手当てを施したが、応急処置などの手段ではどうにもならないことに気付く。
彼はセリーナの心を探るべく、術を組み立てた。
霧の中に閉ざされたセリーナは、ある方向に強大な存在を感じ取った。彼女はそれを恐れ、そこから立ち去るように歩き始めた。
しかし、どこまで歩いても光景が変わることはなく、辺りに不可視の風の精霊が蠢くのが感じられるだけだった。不意に風の唸りが轟いたかと思うと、半透明の竜がどこからともなく現れ、
セリーナに向かって襲い掛かり、寸前で消散する。
セリーナは、その“竜”がヴォルフィンが語っていたものと同じ事に気付き、この場所が風の神域であることを確信した。
その時、彼女は背後の強大な存在が、何かを語りかけてくることに気が付いた。耳を閉ざせば、聞かずに済む程度の囁き声だった。
ヴォルフィンを見舞った災難が頭をよぎり、彼女はその声に耳を傾けるか否か、大いに迷った。
ダームの術により、セリーナの心が遠く離れたクレバスの方向にあることを察知した二人は、村を抜け出し、クレバスを目指した。
セリーナを決断させたのは、学究の徒としての知的好奇心だった。
彼女は覚悟して“声”に耳を傾ける。
声はセリーナに向かって『わが娘』と呼び掛けた。そして、セリーナの何者かとの問いにパンガラと答えた。
パンガラとは、《風》の神である。セリーナ・クレセントはパンガラ神が何らかの使命のために、この地上に使わした存在だと言うのだ。
パンガラは、神界を出て再びこの世界へ戻ることを欲していた。セリーナは、神話に語られる顛末を挙げ、神々がこの地から離れざるを得なかったのは、神々の戦によって《時》が放たれた為であり、
己らの所為で離れたものを今再び帰って来ようとするのは勝手ではないかと突き付けた。しかし、神は、この世界が神々の手によって作られたモノであることを理由に、その言葉に耳を貸すことはなかった。
そして《時》を超越するための手段には、何らかの形で人間が関わっていることをほのめかす。
パンガラはセリーナに、彼女がまだパンガラの加護を受けるに値しないと告げ、力が足りた時に再びこの場所を訪れるように言った。
セリーナは、神々の傲慢さと狭量さを見、それに拒否感を覚えた。
その感情を知ってか知らずか、パンガラはセリーナを解放し、元の身体へと送り返した。
セリーナは元の部屋で目覚め、その開放を探知したダームとファルカスは村へと引き返した。
翌日、仙人の託宣を携えた使者が帰ってきた。仙人によれば、非常に珍しいことに山の天候は暫く崩れる様子はないとのことだった。
セリーナはレオンラルデ一行に、少しだけ助力することを決め、一人でレオンラルデ達の探索行に一時同行することにした。
レオンラルデは感謝し、彼らは再び風の神域へと通じる裂け目へと向かう。
レオンラルデが言った洞穴は、一見、ただの崩落した横穴に見えたが、穴を閉ざしている岩石の類はいかなる方法をもってしても崩すことはできないよう、厳重に魔法が掛けられていた。
セリーナは、その封印を掛けている術式を見抜くと、解呪に取り掛かる。
彼女の呪文は成功し、洞穴を封じていた落石は崩れ落ちた。
洞穴の奥には、古い台座とその上に置かれた一振りの長剣があった。風のルーンの刻まれたその剣を、レオンラルデは手にとったが、それを引き抜くことはできなかった。彼だけでなく、その場にいる
誰一人でさえも、その剣を抜くことはできなかった。
レオンラルデは、それが神剣たるがゆえと考え、この剣が『運命の剣』であると確信した。
神剣を携え、村へ帰ったレオンラルデ一行は、セリーナに礼を述べ、もしもクランロガールへ立ち寄ることがあれば、自分のいる教会を訪ねてくるといい、と言った。しかし、今はクランロガールは
悪魔の山の《魔王》との交戦状態にあると思われるため、大した助力はできないかもしれない、と彼は付け加えた。
セリーナは、そのはからいに謝意を述べ、以前に行動を共にしたセラフィナの話を切り出した。彼女が命を落とし、既にこの世にはいないと言うことを。
もちろん、彼女が共に行動していたことは伏せて、ではあるが。
レオンラルデは、かつて共にいたセラフィナが既に死んでいたことに、さほど驚いた様子は見せなかった。ただ、悲しそうな顔を見せただけだった。
to be continue
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